5-2 秒速0.5センチメートル
HUNTER×HUNTERの最新巻がでるらしい。
2階の教室の窓から見える、揺れる木。
今日の平均風速0.5m/sだ。全くこのスマホの天気のアプリは信用できない。こんなほとんど後出しジャンケンだ。
しかしその揺れはすぐに終わった。
木々たちが萎縮している様にも感じた。
「ちょ…ちょっとトイレ行ってこようかな…」
「その必要はねェぜェ…」
窓の外から声が聞こえる。
この声…この奥歯にティッシュを詰め込んだ様にモゾモゾとした声。勇の知る限り…アイツしか存在しなかった
「お前は本名VOR…通称ヴォア!」
「ふッ…わざわざ紹介ありがとよォ…」
「俺はよォ…」
「お前ェにも恨みがあんだよォッ!」
パリィッンッッ!
ヴォアの咆哮によって教室の窓ガラスが、破裂する様に割れる。
その破片は勇の全身を捉えた。
「グ…ッ!」
深く刺さる事なく全ては掠る程度に収まる。
…だが破片は撒菱のように散らばり、勇の体からは血が噴き出る。
「相変わらず…物騒な奴だな…」
目の絵に現れた窓枠に手を突くヴォア。
不揃いに割れた窓ガラスが手に刺さっている。…だが流石人外というべきか、そんな事興味無さそうに涎を垂らす。
「この火傷…今も痛むぜェ…」
焼け焦げた跡が目立ち、下半身は鳥の様な毛に覆われている。黒目などなく恐怖心を誘うし白目。あの監視映像の通り背中には左右計6本の大きな骨が備えられていた。
「あんな状態からよく生きてたな…」
「また運の良さで生き残ったのか?」
「あァ?」
「相変わらず消えねェ減らず口だなァ…!」
「まぁそりゃ減らず口だからなぁ」
「ハッ!」
「まァ…死んじまえばその口も利かなくなっちまうがなァッ!」
ヴォアは大きく一歩踏み込む。
すると地面はモーセの海割りの様に地面が割れ、付近の机は力無く倒れる。
「死ねやァッ!」
眼前に迫り来るヴォアの拳。勇の顔の1.5倍はありメリケンサックでもつけているかの様にゴツゴツした握り拳だ。
だが勇の顔には嘘の様な余裕の表情が張り付いついた。
「黒縄…」
「張れッ…!」
ビュンッッ!
教室の至る所から放たれた黒縄。
それはヴォアの黒縄を捉えたッ!
ビヨォォンッ!
この張り詰めた空気に似合わない音が響く。
「グヌゥッ!」
その拳は黒縄によって弾き返され、窓際へと吹き飛ばされる。
---
能力説明サイト [黒縄の強点]
その1,豆知識にも書いてあった通り!壁や床に黒縄を隠すことが出来るぞ!これを"仕込"と言う!
普段は2本しか同時に出せない黒縄だが、この"仕込み"では無限に黒縄を出せるぞ!
黒縄に命令したら一気に放出も出来るぞ!もちろん一本ずつ放出も出来るぞ!
[黒縄の強点 終了]
---
「チッ…小賢しいィッ…!」
「脳細胞も焼け死んじまったのかい?」
「今日はビビらねェんだなァ…」
「は…そう見えるかい?」
「バケモノ相手に…ビビらない奴はいないぜ?普通の人間ならな…」
生意気な口調とは裏腹に震えている勇の足。
何に慣れても付き纏う死の恐怖には怯えている様だ。
「ハッ…」
息を吐く様にして笑うヴォア。
冷酷で不気味な雰囲気を漂っている。
そして背中の真っ白な骨を右腕で一つ引き抜く。それは自然に右腕と合体し、右手は完全に消え去る。
引き抜かれた骨があった所からは、紫色にも似た血がナイアガラの滝の様に流れ出ていた。
「…ハァッ!」
ドォォンッ!
ヴォアは大きく足を踏み込む。骨がハマった右腕を振り翳しながら…。
「バカめ…黒縄があるからこっちには近づけな…」
スパァッンッ!
鮮やかな音と共に目の前の黒縄は真っ二つに切られる。運命の赤い糸が途切れたのかと思った。それくらいの絶望感があった…。
繊維は無数に解れその場に落ちる。
「終わりだぜェッ!」
骨の無い左腕が眼前に迫り来る。
…だが勇の表情は思い出したかの様に、余裕の表情に徐々に変わっていく。
「穿てッ!黒縄ッ!」
厨二病フレーズと共に地面から現れた黒縄。
それは余裕の表情のヴォアの顎を捉えた!
ガゴンッ!
