5-4 創造
土曜投稿忘れちゃ。
誰もいない学校。風が窓を打つ音が響く。
学校に肝試しにでも来ているかの様な雰囲気だが…今日はだいぶ晴れている。雲も身を隠している。
「あ…杏ちゃん大丈夫なのかな…?」
「舞ちゃむびびってるのぉ〜?」
「私強いもん!杏ちゃんの方が怖がってるんじゃないの〜?」
クネクネと体を動かし可愛い顔を覗かせる舞。特に八重歯がその幼さを際立たせる。
さらにメスガキみがあって…心の奥底に封印してた感情が蘇る。
「…舞ちゃむは本当に強いもんね…」
いつもの様に怒る猫を撫でる美人飼い主の様な、目に入れても痛くならない言い争いもしない杏。こんな事は初めてだった。
体調が悪い日でも杏と対決を繰り返してきた。
「杏ちゃん?どうしたの…?」
「だ!大丈夫!行こっか舞ちゃむ」
「うん…!」
杏は舞の手を掴んでさらに奥へ進む。
その手は震えていた。
2階の階段を登る足音が静かな校舎に響く。
これほどまでに静かな校舎は終業式以来だ。
「大丈夫だよ杏ちゃん」
力強く手を握る舞。思わず杏は振り向く。
「え…?」
「杏ちゃんに何があったかなんて分からないけど…」
「私はずっと杏ちゃんの味方だよっ!」
「舞ちゃむぅ…!」
「可愛い!もう大好き!」
「ふえぇっ!?危ないよ!?」
階段だというのに普通に舞を抱きしめる杏。
震えなど消え去っていて本当に愛らしい物を抱きしめている様な…そんな感じがしました。
ザチャ…
その濡れた物が這う様な音に顔が青ざめる。
学校の七不思議にもあった"這い寄る少女"。
事故で下半身と左腕を失った少女の話だ。
「…お…お化け…?」
「舞ちゃむお化け怖いのぉ〜?」
「お化けは舞パンチで倒せないから怖いの!」
舞パンチ…。
名前だけ聞くと子猫のパンチの様に聞こえるが、おそらくえげつない威力なのだろう。
軽く殴るだけで扉に穴が開きそうだ。
それに舞はパンチの威力を理解していないのが怖すぎる。こんな可愛い顔して…かっこいいね。
ヌチャ…
「ね…ねぇ…こっちに近づいてきてない…?」
「…も!もう杏ちゃん逃げようよ!」
「でも勇が…!」
「あ…そっか…」
一段一段噛み締める様に登っていく二人。
舞のモチモチの頬とハリのある杏の頬がくっつく。美容液のCMでこの二人が登場したら間違いなく売れるだろう。
突然、杏の体中に広がる嫌悪感。
それと同時に恐怖心も襲いかかる。
「…!舞ちゃむ…!」
「ど…どうしたの!?」
「逃げよう…」
「えっ!?でも勇くんは…?」
普段の自信家で少し調子乗りな杏。
だが今の杏は目に涙を浮かべていた。
それはとても弱々しく蚊のなく様な声で呟く。
「ウチ…死にたくないよ…」
「え…?」
「美少女二人が俺の為にやッて来てくれたのかァ…?」
その声に鳥肌が立つ。
「ロリの巨乳と…美人なスレンダー…」
「味比べでもしてやろうかなァ?」
声の方向は階段の上からだった。
恐る恐る顔を上げると…二人はその姿を見て言葉を失う。
「お…"お父さん"…」
「俺に会いに来てくれたんだろォ?」
「お父さん…?杏ちゃんどういうこと…?」
「い…嫌だぁ…勇…助けてよぉ…」
「アイツなら今ごろ死んでるんじャァねェかァ?」
「う…嘘…」
「まァ安心しろよォ…」
「散々そのロリと一緒に使った後にすぐにアイツと同じ場所にいくことになるからなァ…」
「杏ちゃん…!早く逃げようよ!」
「あのお化け這ってでしか動かないといけないから走ったら逃げれるよ!」
「う…うん…」
舞は杏の手を引いて階段を降りようとする。
だが杏の足は動くことはなかった。
スッ…
体が空中に浮きあがりスカートが巻き上がる。
舞の剛腕に引っ張られ杏は階段から落ちたのだ。
しかももう9段目までは登っていた。
ドンッ!
