3-5 幸せな結末
最近自分のために書いてます。
大蛇と激突するまで…
3…2…1…
「行くぞッ!黒縄ッ!」
「死ネェッ!小僧ォォッ!」
龍子相搏つとはこのことだろう。まぁ漢字がちょっと違う事は黙っておこうと思う。
勇と大蛇がぶつかる…!
その直前ッ!
プルルルル
気の抜ける様な音が二人の間に響く。
勇のポケットから鳴っている訳ではなかった。
「アチョット待テ」
「え?」
プシュッ!
ペットボトル炭酸を開けた時の様な音。
何が起こったのか周りを見渡す。
「この姿は流石に疲れるのぉ…」
「え?」
大蛇のうなじ辺りから上半身を出す蛇老。
その手にはスマホが握られていた。
「あ…あの説明を…」
「人が電話をするときに話しかけるでない!」
「あ…悪い…」
『誰じゃ?ワシは今忙しいんじゃ』
『蛇老婆さん元気コロか〜?』
この陽気で呑気なおちょくるのがうまそうな声はフロルの声。
蛇老は気を使ってくれたのかスピーカーにしてくれていた。ていうかあまりスマホに慣れてないから、スピーカーになってるんだろう。
『…』
蛇老は一度勇の目を見た。
だが目と目が合うとすぐに視線を外す。
そのとき見えたんだよね。焦りが汗に。
『あれ?蛇老婆さん?死んだコロか?』
『…いやワシは生きてるぞ』
『良かったコロ』
『でなんの用じゃ?ワシは今忙しいんじゃ』
『今沖縄旅行してるんだコロが』
『お土産何が良いコロか?』
『ちんすこうじゃな…』
『OKだコロ〜!』
『ていうか蛇老婆ちゃんは何してるんだコロ?』
また勇に視線を合わせる蛇老。
ニヤッ…と笑っているが口角がピクピクしてる。軽い知り合いに会った時の様な表情。
後から思い出してその表情をしてみると、ちょっと恥ずかしくてすぐ寝たくなる。
『今、孫と遊んでるんじゃ』
『蛇浪太くんコロか?』
『そうじゃそうじゃ!』
『また会いたいコロね〜!』
「…俺は蛇浪太じゃないぞー?」
勇は叫んだ。魂の限り!なんてね。
『…あれもう声変わりしたコロか?』
『そうなんじゃ!つい昨日のぉ…』
しばらくの沈黙が続く。
電話が急に途切れた訳では無い。
ずっとフロルの方から黒ギャルっぽい笑い声が聞こえてくる。多分…黄色のビキニを着ている。そして誰にも馴れ馴れしそうなギャルの声だ。
そして画面に映し出される通話時間は4:18を表していた。
『3ヶ月前に生まれたんじゃ無かったコロか?』
『…じゃあまた帰ってきたら言うんじゃぞ』
「勘違いしちゃうバカがいるかも知れないからなー」
『…蛇老太くん天才児コロか!?』
『ま…まぁ切るぞ』
『あ!すいませーんコロ』
『マンゴーカルメザンロック追加でお願いしますコロ』
「お一つでよろ…」
プツッ…
「フロルの奴元気そうじゃったな」
「うんそうだな」
「さて…フロルが無事な事確認したし」
「ワシもそろそろ帰ると…」
「…黒縄」
ビュンッ!
勇が手を出した瞬間に放たれた黒縄。
それは蛇老の腕ごと体を縛る。
あんなに出来なかったコンビネーション技は思わぬところで成功したのだ!
