3-4 つよがり
なかなか終わらないのじゃ
数秒の時が経った。
風に巻かれて紫の煙は消えていく…。
徐々に蛇老の姿が見えてくる。
「久々ジャ…コノ姿ニナルノハ…」
目の前に現れたのは緑色の大蛇。
いや大蛇と言うよりも竜に見えると言う人の方が多いだろう。
それほど大きな蛇が目の前にはいた。
体を揺らし辺りの店内を簡単に蹴散らす蛇老。
尻尾を少し上に上げると簡単に屋根に届く。
屋根のシャンデリアは破裂して蛇老の体に落ちる。…もう助けに行こうとも思えない…。
蛇老の背中に当たるが蛇老は何も知らない様にさらに尻尾を振り回す。
「…お!落ち着け!」
「ダマリャェェッ!」
太く甲高い大蛇の咆哮。
口からは息…いや暴風を放ち、勇の髪の毛は自然にオールバックに変わってしまう。唾がついたことによって尚更オールバックになりやすくなっていたのだ。
「サァテ…喰イ殺スカァ…」
「…なんでそんな怒ってるのか知らないが」
「止めるしかない様だな…黒縄」
黒縄の方を一目見る。
…何故か黒縄は逃げようとしていた。
クイクイッと勇の体を引っ張り、勇を正面口に連れて行こうとする。
あぁ体が勝手に…
どんどん正面口に体が近付いていく。
やっぱり黒縄は引っ張る力が強いな!こりゃ諦めて帰った方がいいかも…。逃げている訳ではない連れてかれるだけだ。
パシンッ!
頭頂部に走る軽い痛み。
あの大蛇の尻尾が当たったわけではない。あんなのが当たったら凹んでしまう。
叩いた犯人は黒縄だ。
今度は何故か大蛇の方を指す黒縄。
怒っている様に見える。ぷんぷんの様だ。
「どっちなんだよ!」
「…何ヲシテルンジャ?」
眼前に迫る大蛇の顔。
目に映りきらないほど大きな顔だ。鼻の穴に人一人入れるくらいだ。
「アァ…」
大きく口を開く大蛇。動くことのできない体。
ビュンッ!
突然空中に浮き上がった。
1秒もかからないうちに天井に到着する。
地面では誰もいないところに噛み付く大蛇。
「さ…サンキュー黒縄…」
黒縄が天井の一本の柱に括りつき引っ張ってくれていた。…ツンデレなのかもしれない。
ポタポタと額から落ちる汗が、居場所を知らせてしまう。
「上カァッッ!」
水を振り切る様に頭を大きく上に上げ、こちらへ一直線に向かってくる大蛇。
体育館の天井に挟まるボールの様に天井に留まる勇。
「ほわぁぁッ!」
勇は雲梯を渡る様にして、黒縄を柱に繋いで逃げていく。
その間に後ろでは大蛇が天井を貫通していた。
「ふぅ…助かった!」
「安心スルニハマダ早イゾッ!」
突然、手元が緩んだ。
これは決して不注意だった訳ではなかった。
ドロォォンッ!
天井が崩れたのだ。
そこから現れたのは天井を貫通した大蛇。
そして勇の視界は闇に呑まれていく…。
-BAD END-
「…はッ!」
「な〜んだ夢かよ…」
夢から覚めた勇。
だがまだ辺りは暗いままだ。
よくトイレで朝の3時くらいに起きるから暗い中で起きるのは結構慣れている。まだ高校生なのに頻尿気味なのは将来が心配だ。
膀胱炎とかではなくて大体ストレスが原因らしい。無意識にストレスを感じてしまっている。
若いうちに禿げそうで怖い。
「実は能力も貰って無かったりして」
両腕を前に出す。全校集会で前習えをする学生に見えてくる。
ビュニャッ…
耳に残る様な嫌な音と共に謎の縄が出てくる。
暗くて色はわからないが質感が黒縄だ。
この片付けができない人の様にガサツ…ではなくガサガサな質感は黒縄しかいない。
「ふむ」
「俺が確か見た夢は変な大蛇に食べられる夢だったんだよなぁ…」
「…なぁなぁ黒縄ちゃん」
黒縄は首を傾げる様にこちらを見てる。
…なかなかに可愛らしい。
擬人化したら黒縄はちょっと面倒くさいツンデレ系の彼女になるのだろう。
「もしかしてここ腹の中?」
黒縄は首を振る。水を振り払う犬の様だ。
「…じゃあここは口の中?」
言っていなかったが足元がネバネバしてる。
小学生の頃に流行ったスライムが、地面に敷き詰められているのかと思った。ちょっと分量を間違えたのか少し水っぽいのが余計にスライムを感じさせた。
