3-2 謎の老婆、出現
職場に爬虫類好きの二周り離れた先輩がいます。優しいです。
普段は絶対行かない様なオシャレな喫茶店。
風華の目の前には顔よりも大きなパフェ。40代の人が見たら殺人兵器にしか見えない。そんくらいには甘ったるそうだ。
「はいあーん!風華ちゃ〜ん」
玲那は自分のスプーンを風華の口に近づける。そこにお菓子とホイップが乗っているスプーン。しかもそれに加え今まで玲那が食べていたスプーン。これで食べたら間接チュッチュになってしまう。
美人と間接チュッチュ…調子に乗る心。
だが食べてはいけない理由が目の前にあった。
「じ〜…」
杏に見られてしまっている。ここで食べたら勇にも…下手したら舞にも話される危険性がある。
なのでここはステイだ。
玲那は瞬きをして食べるのを待つ。
長いまつ毛が美形をさらに際立たせ、ふざけたおちょぼ口が年相応の女の子らしさを出す。
「食べないの?風華ちゃん」
風華は眉を下げながら首を横に振る。
この誘惑に困ることしかできない。なんとももどかしい。
我ながら耐えれているのはすごいと思う。今にも口を開きそうなのは…秘密にしておこう。
「はぁ…仕方ない」
そんな声と共に視界から杏が現れ、スプーンに乗っていたパフェを一口で頬張る。
驚きで口が開く玲那。少し残念そうな顔をする風華。
「あっ!風華ちゃんの分が!」
「風華ちゃんは甘いものがあんまり得意じゃないから食べさせない様にね!」
「えぇっ!?そうなの風華ちゃん!」
本物の女神はここにいたんだ。
感謝で縦に首を振るのが止まらない。
「わぁ〜そうなのね〜!」
風華は縦に首を振り続ける。
この場の誰よりも髪の長い風華の髪もサラサラと揺れ動く。
「じゃあ次は可愛いお洋服買いましょ〜ね」
ふっ…バカめ…また杏が助けてくれるぜ…。
期待を込めて杏に視線を送る…。
だが杏は玲那と一緒に先に行っている。
杏は軽くこちらを振り向き「ごめん」と口で作る。ごめんじゃないよ…!と言いたいが話せない…もどかしい。だけど女子2人の笑い声に釣られて歩みを進めるのは…男の弱いところだ。
「どんな服がいいかな〜」
「ん〜ボーイッシュなのがいいかな〜?ロリータなドレスがいいかな〜?」
「案外大人っぽいのが似合うかもよ!」
「もう杏天才すぎー!」
「風華ちゃん!迷子になっちゃ危ないから早くおいで〜」
むしろ進んで杏は服装の提案をしている。
酷い。申し訳なさそうな顔をしてるが絶対に心では喜んでいる。案外、本当の女神は意地悪なのかも知れない。
「あー!この服めっちゃ可愛い!」
「あ!これも可愛いよ!」
「もう風華ちゃんに似合いそうな服が多すぎるよ〜!」
…女物の服屋。…女物の雑貨店。色々の店を経た。
そして現在の風華というと…。
「…視線が痛いなぁ」
魅力的なフリフリのシュシュでツインテール。
黒色のお嬢様が来ていそうなロリータドレス。
二次元からそのまま飛び出してきたのか!?と勘違いしそうなビジュが、このありふれたフードコートに存在している。
視線が痛い…と風華は言うが皆の目はアイドルを見る様な目で、現実のものとは思えてない様子だ。男女ともにそれは変わらない。
フードコートの木の椅子が完全に浮いてる。
「キャー!蛇っ!?」
女性の甲高い声がフードコート中に響く。
