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ANCIENT -無代譚-  作者: 美朱太
未開の少年たち
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22/42

4-2 love&peace

「舞ありがとうな」

隣に座る舞に頭を下げる。

それは恐怖からだけではなく単純に感謝の気持ちもあった。恐怖6割、感謝4割だ。恐怖7割が本音だ…。

舞は頭を上げさせると笑顔を作る。

 「私変な空気にしちゃっただけだよ…」

 「でも風華はやる気に満ちてますよ…じゃなくて満ちてるぞ」

まだ恐怖心が残っているようだ。


風華は強がっていたものの目尻に涙を浮かべていた。だが舞が来てからは風華の目には鉄棒しか写っていなかった。

そして挑戦してはまた尻餅を着く。

 「風華は俺より泣き虫で…そんで俺より負けず嫌いなんだよ」

 「保育園の頃からずっと二人だからわかるんだ」

…カッコつけながら舞の方向を見る。

舞はなぜか嬉しそうにニコニコ笑っている。

風華の逆上がりが成功した訳がない。

いやこれはあの笑顔と一緒だ…。地雷を踏んでしまってブチギレてるこれはブチギレてる…。

顔が引き攣ってしまう。

 「そ!そんなに私怖いの!?」

 「そ!そんな事ないですよ」

 「むぅ!私か弱くてちっちゃな女の子なのに…」

事実はチビなことと女の子だけだ。

あんな怪力普通の男子でも出せない。腕相撲世界選手権一位と互角かそれ以上の怪力だ。

顔面に見合わずに化け物…。

 「私はただ風華くんが負けず嫌いって事を知れてよかったから笑ったんだよ!」

 「やっぱりねっ!って思ったの〜!」

 「はは…なんでそう思ったんですか?」

 「それは〜授業が終わったらね!」

ウインクをしながらサムズアップする舞。

舞の笑顔は人一倍可愛くて、それ以上に怖すぎる。


その後、逆上がりは成功する事がなかった。

本当なら「測定結果無し」と記録されるところ、努力が認められ1点となった。

そして体育館の空気が戻ることはなかった。

 「はぁ…出来なかったなぁ…」

 「まぁ手の皮が剥けるくらい頑張ったんだからいいんじゃないか?」

鉄棒のやり過ぎによって風華の手はボロボロになった。風華の代わりに杏は風華の斎藤を持ち、勇はファイルや筆記用具を持つ。

そして杏や風華の荷物は何故かついてきていた舞が抱える様にして両手で持つ。胸がむにゅっとなっていて自然と目が舞に寄ってしまう。

舞がついてきている理由は想像できる。

教室にいても居場所が無いと思ったからだろう。

 「さっきの舞ちゃむ本当にカッコよかった〜」

 「やめてよぉ!」

舞と杏のイチャイチャだ。いつもの様にやっているが一生見ていられる。 

 「え…えと舞さんさっきはありがとう」

 「風華くんが喜んでくれたならいいけど…」

 「はぁ…本当に友達いなくなっちゃうかもなぁ…」

 「大丈夫!なんとなくだけど大丈夫!」

 「なんとなく…!?怖いよぉ!」

 「何があっても私たちは舞ちゃむの友達!」

 「だから居なくなることは絶対にないよ!」

 「杏ちゃん…かっこいい…!」

溶けてしまいそうなほど温かい事をいう杏。

舞は年甲斐もなく杏に抱きつく。

杏は多分小学生くらいの妹を持った気分になっているだろう。顔が緩み切っている。

あまりの破壊力に顔が真っ赤になる風華。そりゃそうだ。

 「ていうか舞なんか風華が負けず嫌いって言った時やっぱりって言ってたじゃん?」

 「あれってどーゆーこと?」