黒縄はそっぽを向いている。
「なぁ…もしかしてここのスライムって大蛇の唾液…?」
黒縄は恥ずかしそうに頷く。
「…前から思ってたけど自認女性?」
黒縄はコクコク嬉しそうに頷く。
同じゲーム仲間の性別がおんにゃの子だと気づいた気分だ。言葉にできない嬉しさ。別に可能性を感じてるわけではないが嬉しいもんだ。
「ふッ…まずは脱出することからだな…」
「じゃあどうする?」
呆れた動きをする黒縄。
鼻息荒いシマウマこと勇。
「ん…?あの光なんだ?」
暗い方が明かりは見やすいと昔聞いた。
だけどあんなに分かりやすいとは思わなかった。
あと、一人の勇がこんなにつまらないとは思わなかった。
「…黒縄ちょっと頼みたいことがある」
黒縄は耳?を貸す様に体?を近づけてくる。
「ここが口の中ってことはあの光は外って事だろ?」
「俺は通れないけどお前みたいに細い子なら通れるだろ?」
黒縄は嬉しそうに縦に首?を振る。
自認女性というか性別は本当に女の子なのかもしれない。いや道具に性別があるのかは笑伝に聞かなきゃわからないが。
「そこで頼みがあるんさ」
…一通りの説明を黒縄にした。
話終わると共に、きゅうりを後ろに置かれた猫の様に飛び上がる黒縄。
そしてすぐに首を横に振りまくる。
「ほれ!行け!」
ビュンッ!
目にも止まらない速さで少しの隙間を抜けていく黒縄。そう言えば蛇老はすきっ歯だったことを思い出す。
あのシャンデリアから守った時に見えてしまったのだ。歯磨きしていない様なボロボロな歯が…。
「もうそろそろか…」
「さて…延長戦始めてやるかぁ…」
--歯と歯がズレる音が反響する--
--喉の奥からマグマの様な地響き--
--暴風が背後に吹き荒れる--
「ぶあくしょぉぉん!」
大蛇の大きなくしゃみ。
スライムの様な粘膜と共に放たれた勇。
大砲に打ち出された玉の様に早い。
そして着弾すると大きな穴を開ける。
「痛つ…ッ」
「うわぁ…汚ねぇ…」
唾液だらけの服を脱ぎ捨てる勇。
そして隣には不満そうに顔を近づける黒縄。
それもそのはずで…
勇に放たれた黒縄はそのまま大蛇の鼻の中に入っていった。入っていったのではなく入れたのだが。
そこで逃げようと暴れ回った結果。
黒縄が紙縒の役割を果たして大蛇に大きなくしゃみをさせた訳だ。
なんという偶然なのだろう。こんな事予想もつかなかった。運が良かったのだな!うん!
「…まぁその」
「ごめんなさい…」
鼻水が纏わりついている黒縄。
怖い顔?しながら見てきていた。
おそらく可愛らしい顔をしているんだろうが、その鬼の様な雰囲気に圧倒されてしまう。
「…それよりどうする?黒縄ちん」
「オ…オ前頭オカシクナッタノカ?」
「違うわ!こいつには自我があんだよ!」
「…ソウ言ウ事ニシトイテヤロウ」
悠々と佇む大蛇。その目の前にはドロドロの勇と黒縄。
「…ていうかだな」
「なんでお前は俺を殺そうと思ってるんだ?」
「NULL NULLとかバース様だとかそんな奴に会った事もないんだが?」
「…フッ確カニ、ワシハソウ言ッタ…」
「ダガソンナモノドウデモ良イノジャ」
大蛇の瞳孔が大きく開く。
「フロルヲ殺シタクセシテソノ態度ガ気ニイラナイノジャ!」
「ふっ…」
「何ガオカシイノジャ!」
「アイツは本当に面白い奴だった」
「…ッ!」
「だって返り方説明しようとして本当に帰っちゃったんだぞ?」
「…」
「ソレナラ何故フロルハ帰ッテキテイナイノジャ!」
「…さぁなどこかで寄り道してるんじゃないか?」
「ワシヲ欺ク気カッ!ソレデアノ純粋ナフロルヲ殺シタノカッ!」
唾を飛ばす大蛇。
「このわからず屋ッ!」
「そんなに俺を疑うなら…」
「お前を地獄に送ってやるよッ!」
「本性表シタナッ!小僧ォォッ!」
「黒縄昨日練習してたやつやるぞ…」
大きく縦に首?を縦に振る黒縄。
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昨日の夜のこと…。
「あのフロルの水千ってやつカッコ良かったな…黒縄」
大きく頷く黒縄。