鈍い音と共に吹き飛ばされたヴォア。
背中に強い衝撃と共に弾かれたポップコーンの様に奥歯が吹き出る。
普段のふにゃふにゃで弱々の黒縄からは考えられないほどの威力だ。設定ミスも疑ってしまう。
「そ…そういえば!」
---
能力説明サイト [黒縄の豆知識]
その1,仕込まれた黒縄の威力は3倍になるぞ!この弱みと強みを活かして相手を翻弄しよう!
注意:普段の黒縄の威力は発泡スチロールは打ち砕けて、窓ガラスは割れないほどです。
---
「痛ェじャァねェかァ…」
「黒縄…お前強いんだなぁ…」
感心してしまう。我が子の成長を感じ取った親の気持ちになっちゃうねん。
「じッくり痛ぶりたかッたからよォッ…」
「手加減しようと思ッてたんだがよォ…」
まだ骨の付いてない左腕をゆっくりと背中に回す。動物園の猿の様に呑気にゆっくりと…。
「ガァァッ痛ッえッ!」
左腕に噛み付く様に背中の骨が付く。
「こうなッちまッたら…その黒縄はただの可愛い繊維の塊だ…」
「それはどうかな!」
床を一回音が鳴る様に踏み込む。
トンッ…と音が鳴るが、その音を掻き消す様な風の音と共に黒縄がその地面から斜めに放たれる。
「効かねェッ!」
両腕をクロスにして腕を振り下ろす。
スパァンッ!
真っ二つに切れてしまう黒縄。
驚きのあまりぽかんと口を開けることしかできない。
「あ…あれ?おかしいな…」
「悪ィなァッ…」
「そのクソ縄はもう通用しねェんだよォ…」
「お前ェと俺はグーとパーで戦っている様なもんだぜェ…?」
「確かに…俺の能力じゃそのほかに勝てないな…」
「諦めたッて良いんだぜェ…?」
「まぁ諦めたとしても…俺の手でお前ェを殺すがなァッ!」
ヴォアは地面を蹴り跳び勇の元へ迫る。
両腕を鳥の様に後ろに広げ、両腕の骨の先端が光に反射して目眩しになる様に光る。
右足に力を入れ一歩後ろに下がる勇。
…しかしヴォアの攻撃速度は勇の想定を遥かに凌駕していた…。
ズバァッ!
左手の骨によって勇の体は右斜めに薄く切り裂かれる。真っ赤な鮮血が真っ白な骨に付く…。
「ゴハァッ!」
「まだまだ行くぜェ…!」
振り終わりの隙などものともせず、足に力を入れるとバネの様に地面を蹴り上げる。
ズバァン!
今度は薄く切った傷口に沿う様にして深く体を切り裂く。一度歯を入れ、二度目に深く切るのはノコギリの様だった。
「ゴファッ!ファッ!」
大量の血が口から噴き出す。開いた傷口からは真っ黒な血が滝の様に流れ落ちる。
それと同時にに勇は両手両膝を突き、牙を見せながら笑うヴォアのを見上げる。
「どうしたァ?もう終わりかァ?」
「はぁ…はぁ…」
視界がボヤける。霧の深い片田舎に吹き飛ばされた様に、近くにいるはずのヴォアが見え辛い。
ただ確かなのは首の根本から温かい血が流れているということ…。
おそらくあの骨が首に当てられている。通販番組で売ったら爆売れだろう。
こんなくだらない事ばかり考えてしまって、走馬灯すら見えない。
どうやっても血を止める方法がわからない。
「はぁ…」
「お前ェを殺した後はよォ…」
「俺が殺した風華って奴…あいつ確か復活したみたいなんだよなァ」
「ちょうど良かったぜ…アイツ体は男だったが…顔はどタイプだったからなァ…」
「杏と一緒に使ッてヤりてェなァ…」
見えなくても分かる…。目の前で嫌な笑みを浮かべている事だろう。
釣られ笑いも起きない。耳を塞ぎたいが塞げない。
「あ…あぁ…」
掠れた声で呻き声を上げる勇。
声を出すたびに口から血が逆流しそうになる。
口の中が血の味で満たされる。
「なんだァ…?」
「お前はそれが…幸せなのか…?」
「あァ…ヤりまくって…死んだら捨てて…またヤる…」
「それが俺の幸せだぜェ…?」
「そうか…」
「なら…俺の幸せは…」
勇は目をガンッと見開く。その瞳には全くと言っていいほど光が無かった。まさに死んだ魚の目をしていた。
「友達と毎日…バカみたいに笑って…」
「風華が…舞と慌てて話してるの見て…笑って…」
「杏も…クールかと思ったら…バカ笑いしたりして…」
「…俺の幸せは…傍から見れば…くだらないものかも知れない…」
徐々に瞳に光を取り戻していく…。目の前で突然焚き火でもしているかの様に、光が燃え盛っていた。
「案外幸せってそんなもんなんだよ…!」
「でもさ…壊させる訳にはいかないんだよッ!」
ビュンッ!