案外適当にやってみることにも意味があるのかも知れない。知らんけど。
「お前いくら持ってるんだ?」
「…しょ…所持金1万8千円じゃ」
「え結構持ってるな」
「そりゃ買い物に来ておったからな」
「お前らが居たからこんなに荒れたんじゃ!」
「最期に言いたいことはそれだけか?」
黒縄を縛る力がさらに強くなる。
蛇老の額からは大量の汗が流れ落ちる。
「あ!あーあ!酷いんじゃ!」
「フロルは逃してワシは殺すのか!?」
「差別じゃぞ!いけないんだぞ!」
「…殺すことはしない」
「だからその大蛇をしまえ!」
「わ!分かっておる!」
約40分後…
大蛇をしまった蛇老とフードコードの椅子に座る。風華もそこにはいた。失神してる。失禁はしていないから安心してほしい。ていうか高校生で漏らす奴なんていないだろw。
まぁいるだけで未だに蛇に括り付けられている。
ちなみに大蛇は特殊な製品みたいだ。
元々大蛇だった蛇老。
その脱皮後の皮が、あの大蛇なんだそうだ。
空気を入れて中に入れば肉付けが完了するみたいだ。片付けは空気を抜けばいいらしい。
それのせいで30分もかかったのは黙っておいてやろう。でも凄い製品だ。
「さて…再延長戦」
「単刀直入に言うぞ」
「な…なんじゃ?やっぱり殺す気なのか!?」
「弁償しなさい!」
「…分かった」
「や…やけに素直だな…」
蛇老はポケットから財布を取り出す。
ちなみにもう服は着ている。安心してほしい、まだ蛇老のヘソすらほとんど見てない。
そして財布から数枚の札を取り出す。
「ほいじゃあ帰るぞ」
「15000円!?」
「…流石に多すぎた様じゃな」
1000円札5枚に手を掛ける蛇老。
その手を力強く握る勇。その手は長風呂上がりの様にシワシワで、骨が当たってしまうほど細かった。
「…足りる訳がないだろ!?」
「ぼ…!ぼったくりじゃ!」
「…貯金どんくらいあんだ?」
「7千万じゃ」
「え…えぐぅ…」
「流石に渡さんぞ!これは孫の蛇浪太の為の貯金なんじゃ!」
いいおばあちゃんだ。勘違いで襲ってくること以外は…。
見た目もそこらへんにいそうなおばあちゃんだから、きっと孫には優しいんだろう。
「そのお孫ちゃんも地球に住んでるのか?」
「そ…そうじゃが…」
蛇老は"へ"みたいな目を見開く。
あの小ささはどこへやら…まぁまぁ大きい目。
横長の目だからか不気味な目をしてる。カモメみたいな形をしている。
「…っ!孫や息子に手を出すなら…」
「ワシはお前らをここで殺す…」
「…俺はお前と違って大切な人が死ぬ悲しみを知ってるよ」
「そんな酷いこと俺には出来ないさ…」
「…ふわぁっ!?」
カッコつけた後に目を覚ました風華。
もっと早くに目を覚ましてもらって見返したかった。あの生意気の風華を涙目にさせたかった。でも呑気な風華の方が好きだ。
「…いやぁ!蛇ぃ…!」
…何も言わなくても泣き出した風華。
まだまだ赤ちゃんにしか見えない。
「で…ワシの孫で何をするつもりなんじゃ!」
「何もしない!するのはお前だ」
「な…何をさせるつもりじゃ!」
「も!もしかしてワシの体を売らせ…」
「もう消費期限切れだろ!」
「切り干し大根みたいな体しやがって!」
「言い過ぎじゃ…」
目に汗を浮かべる蛇老。
最近は結構暑くなってきてるからしょうがない。
「それより…何をすれば…」
「ここで大道芸人として生きろ」
「大道芸人…じゃと…?」
「そうだ」
「ほ…ほもほも…」
スマホを片手に[大道芸人]と調べる蛇老。
今時のおばあちゃんらしくフリック入力がだいぶ遅い。一秒に一文字が限度みたいだ。
「…なるほどのぉ」
「これって稼げるのか?」
「200万〜650万くらいだってさ」
「完全実力主義の世界だから…蛇老の蛇の操作能力なら稼げるんじゃないか?」
「まぁ俺は弁償の仕様知らないけど…」
「こりゃ結構な額だろうから頑張れよ」
「…ワシが稼いだ金から弁償代が引かれるのか?」
「いや…お前が稼いだ分の半分くらいをここの店舗に落とすんだな」
「ま…まぁ適当に頑張るかのぉ…」
「まっ!ご老体なんだから無理すんなよ〜」
「風華そろそろ帰ろうぜ」
「しょ!しょれより!たしゅけて!」
滑舌まで赤子の様になってしまっている。
ジタバタとチャイルドシートに座っている子供の様にしか見えない。
これを可愛いと思う思う層がいるのが驚きだ。
もちろん勇は頭を撫でてからその蛇を解く。
「ありがとね!」
「まぁ良いってことよ」
「じゃ帰るか〜」
「お前も早く帰れよ警察が来るかも知れないし」
「あ…監視カメラと録画機ちゃんと壊しておくんだぞ!」
「バレたら色々大変だろ?」