激しい音と共に足に走る痛み。
「ン…っ!」
「あ…杏ちゃん」
「ま…舞ちゃむ…太った…?」
「…体重変わってない…」
杏は少し笑みを浮かべるがそれは苦痛の笑みだった。
階段から落ちた時、咄嗟に舞の下敷きになったのだ…。推定55kgの舞に押し潰される…。
「わ…私のせいで…」
「泣かないで…舞ちゃむ」
「舞ちゃむは早く逃げて」
「嫌だよ!友達が危ない目にあうって分かってるのに!」
「私は杏ちゃんの側にいる…!」
腕だけで階段を降りてくるヴォア。テケテケの様だ。
その目の前に両手を広げて立ちはだかる舞。
舞の足は心配になるほど震えていた。
「自分から体を差し出すのかァ?」
「バカな事言わないで…!」
「わ…私が杏ちゃんを守るんだから!」
「そんなビビりのガキが守るだッてェ?」
「力ねェやつに何が守れるんだァァ?オォイ…」
「力が無くたって…守れるもん!」
「バカな人間の理想論だなァ…」
ヴォアはよだれを垂らしながら笑い、震える舞の元へ近づいてくる。
「バカなお前ェに教えといてやる…」
「力が無いやつは誰も守れねェ」
「そんなことない…!」
「ならお前ェの後ろの奴に聞いてみなァ?」
「お前ェの後ろの女は何も守れねェで目の前で家族を殺されたんだぜェ?」
「何もできずによォ…」
嫌な笑みを浮かべる。唇には謎の粘膜が付いていて、高級ピザのチーズの様に伸びる。
笑われている杏は何も言わない。
ただ痛めた足を押さえ、薄らと涙を流す。
「な…!なんであなたは…力を悪い方向に使うの…!誰かを守るために使えないの?」
「うあァん…?まァ強いて言うなら…」
「自分を守るためこの力を使う…それだけだ」
「…酷いよ…酷すぎるよ!」
「も…もういいの…舞ちゃむ…」
震える声で囁く様に呟く杏。震えながら舞のスカート裾を掴む。スプーンの上に乗っている物を落とさない様にしているようにも見えた。
「悔しいけど…アイツの言ってる事は本当…」
「ウチが弱いのが全部悪いんだよ!」
「ふッ…良く分かッてんじャァねェか…」
「ねぇ…"お父さん"…?」
「なんだァ?」
「ウチには何してもいい」
「…でも舞ちゃむは何もしないで」
「杏ちゃん!」
「舞ちゃむ…ウチ…もういいや…」
ヴォアは舌で口の周りを一周する。
女子高生を狙う変態親父にしか見えなかった。
腕の血管がドクドクと脈打つ。
ビュンッ!
ヴォアは腕の力だけで全身を浮かす。
「キャッ…!」
杏の前に立っていた舞を片手で跳ね除け、ボロボロに涙を流す杏の元へ飛びつく。舞は両手を付いて倒れる。
爪を尖らせ杏に向かうヴォア。
杏の表情からは正気が感じられなかった…。
ビュンッ…!