舞はフリフリのポニーテールを揺らしながら杏からスルッと離れる。顔は可愛い笑顔だ。

 「実はね…」

 「ずっと前にテストの点数が悪いって笑われてた時」

 「放課後に残って泣きながらずっと勉強してたし…」

 「は…恥ずかしい…」

 「今回の鉄棒だって昼休みにず〜っと練習してたの知ってたの!」

 「だから風華くんのことをバカにするのはどうしても許せなかったの…!」


 「まぁ結局頑張ってもテストは赤点ギリギリだったし…逆上がりは出来なかったし…」

 「全部ダメだったけどね…」

悲しいことを口にする風華。

舞は足を止めて風華の腕を掴む。

あまり突然なことに風華は簡単に手を取られる。いや力が強すぎるのもあるが…。

慌てた表情で舞の顔を見ると、先ほどと同じ様に真剣な目をしていた。かっこいい舞ちゃんだ。

 「結果だけじゃないよ…!」

 「風華くんが頑張ってたのずっと見てたから…!風華くんは偉いんだよ!」

 「だから悲しい事を言っちゃダメ…!」

 「風華くんは凄いんだよ?」

心に一滴の雫が落ちた様な気がした。

静かに体中に広がっていく…。音なんて聞こえやしない。

ただ事実としてあるのは頬を流れる一つの涙。


その姿を見て舞は戸惑いの表情を見せる。

おそらく何か悪い事を言ったと思ったのだろう。口も魚の様に開いたり閉じたりして、手もアワアワしている。

杏は舞に優しく声をかける。

 「この子…本当にちっちゃな頃から家族が全員亡くなっちゃったから…」

 「家に帰ってもずっと一人ぼっちだったの」

 「だから褒められる事なんてほとんど無かったんだよ」

 「多分舞ちゃむに褒められて嬉しかったんじゃないかな…?」

 「自分を見てくれてるって人がちゃんといるって思ってさ…」

 「そうなんだ…」

舞は、勇とともに保健室に向かう風華の背中を見る。その背中は子供の様に小さかった。

二人を見送ると舞と杏は教室に向かい、二人とは別れた。

 「あいちち〜」

 「はいこれで大丈夫だよ」

 「ありがとうございますー!」

保健室の女の先生ははちゃめちゃに美女。…という訳ではなく世にも珍しい男だ。まぁおっさんって感じの人だ。

怪我の治療を施してもらうと保健室を出る。

風華の手は包帯でぐるぐる巻きになり、ミイラの様になっている。

 「あぁ〜恥ずかしい…舞さんの前で泣いちゃったよ…」

 「別に恥ずかしい事じゃないと思うんだが…」

 「恥ずかしいったら恥ずかしいの!」

 「はぁ〜戻ったら舞さんになんて言おう…!」

 「あらかた杏が説明してくれてたから…そんな緊張する事じゃないぞ」

風華はキョトンと首を傾げ勇の顔を見つめる。

 「何よ」

 「告白のセリフだよ?」

 「バカッ!今告白してもフラれるだけだぞ!」

 「え!?そうなの!?てっきり好きなのかと思ってた…」

 「お前恋愛経験無さすぎだろ!」

 「勇だって勘違いしちゃうでしょ!」

 「そりゃな」

恋愛経験の無さに呆れより心配が勝つ。

優しくされたら自分のことを好きって勘違いするとか…自分と一緒過ぎて困る。

まさに陰キャラ男子の考えることだ。

ボケでもなんでもなく、風華の瞳は純粋で恋愛のない道を歩んできたのが伺える。

 「さっきのは忘れてとか言えばいいだろ」

 「それから熱烈kiss?」

 「そこまでいくとキモいな」

 「えぇ!酷いよ!」

 「キスもハグも告白もするな」

 「…分かった!」

風華は満面の笑みで頷く。

良かった分かったみたいで。

二人は教室へと向かうが…徐々に風華の歩くスピードが速くなる。

そのスピードに合わせて歩くが、さらに風華は速くなる。側から見れば競歩の選手だ。