厨二心を忘れてなくて偉いね。
「俺たちもなんかかっこいいの考えようぜ」
「必殺技を考えるにはまず自分の欠点を考えるんだぜ」
黒縄は感激してる様に顔?を近づけてくる。
「わぁ!勇さん凄い!やっぱ天才だぁ!」と言っているのに違いない。全く可愛らしい子だ。
「お前さんの弱点ってやっぱり…」
「威力が無くて…そこまで早くなくって…まぁあと案外わがままだからなぁ…」
黒縄は怒りに悶える様にプルプルと震えている。…最近黒縄に叩かれ過ぎていた事を思い出した。しかも大体おんなじところを叩いてくるのだ…後頭部の右側らへんをずっと叩いてくる。
流石に将来が心配になってきた。
頭の形が変になったり円状に禿げてきたり…心配するだけで白髪が増えそうだ。怖い。
「ま…まぁあれもこれも俺にも悪いところがあるんだよな」
怒りを収めたのか、大きく頷く黒縄。
「俺らにはフロルみたいに高速で連打する事は不可能なんだよな」
「フロルはビュビュビュンッ!ビュビュッ!とって感じじゃん」
「俺たちはララルララ,ララルララ,ララルララ〜って感じじゃん?」
「そこが違いだよなぁ…」
黒縄は大きく頷く。
この一人と一本は案外気が合うのかも知れない。こんな擬音だらけのもので何が伝わったのだろうか。しかも最初のはほとんど下ネタだ。
そして次のはフランス語で「虹」を意味するバンドの歌詞にあった気がする。あんまり良くないぞ!
まぁ簡単に言うとフロルは触手とのコンビネーションによってあの速さと連打ができている。
それと対極に勇と黒縄はコンビネーションが無い。
勇が黒縄を出すタイミングと、黒縄が勝手に出るタイミングがバラバラなのだ。
まぁまだ会ったばかりなのにコンビネーションなんて極めれる方がオカシイ。例えコミュ力化け物でもズレは出るもんだ。勇は全くコミュ力無いわけだが。
「なぁなぁ!一回タイミングを合わせてみないか?」
「なんか力が重複して2倍の力が出るとかあるんじゃないか!?」
黒縄も勇もウキウキだ。
自分で自分の力に限界が無いと知っているうちは人間は最強だ。黒縄は人間では無いが人間みたいなものだ。
「よしゃ!早速やってみようぜ!」
ララルッ!ララルララッ!ラルララッ!
幾千の時が経った
…気がしただけで実際は30分も経ってない。
普段運動していないツケが回ってきただけだ。
基本1週間の運動量は1時間未満だ。体育の授業も入れてだ。
「全然ダメだなぁ…ぜぇぜぇぜぇ」
「お前さんやる気あるか?」
黒縄はブチギレながら首を縦に振っている。
最初元気だった人がうまくいかなくて、30分くらいしたら静かにキレているみたいな感じだ。それで当たってくる奴は本当に性格が悪いと思う。まるで自分を見ているみたいだ。
「お前が合わせる気ないから!」
バチンッ!
「お!お前…!もうそこ絶対叩くなよ!」
「最近髪洗ってる時そこの髪が抜け落ちてるんだよ!」
後頭部にはたんこぶが出来ていて山になっている。アニメや漫画でしかこんなたんこぶみたことがない。
「はぁ…はぁ…ダメだな…」
「次までには仕上げとけよ黒縄」
「お前がなっ!」と言わんばかりに先端を勇の眼前に向ける黒縄。正直言って怖すぎる。
自然に目を瞑ってしまって上唇だけが半開きになる。多分ものすごくぶさいくな面だ。上っ歯がすきっ歯な事がバレてしまいそうだ。
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あれから数時間…ではなく追加で15分くらいやったが、結局できるわけがなかった。
そして諦めて今日この日。
カッコつけて大蛇に勝負を挑んだものの…勝てる見込みなんてのは無かった。
だが顔だけでは余裕の表情を作る。
実力は甲子園予選一回戦レベル。
表情は甲子園TOP4くらいだ。
ドラドタドバァ…!
辺りを蹴散らしながらこちらへ向かってくる大蛇。雪崩が起こった山道の様に、隙間を縫いながらこちらへ向かってくる。
勇は僅かな希望にかけて黒縄をしならせる。
向かってくる大蛇の顔はそれはそれは怖い…!
次の投稿は27日です。