「な…なんか勇も焦ってない?」
「言うな…」
約3000円の野菜ども。
これは色々な場所に遊びに行く事になる…であろう高校生には痛い出費なのだ。
黙って蛇老に払わせた方がいい。元はと言えば蛇老が悪いんだもんね。
「ふわぁ…」
「勇!おんぶして!」
「なんでだよ」
「蛇が怖くて足が動けないんだよ!」
「…ロリガキめ」
「俺ロリじゃないんだけど!」
勇は膝を落として風華を背負う。
筋肉があるからか少し重たい。…が横を向くとモチっとした肌が当たる。
顔と体のバランスがイカれてる。
顔ももうちょっとシュッとなるはずなのに、可愛げのある程度のモチュッと具合。体は筋肉がある…。
「じゃあ早く帰れよ〜」
「あ!フロルにもよろしくな」
「ふっ…勝俣勇と佐藤風華か…」
蛇老は二人の名前が書いてある紙を破る。
「な…何してんだ」
「お前らの殺さない決意しかと見た…」
「…他の誰にも成せない決意じゃ」
「えへへ…褒められたね勇」
「そうだな…おほほ」
「しかし…」
「時にその決意が邪魔になる」
「その決意を破る決意も必要になる」
「しかと心得よ」
「分かってるさ」
「じゃ!仕事頑張れよ」
そうして二人はショッピングモールから出ていく。まぁ歩いてるのは勇だけだが。風華はずっとおしゃべりをしていた。無邪気だ。
ブー
これは屁ではなくスマホから出てきた通知音だ。二人ともアイドルだから屁はでない。ビジュだけはアイドルだ。
「何かきてるよ?」
「なんで書いてある?」
「えっと…」
「玲那さんからだ!」
「遥真が瓦礫に巻き込まれたって」
「なんだそれだけか」
「…!って!ヤバいじゃねぇか!」
そのメッセージと共に残された[日笠佐内病院]へと向かう。
静かな病院。慌ただしく走る看護師。
集中治療室の前の椅子で座る杏と玲那。俯いていた。
「…」
「私のせいで…」
「はぁ…はぁ…」
「遥真は!?」
ウィーン
タイミング良く集中治療室の自動ドアが開く。
医者の顔は明るくも暗くもない…不思議な顔をしていた。
「ほ…本当に遥真さんに瓦礫が当たったんですか?」
「は!はい!大きな瓦礫が…」
この瓦礫は大蛇が天井を突き抜けた時に飛んだ瓦礫の事だろう。
「おかしいなぁ…」
「遥真の頭がおかしいのは元々です…」
「a hold me tight」
「悲しい色やね…」
医者もアホだと言う。他の誰が言うよりも説得力が違いすぎる。
「いやいや!違くてね…」
「外傷も内因も無いんだよ」
「内因も無いん…」
風華も頭を打ったのかクソつまらないダジャレ。自分で言って自分で笑ってるし。
「つ…つまり?」
「な…なんで気絶してるのかが分からないんだよね」
「そんな!遥真は私を庇って…それで瓦礫が当たったんですよ!」
「その瓦礫はどうなったか覚えてる?」
「え…えと…」
---
1時間前…
「勇たち遅いね…」
「大丈夫大丈夫…勇はきっと大丈夫」
「あらぁ〜?夫婦みたいですなぁ〜」
「勘違い勘違い」
「でも風華ちゃんが心配だなぁ…」
「風華ちゃむも大丈夫だよ〜」
「あらぁ妹さんですかぁ〜?」
「ウチより可愛い子は妹にはいりません!」
女子の会話は弾んでいる。
今はショッピングモールから出たすぐそこにある子供服屋に向かっている。
もうすでに他の客は車や自転車で帰っていて、駐車場にはビニール袋や買い物袋が転がっているだけだ。
その後ろで玲那の背中に見惚れる遥真。
玲那は胸は小さいがスタイルは神だ。
黒のハイウエストのワイドパンツに黄土色のVネック。性格に似合わない大人っぽい服。話してみたら可愛らしいのがギャップ萌えだ。
まぁそんな事はどうでも良くて…遥真は玲那のケツを追いかけてる。
「ねぇ遥真!なんで風華ちゃんと勇は仲良いの」
「まさか…!出来ちゃってるとか!?」
「え…まぁえとその…風華が勇を好きなんだよ!」
「風華ってよく勇と一緒にいるだろ?そう言う事なんだ」
「キャー!風華ちゃんあんなあどけない顔して案外積極的なんだ〜!」
「ていうか遥真好きな人いないの〜?」
今度は打って変わって遥真の隣を歩く玲那。
こんなの誰でも恋してしまう。しかもあんな無邪気な笑顔を近距離で見せられるんだから。
「…お…俺は別に好きな人とかいないし…」
「嘘つけ〜」
「舞とか杏とか好きなんじゃなーいの?」
「そ!そんなの興味ないから…」
こんな顔をしているが案外奥手だ。
「えぇ〜遥真カッコいいのに〜!」
その瞬間、遥真の頭に華が開いた。
小さな遥真が脳内を踊り狂い遥真の門出を祝福する。玲那の笑った顔は明るく透き通っている。
今すぐに抱きしめたい。…そんな事はできないが…。
ドォォンッ!