 「どうした!?漏れるのか!?」

 「その通り!レディにそんな事聞いちゃモテないぞ〜!」

 「おぉ…合ってた…」

 「じゃあ待っててね!」

 「当たり前だろ!」

もちろん風華は男子トイレに入っていく。

トイレにいた生徒はざわめくが、風華のブツを見るとどよめく。

 「よし戻るか…」

教室に帰ると空気が重かった。

いつもはクラスの中心の舞も、今は端っこの杏の席で二人っきりの密談をしている。

 「何話してんだ?」

 「流石にこの空気を作った私に責任があるから…謝ろうと思うんだけどね…」

 「緊張するのぉ!」

 「いつもみんなの前で話してるのにか…?」

 「それとこれとは別なのっ!」

 「仕方ない…舞ちゃむも臆病さんねぇ〜」

杏は舞の腕を引っ張り、教壇の上へ登らせる。

そしてすぐに杏は舞の背後に隠れる。

 「みんな〜ごめんね〜」

完璧な声真似に身振り手振り…。な訳がなくて下手くそな声と身振り。舞とは思えないとんちんかんな動きをしている。

 「ちょっと杏ちゃん!?」

舞は顔を真っ赤にして暴れ出す。社交ダンスの様だ。

始めた当初は皆、頭にハテナマークを浮かべていた。だがその舞の動きが可笑しく感じ自然と笑いの輪は広がる。

それに気づいた杏は舞から手を離す。

そして教壇を降りていく…その姿はやることをやった勇者の様で、舞を見ずに手を振る。

 「まさか…杏ちゃん…これを見越してた…?」

 「ふっ…」

この笑い方は完全に予測してなかったっぽい。

口元がぷるぷると震えている。

イケメンスマイルが口元で崩れている。

 「え!えとみんなごめんね?」

 「楽しい空気だったのに…私が変なこと言って冷めちゃったよね…」

舞は頭を下げた。

それから数秒の間沈黙が訪れた。

ついに…舞は嫌われたのかと思い、額から汗が流れ落ちる。

その静寂を食い破る様に教室の扉がガバッと開く。

 「舞…!目覚めさせてくれてありがとう…!」

颯の声が静かな教室中に響く。

舞の手を握り颯は膝をつく。

プリンセスとプリンスの様だ。海外のアニメとかでよくありそうなシーンだ。

 「舞の言葉を聞いて俺…目が覚めた…!」

 「え…えとどういたしまして…?」

 「舞はやっぱり素晴らしい女性だ!」

 「あ…ありがとう」

 「この俺の全てを懸けて…舞を幸せにする事を誓う…」

 「俺と結婚を前提に付き合ってください…!」

唐突な颯のプロポーズにどよめく教室。あの舞の謝罪なんてどうでも良いと感じるほどの衝撃。

舞は困惑し辺りを見渡すが誰も味方がいない。

杏は勇と話していて…舞の方を見て笑っている。

返答に困っていると廊下から声が聞こえる。

 「勇の奴ぅ…俺のこと置いて行っちゃって…」

 「怒っちゃおうかな…!」

そして教室の後ろの扉が音を立てて開く。

そこには美少女…ではなく風華がいた。

皆の視線は舞から風華に変わり…しかし風華の視線の先には舞がいた…。

 「あ…ヤバそ…」

風華は笑顔で教室に入ってきたと思ったらすぐに笑顔が消える。

そして音を立てずに自分の机に座るとゴンッと頭を机にぶつける。

 「君が好きだから…嬉しいはずなのに…」

ブツブツと失恋ソングを歌う風華。

 「ごめん風華…私風華が頑張ってるのに笑っちゃって…ごめん…」

あまりの声の近さに風華は飛び起きる。

机の周りには人が集まっていて、みんな暗い顔をしている。

さっきの声は玲那の声だ。

 「えぇ!?全然気にしてないからいいよ!?」

 「風華が気にしてなくてもダメなの…!」

 「私のこと殴ってもいい…怒鳴ってもいい…だから…!」

