4-1 Walkin' on the rainbow
自分で面白いと思うボケをしてます。
蛇老と戦ってから数日が経過した。
連日連夜街に出りゃ喧嘩ってなわけで、当たり前だったはずの何もない日が久々になっていた。まぁもう慣れてしまったのだが…。
ちなみに遥真は普通に目を覚ました。
玲那に彼氏いると改めて伝えられると…ショックで寝込んだ。殴られてもないのに呼吸が荒くなっていたのを今でも思い出す…。
可哀想だからではなくて…面白かったから…。
「はい…この問題勇答えろ」
疲れでしばらくまともに聞けなかった授業。
疲れてなくてもまともに聞けなかった授業。
これは小学校の卒業式の在校生が言いそうな言葉だな…。いや先生に止められるだろうか。
目の前でブチギレる先生の顔が怖く無いのは…フロルや蛇老…思い出したくもないヴォアが居たからだろう。あのメンツと比べれば先生なんて赤ちゃんに見えてくる。
「よしよし…落ち着けよ」
しまった。頭を撫でてしまった。
しかも相手は斎藤。枠組みで言えば、「卒業式で泣いてくれると嬉しい先生枠」だ。
つまり普段は鬼の様に怖い。鬼ですら引くレベルだ。
しかもヘルメットの様にツルツル頭だ。
木魚を撫でてしまったと思った。
「コラァッ!ボケナスゥッ!」
今の時代こんな怒声が聞こえる事があるだろうか…。大体は年下だからと遠慮する時代だ。
授業の残り時間はあと10分。周りの生徒からは期待の眼差しが向けられていた。
「まかせろ…!」
普段だったら土下座して謝っていた。
だがさまざまな経験を経た勇にはいつの間にか自信がついていた。
…12分後
教室のドアを開けて顔を覗かせる風華。
「勇もう斉藤先生出て行ったよ?」
「い…いや…!ま…!ま!まだ潜んでるかもしれないだろ!」
「バルサン焚かなきゃ!」
あの後ものの30秒で頭を下げた。
そして自分で水入バケツを持って廊下に立っていた。何が自分をそうさせたのだろう。
今となってはもう思い出せない…思い出したくない…。
「って!そんなふざけてる時間ないよ!」
「もうすぐ体育始まっちゃうよ!」
うちの学校は体育の時間は5分前から始まる。
授業が終わって5分の間に着替えを済まして、体育館やグラウンドに向かわなければならない。ぶっ飛んでる。
腹を壊した人がいたらどうするのだろう。
敵がいなければ校則に従うただの高校生だ。
平和は実に退屈で時間が過ぎるのが早い。
「急ぐぞ!」
「うん!」
「ていうか次の時間体育のテストなんだろ?」
「あ!そうだったね!」
「100mとか長距離がいいな〜!」
少し変わったことと言えば身体能力が格段に上がったことだ。それによって100mも長距離も校内新記録を叩き出した。
いつの時代も女子はスポーツ万能な男子がカッコよくて見えるもので…
例に漏れず二人もチヤホヤされる様になった。
ただ問題があったのだ…。
「今やってるの鉄棒・マット・跳び箱だろ」
「なんで急に走り出すんだよメロスか」
「がーん!終わった…」
身体能力が上がっても、元々の運動神経は何一つ変わらない。
そう鉄棒やマット、跳び箱みたいな技術が必要な物は元々の運動神経と変わらないのだ。
勇は運動神経は良い方だからいい。
問題は風華だ。
「ま…前周り」
風華はニコニコしている
「豚の丸焼き…」
今度は眉を寄せる。
「逆上がり…」
最後は大きく口を開けて涙目になる。
「本当に出来ないんだなぁ」
高校生の体育のテストに、前周りも豚の丸焼きのテストもない。簡単な物で逆上がりだ。
「まぁ頑張れよ」
そして20分が経った。
「おーい遅刻組出番だぞ」
「はーい…」
「…はい」