本来ならこんなところに蛇なんているはずない。いるなら爬虫類コーナーから脱走した奴だけだ。
まぁここに爬虫類コーナーなんて無いが訳だが…。何か勘違いしたのだろう。ロープとかね。
「玲那さんと杏まだかなぁ…」
玲那と杏はご飯を取りに行ってくれている。
女の子に取りに行かせるとは何事だ!?と一部の層がキレそうだが…。
こんなドレスを着ながら取ってきて!って言う方がヤバいだろ!っとツッコミたくもなる。
「きゃー!ここにも蛇よ!」
もうこの声を聞くのは何度目だろう。
十何回はもう聞いちゃってる。
そしてその後のドタバタも…もう耳が慣れた。
その後は大体こんな風に…周りに人がいなくなって…代わりに無数の蛇に囲まれてる…。
あれなんで蛇に囲まれてるんだろう…。
「ひゃぁッ!?」
驚きで素っ頓狂な声が漏れる。どこぞの三分しか持たない正義のヒーローみたいな声。…の完全劣化版。
「な!なんで蛇!?」
「風華ちゃん!早く逃げて来て!」
玲那の叫び声が遠くから聞こえる。
逃げてこいと言われても…と言いたくなるが自分には"飛行"があったことを思い出す。
「仕方ない…恥ずかしいから使いたくなかったけど…」
ふわぁふわぁ〜!とスカートが動きながら飛び上がる。女神が天に昇っている様だ。…男物のパンチが見えて一気に現実に戻される涙。
そして天井スレスレに留まる。
「ふっふっふっ…これならあの蛇ちゃんたちもここへは来れまい!」
「え!?なんか風華ちゃんが飛んでるんだけど!?え!?私死んじゃった!?それとも風華ちゃんが!?」
「ま…まぁ風華には色んな事情があるのですよ」
「風華ちゃん…カッコいいところもあるのね…ギャップ萌えだなぁ!それもかわゆす〜」
呑気な事を言っている玲那。
だがもう近くには蛇が来ていて…。
「ちょ!早く逃げるよ!」
「でも風華ちゃんがっ!」
「大丈夫!あの子強いから!」
「ほ…本当だねっ!?」
「うん!」
逃げていく玲那と杏。その後ろでは…
蛇が積み重なっていた。
「ひやぁぁ!」
「最近の蛇ってこんな頭良いの!?」
蛇は密談しているように顔を寄せ合って、積み重なった蛇の上を一匹一匹登っていく。器用すぎる。
6mほどの高さにいる風華にもうすぐ届きそうなほど積み重なっている。
「来るなぁ!」
「シャー!」
爬虫類は苦手だ。あの肌感が絶妙な気持ち悪さを感じさせ、案外表情豊かなところが気持ちが悪い。まぁそんなこと関係ないが。
「辞めてぇぇ!」
ジタバタと足を振り回す風華。もう本当に嫌いみたいだ。ていうか多数派は風華だろう。
バシッ!
それが運良く積み重なった蛇に当たった!ラッキー!だが当たった時にグニョってなったのが今も足にこびりついている。
それを機に積み重なった蛇タワーは崩れていく。ジェンガのようだ。
「わ!ワシの可愛い蛇ちゃんが…!」
もう誰もいないフードコートに1人の老婆の声が聞こえる。その声はヨボヨボで低い声をしていた。普通のスーパーにいそうなおばちゃんの声だ。
「お!おばあちゃん!早く逃げないと…!」
「ワシが普通の老婆じゃと思うておるのか…?」
「も…!もしかして…」
「ひょっひょっ…お前の思うておる通り…」
「150年後の…俺なのか…?」
「そ!そんなわけないじゃろ!」