響き渡った轟音。
「な!なんの音!?」
「…玲那!遥真!急ごう!」
二人の手を握る杏。
「でも…中にいる方が安全なんじゃ…」
「…た…確かに…!でも中は危ないし…」
グルゥゥゥッ!
重々しく響く風を切る音。
…音の方向を頼りに上を振り向く。
「…あ!あれは!?」
隕石よりも小さいがそれと勘違いするほどの瓦礫。4m…いや5mはありそうなほどの大きさだ。
「玲那!走って!」
「で…でも…」
玲那の足は震えている。老人会にいる人の様なポーズをしている。
「あ…足が動かないの…」
「そ!そんな…!」
話している間にも近づいてきている瓦礫。
苦悶の表情を浮かべている杏。
「私はいいから…!二人は先に行って!」
「杏!先に行ってろ!」
今まで黙っていた遥真の叫び声。
「俺が玲那を連れていくッ!」
「…任せたよ!」
杏は走って逃げていく。
ゴォォォッ!
「ウオリャァァッ!」
迫り来た瓦礫はついに遥真と玲那を捉える。
眼前に迫った瓦礫はさらに大きく見えた…。
「クゥッ!」
玲那を持ち上げようと腰を掴む。
だが予想以上に重く…
「遥真!逃げて!」
「俺が逃げる訳ねぇだろォッ!」
BAGINッ!
遥真の頭頂部にあの瓦礫が命中した!
…遥真を押し潰して…玲那も…
なんて事はなかった。
瓦礫側が粉砕した。綺麗に粉々になった。
雪の様にパラパラと降り積もる瓦礫だった物。
「遥真大丈夫!?」
「ん…!?」
遥真の顔に近づいた玲那。唇が綺麗だ。
心臓が破裂しそうなほど早い。
「んあぁっ!」
…バタッ
---
「…ふむふむなるほど」
「…と…とりあえず瓦礫が当たった事が原因で倒れた訳じゃなさそうだね」
「…まぁとりあえず目が覚めたら帰れるからね」
「じゃあそう言う事で…」
医者は一礼をすると踵を返して事務所へ向かう。
「まぁ…原因は玲那に近づきすぎたから…かな」
「それ以外考えられないもんね」
「風華ちゃんが喋った!」
「って男ぉぉっ!?」
「ごめんね…言いづらくって…」
「いやいや!嘘でしょ…!?」
「杏そうだよね!?」
「風華ちゃむは可愛い可愛いだけの男の子だよ〜」
「嘘!?こんなぷにぷにで可愛いのに…」
玲那は風華のほっぺを摘む。
スライムの様にむに〜と伸びる。年長さんの女の子にしか見えない。
「ていうか私に近づいたから倒れたってどうゆう事!?」
「そりゃ玲那のこと好きだからだろ」
「え!?遥真私のこと好きなの!?」
「私彼氏いるんだけど!?」
「…そうだよね」
あの風華でも知っている情報だ。
あの風華も知っているんだ。勇と遥真以外誰も友達と言える友達がいない風華でさえだ!
「別の学校の超イケメンの人だよね」
玲那の彼氏はこの学校で言う颯ポジションだ。
つまりは完璧スペックっていうことだ。
「遥真に直接言うのは気が引けたから言わなかったけど」
「ま〜た失恋だな遥真の奴」
集中治療室の前で大笑いする四人。
それとは対照に一人枕を濡らす男がいた。
「か…彼氏いたんかい…」
一人の病室がやたら広い気がした。
3話が終わったので、5月29日(金)から4話に入ります。
良かったら見ていってあげてください。
苦手な戦闘シーンがないので見やすいと思います。