 「えぇ…!?殴るのも怒鳴るのも俺には合ってないからなぁ…」

 「うーんそうだなぁ…」

 「玲那さん勉強得意だったよね…?」

 「う…うんまぁそこそこ」

 「じゃあ今度勉強教えてほしいなぁ」

 「え!?それでいいの?」

 「実は俺勉強頑張ろうと思ってるんだけどね!」

 「勉強方法がわからないから頭いい人に聞こうと思っててね!」

 「それそうじゃなくて!」

 「そんな簡単な事でいいの?」

 「うんッ!」

風華の無邪気な笑み。

風華の優しさとその可愛い笑みに玲那の心は打たれる。

自然に風華を抱きしめてしまう。力強く。

 「風華!それ天然でやるのぉ!?可愛すぎるんだけどぉ!」

 「うぐっ!玲那さん苦しいよ!」

 「はっ!ごめん…!」

玲那が誤ったのを皮切りに、他の周りのクラスメートも頭を下げる。

…が風華はそれを笑顔で受け止める。

そしておすすめのラーメン屋や中華料理屋を教えをこうだけだった。

 「くだらねぇ…」

教室の端で集まる女子高生の不良グループの声。それは騒がしい風華の周りの人にもしっかりと聞こえるほど大きな声だった。

玲那はその不良グループに単身突入する。危ない組に家宅捜索する刑事の様だ。

 「くだらないって何よ!」

 「くだらないでしょ…キモい友情ごっこって」

 「…あなたたちも笑ってたでしょ!」

 「風華に謝りなよ!」

 「なんでよ笑って何が悪いの?」

不良グループのリーダーと玲那はまつ毛が当たるほど顔が近づく。二人とも顔がいいもんだから映えてしまう。

だがそこにもう一人の美少女が突入する。

 「あわー!落ち着いて!」

風華だ。美少女では無かった。ただの美だった。

 「喧嘩しちゃダメだよ!」

 「は?何?良い子ちゃん気取り?」

 「それそんなんじゃないけど…」

 「みんな仲良しだったら俺は嬉しいなぁって…」

悲しそうな表情をする風華。

玲那と不良グループのリーダーに罪悪感が積み重なる。


 ポンッ…


頭に何か温かい手が当たる。

 「え?」

 「はっ!しまった!風華の奴が可愛すぎて…」

 「え!?何?あんたも風華の事可愛いって思ってたの!?」

不良グループのリーダーの顔が徐々に赤くなる。完熟トマトのハヤシライスソース並みに赤い。

 「…何よ?悪いの!?」

 「全然悪くない!むしろよろしい!」

 「ほら風華私と一緒にカラオケ行くぞ!」

 「あー!ダメ!」

玲那と不良グループのリーダーに引っ張られて物の様に運ばれていく風華。風華はなぜか悲しそうな顔をしていた。

そう言えば風華は極度の人見知りだ。

 「風華はやっぱり優しい子ね〜」

慈愛に満ちた目で風華を見つめる杏。

そして息子の成長を間近で見た父…ではなく有は、少し目に涙を浮かべる。

…が風華にいじられそうでハンカチでそれを拭く。

 「10でやられたら5で返す…そして5でやられたことは2で返して…」

 「そうやってどんどん0に近づけさせる…」

 「みんなが風華みたいな人だったら平和っていうのは簡単なんだろうね…」

たまには主人公らしくカッコつける勇。

いつも目立つ事が少ないが今回特に少なかった。これくらいのカッコつけは勘弁してほしい。

 「勇くん!杏ちゃん!私のこと助けて〜!」

 「結婚してくれ…舞」


 「相変わらず告白のタイミングきしょいなぁ…」

 「それなぁ…」

その後舞は自力で颯を振り切ったらしい。

めでたしめでたし…。

土曜日にくだらない短編を出します

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