床から飛び出した黒縄。
それはヴォアの喉元に襲いかかる。
勇はただ両手をついた訳ではなかった…。
「知ってんだよッ!」
ヴォアは無情にも飛び上がってそれを避ける。
パリンッッ!
背後のガラスに当たるといとも簡単に割れ、ガラスの破片が外に飛び出す。
「フッ…」
無意識だろうがヴォアの口角が上がる。余裕からの事…。
だがそれは勇も同じ事だった…。
「頼んだぞ…黒縄…!」
ビュンッ!
天井から現れた黒縄…!
それは飛び上がったヴォアの首を縛りつけ、あの重そうなヴォアを簡単に吊し上げる。
「ガァッ!」
青ざめていくヴォアの顔面。
だが希望は捨てていないのか骨のついた両手を、ゆっくりと天井へ近づける。
初めて火を見た原始人の様だった。
「黒縄…」
「俺に合わせろ…ッ!」
ビュオォッン!
勇が左腕を前に同時に放たれた黒縄。
それは今まで見たどんな黒縄よりも早く、黒縄の螺旋状の綱目に沿って風を纏っていた。
そしてヴォアの右肩に当たるとジュ…と香ばしい匂いと肌が茶色く焼け焦げる。
「アァァァッ!」
軽い火傷なんて比にならないだろう。
皮膚が焼け焦げ、血ではなく煙が舞う。
痛みのない左腕も痛みを治めようと右肩に近づけるが、骨が皮膚に触れるとそこから血が流れる。
「ガァッ…ガァッ…!」
「これで右腕は…使えないだろ…?」
「確かにそうだなァ…」
「だがよォッ…!心臓を狙わなかった…」
「それがお前ェの敗因だぜェ…」
「…俺もまだまだ甘ちゃんだなぁ」
「黒縄…強く締めろッ!」
ヴォアの首に食い込むほど黒縄は強く首を締める。強くすると同時に黒縄は天井に近づく。
「オグゥッ!」
離そうにも離せない苦しみ。
ヴォアは荒い息遣いのまま、呻き声をあげて足を振り回すだけだ。
どれくらいの時間が経ったのだろうか…。
時計の短針の音は50回を超えた時点で数えるのを辞めてしまった。
もう意識なんてほとんどない。
…しかし目の前のヴォアはまだ息をしている。
「どう…だァ?血が足りねェ…だろォ?」
「もう…とっくに足りてない…」
心臓が動くたびに傷口から血が流れ出る。
地面は雨の日の公園の様に血が溜まっている。
手には木片が刺さっている。ここからも血が出てきている。
「今回は俺の…勝ちの様だなァ…」
「ふっ…」
「何が…おかしい…?」
「…その足貰うぞ…!」
勇が手をつけた地面から黒縄が放たれる。
ブシュッ!
それは電柱に止まる鳥の様に、全く動かないヴォアの両足の太ももを貫通した。
太ももからは血が流れ、あんなに足掻いていた足の動きは完全に止まる。
「無駄な抵抗だ…」
「どうかな…?」
勇は悔しそうな顔を浮かべ、静かに目を閉じる。だがその顔は薄らと笑みを浮かべている様にも見え、ヴォアは鳥肌が立つ。
勇が目を閉じるとあんなに力強かった黒縄は、力無く地面に落ちる。
ドンッ…
音を立てて地面に着地すると、ヴォアは崩れるように床に膝を突く。
「ハァ…ハァ…」
「痛ェ…」
杖を突く老人の様に左腕の骨を使って立ち上がると勇の元へと向かう。
「首…掻っ切ってやる…」
ヴォアの耳は活性化した様に大きくなる。しばらく何も口にしていなかった口の様に、ジワっと体中に鳥肌が広がる様な感覚だ。
それはヴォアが変わった訳では無かった。
「…!?」
ドタドタ…ッ!
廊下から響く誰かが走っている様な足音。
それは教室の前で止まる。
「…誰だァ?」
バンッ!
勢いよく開いた教室の扉。
そこにはセーラー服の風華と、ジャージ姿の霊愛がいた。まるで高校生の美男美女カップルの様だった。
「勇ッ!」
風華の叫び声に勇は反応する事はない。
「本当に生き返ってやがるとはなァ…」
「お前もな…!ヴォア!」
「お前はお漏らししてた神の手下かァ…」
「え…霊愛さんお漏らししたの」
「事実だが間に受けるな…!」
「今は目の前の奴に集中しろ…ッ!」
「はい…!」
刀を握る風華の手は少し震えていた。
「世にも奇妙な…自分で自分の仇討ちだ…!」
戦闘シーンがむずすぎますー!
今週は金土日に投稿したいと思ってます。