杏はボロボロな姿になりヴォアに犯される。
…その光景を思い浮かべた舞は、慌てて立ち上がる。
だが実際にはそんな事は起きてはいなかった…。そこに杏は居なくなっていた。
困惑するヴォアと舞…。
舞の背後から声が小さく響く。
「もう俺の大切な人を傷つけないで…」
涙ぐんだその声の主は…風華だった。
その腕の中には小さく縮こまる杏がいる。
普段の優しい声からは考えられないほどの憎しみがこもっている声。その声が向けられていない舞でさえも全身に鳥肌が駆ける。
「お前ェも懲りねェなァ…」
「今度は誰を犠牲にして逃げるつもりだァ…?」
「あの天使様は上でくたばッちまッてるかもなァ?」
「…一体お前はいくら人を傷つければ…満足するんだ…?」
「さ〜なァ…少なくとも後50人は…殺すつもりだぜェ?」
「そっか…」
吐き捨てる様にしたそっけない返事。
「でもみんなが可哀想だよ…?」
「ハッ!力の無い奴に同情しても何も返ってこない」
「何も返ってこなくてもいいよ…」
「平凡なヒーロー気取りかァ?」
風華は腕を解き杏は床に座り込む。
「ううん…違う…」
「…ッ!?」
ヴォアの額からは汗が流れ出る。
特別ここが熱いわけじゃない。
このフロアには水槽がある場所で、むしろ他の教室や体育館よりは涼しいくらいだった。
ヴォアは目の前で揺れ動く様に立つ風華を睨む。
「なんだァ?」
「みんなが居なきゃ…俺はダメなんだ」
「勇も…杏も…舞さんも俺の大切な人なんだ…」
「俺は決してかっこいいヒーローじゃない…」
「全部自分のためなんだよ…ッ!」
ビュン…
セミが耳元で走った様な小音が鳴る。
…目の前で涙を流していた風華はいない。
だが気配だけはこの場所に確かに残っている。
ヴォアの体から冷や汗が流れ出す。
トン…
撫でる様にして触れられる背中。背中を押すほどの力では無く…蚊でも止まったのかとも感じるほど…。
しかし冷気の様な殺気が肌にヒリヒリと伝わる。
「な…舐めやがッてェ…!」
目だけで後ろを見るとそこには風華がいた…。
攻撃するでもなくその優しい瞳。
その奥には地面を通じて伝わるほどの憎しみが燃え盛っていた。
「辞め…ッ!」
「創造…」
「転移…!」
ビュンッ!
「何が…起きたの?」
か細い声で杏が呟く。
「…わからない」
「けど私たちはここから出る事だけを考えよう!」
「杏ちゃん!肩貸してあげるから早く!」
「…舞ちゃむ…カッコいいところもあるのね…」
「私はかっこいい女の子だもん…!」
屋上からは誰かが走り回ってるのかと思うほどの激しいぶつかる音が響いている。
誰もいないはずなのに…。
数分の時間を掛けてグラウンドに出る…。
何も知らない生徒たちが有名な人なのだろうか…?大道芸を見てはしゃいでいる。
そしてその隅にはフロルと…勇の姿があった。
「勇…っ!」
勇の姿を見るやいなや杏は走り出そうとする。
だが足の痛みに体がピクッと反応するとその場に膝をつく。
「杏!」
膝をつく杏を見た勇は手を大きく振り走り出す。その片手にはフロルの首が掴まれていて走るたびに揺られている。
「ヴォアは…?」
「風華がどっかに連れて行った…」
「じゃあ風華は…!?」
「…わからない」
「フンッ…ヴォアに勝てる訳がないコロ」
「どこかに連れて行かれて死んでるコロよ」
「…あっ!風華くん!」
「え?」
舞の指さす方向には風華がいた。
だがいつもの風華とは様子が違った。
いつもの風華ならテクテクと歩いているが…今現在目の前に映る風華はフラフラと左右に揺れ動いていた。
あの一瞬でヴォアと飲み会でもしてきたのかと思った。
「…風華くん!?」
舞は風華の元へ走り出した。
勇は杏のことが心配で…まぁ風華の事はちょっと心配だった。嘘だ、結構心配だった。