「声が小さいぞ〜?」
「はーい!」
「…はい!」
もちろん二人は遅刻した。
勇が特段悪いわけではない。風華も途中で寄り道しまくっていた。それほど鉄棒をしたくないのだろうか…。
罰として雑用係をさせられることとなった。
しかも男子の雑用だ。水筒を持ってきてあげたり…タオルを貸したりとか…野球部のマネージャーじゃないんだから…。
「風華〜水〜」
「分かった!」
だが楽なのは呼ばれるのは大体風華という事。
高めのポニテの体操着の風華。野球部のマネージャー風華を体験できるんだ。そりゃ誰でも呼ぶだろう。
そして一通り配り終えた風華が戻ってくる。
「次俺たちだって」
一人称と声に違和感がありすぎる。
もうちょっと可愛らしい声で「私」とか言うべきなビジュアルだ。
「そろそろ行っちゃいますかぁ…」
大御所感のある二人の入場。
周りの生徒たちは息を呑む。
ちなみに終わった生徒は自由時間だ。
ドッジボールやバスケをしてる生徒が多数で、体育館のど真ん中で鉄棒をする生徒は少ない。ていうか勇と風華だけだ。
「最悪できなかったら…必殺技使うか…」
「また顔のかわいさで逃げるつもりか?」
「げッ…!」
「まぁ可愛い事が悪いわけじゃない…」
「けど流石に運動も勉強も努力した方がいいぞ」
「正論です…」
「颯だって自分の努力で舞を惹こうとしてるんだぞ」
「成績より経験を積め」
「はひ…」
正論のパンチに風華は背中が丸まる。
飼い主に怒られた子猫の様だ。
「やっぱりさ」
「まだ終わってなかったよぉ…?」
「女子って勉強とか運動できる人をかっこいいと思うんじゃなくてそれに至るまで努力できるってことを無意識にかっこいいと思うんだけど風華はどう考える?」
「お…おんなじ意見ですぅ…」
無呼吸連打が風華の心臓部を捉える。
やはり薄々勘づいていたことを突きつけられるのが人には一番効くようだ。
風華なんてやる前からぷるぷる震えている。
なぜこんなに風華をいじめるのか。
それには深い理由があった。
それは前回のテストで風華に点数が負けたからだ。風華10点に対して、勇は6点。
しかもその時風華は色目を使って10点を獲得したのだ。それはそれはズルい。だが点数なんて正直どうでも良かった。勇のプライドがそれを許さなかっただけだ
ちっちゃい頃から風華のお手本として生きてきた勇にとって、風華に越されるのは悲しみよりも深い感情が現れる。
だから今回は未然に防ごう思ったのだ。
「はい次勇〜」
「はーい」
ビュンッ…!
見事に逆上がりを成功させた。
自分で言うのもなんだが…完璧だった。
「はーい8点」
「じゃあ次風華」
「は…は〜い…」
ドテッ…
綺麗に尻餅をつく風華。
谹する生徒たちの笑い声。
「あ…あれぇ…おかしいなぁ…」
立ち上がりながら頭を掻く。
「高校生にもなって逆上がりできないの…」
「時間の無駄でしょ先生可哀想…」
半笑いの女子高生の声が響く。
「…もう辞めにするか?」
哀れに思った先生の優しい声。
だが風華の手は鉄棒へと伸びる…。
その後ろでマットの片付けをしている舞と颯。
仲良く二人でマットを運んでいる。
颯は笑われている風華を哀れな目で見ていた。
「…風華の奴可哀想だね…舞」
「颯くんは風華くんの事可哀想だと思うの?」
「えぇ?あ〜だってみんなから笑われてるし…どんだけ頑張っても成功しないし…」
「それって普通に考えたら可哀想でしょ?」
さも当然の如くそう言い放つ颯。
舞の顔は眉がピクピクと動いている。
小さな手が力強く震えている。
「じゃあ私は普通じゃないみたいだね…」
「えぇ!?何言ってんの舞?」
「だって風華くん頑張ってるんだよ…?」