「お…!お前人間じゃろ!?いくつまで生きるつもりなんじゃ」
「80〜」
「…」
「ワシの顔が骸骨じゃと言いたいんじゃな…」
「えへへ〜冗談だよ〜?」
…老婆は本当に骸骨の様な顔をしている。頬がこけていて、全体的に肌が白い。黒いフード付きの和装コートを着ているから余計に白さが際立つ。白ゴマと黒ゴマを2対8で混ぜたらこの老婆になる。
白ゴマが名ばかりの詐欺師ということは黙っておく。
「その表情本気じゃな…?」
「バレてたのか…ゴマったゴマった」
「お前…何も理解していないようじゃな…」
何かオーラが変わった。
オーラが変わったって言うよりかは裾やダボダボな首元から、蛇が十数匹出て来ている。
それに老婆の顔には無数のシワが現れ…いやこれは元々だった。
「…ッ」
「やっと自分が置かれている状況に気付いたようじゃな…若僧」
「…ぐ…ぐぬぬ…」
「とりあえずまずは自己紹介からしましょ!」
「うむそうじゃな…」
「ワシの名前は蛇浪じゃ」
「趣味は〜」
「合コンなのッ!?てかおばあちゃん合コン行ったことないでしょ!?」
「あるわい!」
「ありきたりじゃが…五次会で公園ヨガ…九次会でゲートボール…十三次会玄関駄弁り…」
「次会じゃなくて時会じゃないの!?」
「そうじゃったな」
さも当然の面をしている蛇浪。蛇浪って言うか蛇老が正しいと思う。蛇浪だとカッコ良すぎる気もする。
「じゃ…じゃあ次は俺か…」
「お前の名前なんてもう分かりきっている…」
蛇老はガバッと胸の辺りを開く。和装コートだから開きやすいこともあって、ヤギの乳にも似た蛇老の胸が見える。いや正確には見たくなくて目を瞑った。初のリアル胸は汚されたくないのだ。
そこから変な白い紙を取り出す。
「佐藤風華…18歳…男…男…男!?」
「この情報間違っておるなぁ…」
「俺は男だよ!」
「女のワシより可愛いぞ…?」
「普通の男でも蛇老さんよりは可愛いと思うけど…」
「お主モテないじゃろ」
「…モテてたらこんな格好してないもん」
「それもそうじゃな…うへへひっひっ!」
ガチで性格の悪い人しかしない笑い方。さっきの引き笑いが可愛く見えるほどだ。決して可愛くはないが。
まぁこんなフリフリのドレス着てこの口調で笑わない方がおかしいと思うが…。
「それじゃあ早速…」
「死んでもらうぞ…佐藤風華よっ!」
手を前に出してくる蛇老。ふっくらとした袖口。
闇のように暗い袖口からは無数の赤い光がまばらに散らばっていて、その数は50を優に超えていた。
「何を…?」
「すぐに分かる…」
「蛇術…」
聞けば分かる。絶対蛇が出てくる技だ。これで物理攻撃の技だったりしたらセンスがない。
「竜頭蛇尾っ!」
「行くのじゃっ!」
ふっくらとした両手の袖口から無数の赤い目をした蛇が現れる。大きさはまばらだが長さは底知れない。十mは伸びていそうだが、尻尾は見えない。袖口にまだ収まっている。
それが一直線に襲ってくるのだから怖いのなんの。しかも早い。
「SOZO…」
「刀…」
一連の流れを経て刀を取り出す。
「いやぁぁぁ!」
そしてがむしゃらに刀を振り回す。刀を出すまでは格好いい。
もう目にも入れたくない様子でそっぽに顔を向けながら。駄々をこねる幼女のようだ。
バキ!ボギ!ニョギ!