フラフラと歩く風華の前に立った舞。
風華は舞の顔を見ると小さく微笑む。
遠くから見ると美少女が二人並んでる様にしか見えない。お姉ちゃんの心配をする妹ちゃんだ。身長差的に。
「だ…大丈夫…?」
「ていうかあのお化けはっ!?」
「…もう大丈夫だよ」
「舞さ…」
ぱふっ…
舞は激怒した。
必ず、かの…と続きそうだが本当に舞は怒っていた。
それもそのはず…風華は胸の上に頭を乗せたからだ。胸の上に飲み物を乗せるやつみたいだ、タピオカチャレンジと言うらしい(調べた)。
舞の胸は人をダメにするソファーの様だ。
正直…風華が羨ましい。
「あ…あれ?風華くん…!」
舞は顔を真っ赤にして慌てる。
風華は寝息を立てて目を瞑っていた。
気持ちよさそうに寝ている…。家の中にいる様に寝ている。
「な…何この気持ち…!」
「嫌だけど…!嫌じゃない!」
数秒のうちに数々の思考を巡らせる。
好き…?…いやそんなんじゃない。顔はほとんど女の子なのだから、恋愛感情は…無い。
「分かった風華赤ちゃんなんだ…!」
「寝顔…可愛い…二歳児だぁ…!」
弱冠16歳の舞、母性を感じる。16歳の母…は今時普通になってしまっているのだろうか。
たまにカッコよく見えるのは…息子の成長を感じ取る親なのだろう。
胸で頬をスライムの様に伸ばして眠る風華。
起こしたくないと思ったのが何よりの証拠だ。
「…!?えっ!?」
「舞ちゃむと風華…!?」
「あ!あんたたちまだ16歳でしょ!変なことしちゃダメに決まってるでしょ!」
「わ…私お母さんになったの!」
「この子は誰にも渡さないわっ!」
「舞ちゃむ…」
「大人になったのね…」
結婚式の父親の様に涙ぐむ杏。
杏も杏で舞のことを娘だと思っている。
まぁ杏は可愛いものをみんな娘だと思っている。もちろん風華も娘だと思われてる。
先ほどまでの荒波はどこへ行ったのか…。
いつもの平穏な光景に笑みが溢れる。
「きしょいコロ」
「…主人公ぶってるんだから黙っとけ!」
「…あのチビ男が本当に殺したコロか?」
「ヴォアの戦闘能力は異次元だコロ」
「知らん…」
「お前とアイツは同じグループだったのか?」
「…そうだコロ」
「ていうか!お前!俺を襲ってこないのか!」
「暴力事件を起こしたら捕まるでしょコロ?」
「私は今バイトしてるコロからシフト飛んだらダメなんだコロ」
「…なんで人間世界に普通に馴染んでるんだ」
「じゃあ…もうそろそろ仕込みの時間だコロから」
「あ…じゃあ…さよなら…」
静かな教室に一人…。
小さく涙を流す男がいた。
「わ…忘れられてるな…私」
霊愛はスタッフが美味しくいただきました。
ネズミやイモリの走るあるくらい一室。
石の上を歩く音が大きく響く。
「やはりあの男の能力は創造で間違いない様だな…」
「ヴォアはあの男に封印されたようです」
「全く蘇生し…体に改造を施したと言うのに…」
「だがあの創造が笑伝でなく人間風情に渡った事を知らせてくれたのは良い働きだった」
「あやつはまだ創造を使いこなすには時がかかりそうです」
「今のうちにここへ連れて来させるのが得策かと…」
「コンダー出てこい…」
タンタンッ…
石の地面を2回足で叩く。
すると影から大きなヘルメットをした影が姿を表す。
「話はお聞きしました…」
「その任果たして参りましょう」
「その風華という男を連れて参ります」
「…勇という黒縄の奴を連れてこい」
「あいつの能力は雑魚中の雑魚…」
「必要ないのでは?」
「いや…そいつも連れてこい」
「了解いたしました…」
「父様…」
恋愛漫画は付き合った後を描くと大体面白く無くなると思います。
次は8日(月)投稿です