「でも風華頑張ってるって言ってもどうせ大した事ないじゃん」
「それにさ!風華はいっつも男の教師を顔で釣ったりしてるじゃん」
「たまにはこんな風にバチが当たらないとでしょ?」
颯は口角を上げながら何度目かの失敗をしている風華を見る。その横には勇が座っている。
「う〜ん分からないなぁ…」
「私颯くんみたいに色んな事考えられないから、今目の前の風華くんだけを見て考えちゃうんだよね…」
「今は風華くんが頑張ってるって事だけが私の目に写ってるんだもん」
舞の声は途切れ途切れになっている。
だがしっかりと颯の目を見ていた。それはずっと変わる事がなかった。
それに対して颯は怒りながら風華を指差す。
「ならなおさら可哀想だと思うでしょ!」
「ううん…私の気持ちはただ風華くんを応援してあげたいだけだよ!」
「ま…まさか舞…あんなのに惚れた…?」
体育館の中なのに落雷が降り注いだ気がした。
舞は自然の表情のまま颯に顔を近づける。
普段なら可愛い顔が近くで嬉しい…なんて思うが、今回は訳が違った。
明らかに怒っている。ずっと眉がピクピクと動いている。薄く張り付いた笑顔が怖い。
舞のこんな顔今まで見たことがなかった。
「惚れてる惚れてないの話じゃないよ!」
その良く通る声に体育館中の人々が黙った。
珍しいものを見る様に舞の方向を見る。入れ食い状態の釣り場の様だ。
天井に挟まったボールも驚きのあまり落ちてきた。
「私はただ一人の人間として…風華くんを応援したいだけっ!」
「あと…颯くんだって知らない間に優遇されてきた事があると思うよ…!」
「人間なんて顔で決めてないとか…人で決めてないとか言うけどさ!」
「実際は心のどこかでそういうところで決めてる事があると思うの…!」
「自分で言うのは恥ずかしいけど…私も色んな面で優遇されてきた…!そう自覚してるよ」
「でもね…その面わ抜きにした時に全力で頑張れる人なんてほんの一握りだと思うの…」
「誰でも優遇されてるのに…!なんで風華くんをみんな笑うの!」
「全力で頑張ってる風華くんをなんで笑うのっ!」
怒鳴り声などではなく芯のぶれない声。
それは全員の耳の中にスッと入ってきて、誰も耳を塞ぐ人はいなかった。むしろ食い入る様に聞いていた。
「ばふぅ…」
あの怒りはどこへやら…赤子の様に一息吐き、周りを見ると目を丸くする。元々大きな目がさらに大きくなる。
「い…急げ!急げ!」
放心する颯ごとマットを引っ張る舞。
どこにそんな力があるのだろうか…汗一つかいてない。力持ちなんだね。
「じゃ…じゃあ颯くん…またね!」
颯に手を振って用具室を後にする。
そして向かった先は…。
「風華くん…変な空気にしちゃってごめんね」
鉄棒のテストをまだしてる風華の元だった。
「だだだだだだ…だ…だい…だだだだい…」
舞のあまりの迫力に風華も恐怖していた。
鉄棒を握る手がガチガチに震えている。
目の前にした訳でもないのにこんなビビるとは…全く情けないったらありゃしない。
「まままままま舞」
「二人とも変だよ!?」
「ははは早く風華やややれ」
流石体育教師だ。繰り返す文字が少ない。あんまりビビっていない様子だ。
「はははははははい」
そしてまた出来ない逆上がりを続ける。
けれど舞の応援があれど劇的に上手くなるわけなない。むしろ恐怖で震えて下手くそになっている。地面から足を離すことさえできていない。
だが誰も笑うことは無かった。
みんな人の顔を伺いながら、各々やっていたスポーツを始める。
その空気は先生に怒られた後の昼休みの様で、みんなよそよそしい。赤の他人の様だ。
4-2はすぐ出ます。