奇跡の三連打。
刀身が無数に固まった蛇の側面を捉える。
そして蛇たちは力無くその場に叩き落とされる。
「…す…凄いじゃないかお前」
「ふっ…ふふん!そうだろ…?」
「まさか刀を使って一匹も切れないとは…」
「…俺は優しい子なの!」
「ふん…じゃがその優しさが」
「仇となるのじゃ…」
不気味な雰囲気を漂わす蛇老。
「蛇術・斗刹蛇行」
突如視界が揺れた。浮いているのに沼に足を取られた様な気分だ。
気持ちの悪い触感の正体を確認すらために下を向く。…すぐに見なければ良かったと後悔した…。
積み重なった無数の蛇に足を取り巻かれていた。噛みつかれたりされるより、こっちの方が嫌だった。
この足をうねり這う感覚…鳥肌が立ちまくる。
「ギヤァァッ!」
「蛇老さん!辞めてぇ!」
「まずその老って言うのを辞めんか!」
「な…!なんでバレてるのッ!?」
「そんなことどうでもいいんじゃ!」
「お前どうするつもりなんじゃ?」
「その刀を振っても足を切る…お前は逃げれない蛇の罠に嵌ったんじゃぞ…?」
「ぎゃ…逆にどうするつもりなの?俺のこと…」
「それは…」
数分後…。
「ギャァ!辞めてぇ!」
さっきからこのセリフしか言ってない気がする。
「このロープは解けまい…」
「ロープじゃなくて蛇でしょ!?」
ロープという名の蛇によって壁に括り付けられる風華。後ろの壁がふくらはぎに当たってほんのり冷たい。
それよりも体を這う蛇の感覚がキモい。特に股間を重点的に這っている蛇。
こいつは一生許さない!ムズムズする。
「も…!もしかして蛇に食べさせる気!?」
「ひにょっひにょっ…違う」
…蛇老はあまり笑い方が定まってないようだ。
引き笑いに性格悪い笑い、それに次はネットのおもちゃにもなり得そうな笑い方。個人的には三番の笑い方が一番好きだ。引き笑い気味なのがなかなかに面白い。
「もしかして…!このまま毒牙にかける気!?」
「うまいこと言った顔をしているがそんな事はない」
「…えぇ…じゃあどうするの!まさか拷問?」
「そんな事はせん」
「何するのさ!」
「まぁまぁ見ておけ…」
「ここに一匹の蛇がおるじゃろ?」
「おりますけど…」
袖口から一匹の蛇が出てきている。
ふよふよと全身の筋肉を使って上半身?だけを起こして、動けない風華を煽る。勇の黒縄を見ているような気分だ。
だが風華はそれで怒るほど短気ではない。
まぁでもほっぺを膨らまして力強く目を瞑る。目にシワの様なものができていて…可愛らしい。
この服装でこの顔は本当に幼女要素が強すぎる。
「この一匹にとある術を掛ける」
「蛇術・已己巳己」
"已己巳己"これは絶対遥か昔のお笑い芸人がふざけて付けた四字熟語だろう。漢字ですらふざけてるのに読み方も"いこみき"とかアイドルとかのニックネームでしかなさそうだ。ゴマキとかのライバルにいそうだ。
ローリング娘、とかに。
たしかこの四字熟語の意味は…
「そっくりなもの…」だった気がする。
つまり…
蛇老の袖口から出てきて蛇。
それがいつの間にか風華の顔になっていた。美化するて変に醜くするでもない…目の前に鏡があるような気分だ。
「ほれほれどんな気分じゃ?」
「な…なんか変な気分!」
「こ…こんなことをするために?」
「なわけあるまいほれ…風華よ話してみろ」
蛇…ではなく風華もどきの頭を2度叩く。
すると感情の死んでいるような風華もどきの目に光が宿る。
「あーあー!」
…自分とおんなじ声が自分とおんなじ顔から聞こえる。しかも表情付きで…。
パペット人形が話してるのかとも思った。
気持ち悪すぎる。自分の顔とか声が気持ち悪いという訳ではない。
自分の声を録音したのを再生すると、別の人の声に聞こえる現象があるだろう。それだ。
それはいっつも本当に別の人が話してると結論づけて逃げてきていた。
…だが今回は別だ。
目の前に自分の顔がいる。
いつもの結論では逃げきれない。
ここはまさしく地獄。いや自獄。なんつって。
「まず動きがめちゃくちゃ綺麗です」
「足が無いのに自分のリズムで地面を這う、川の字を描いているようで…美しいです」
「や!辞めてぇ!俺の声でそんなこと言わないでよぉッ!」
実は生き物の中で蛇が一番苦手だ。
しかも風華もどきの話していた蛇の動き。あれが一番嫌いなんだ。
「なんでそんなことするんだ…」
「知らぬ…ワシの所属するNULLのボスのバース様の指示じゃ…」
「NULL…?バース様…?」
「フロルの奴…いらぬ事を言い寄ったな」
「蛇老さんが言ってたんだよ!」
「て言うかフロルさんも知ってるの!?」
「そうじゃ…お前たちが殺したフロルのな…」
「…殺した?」
「ふっ…せいぜいそこで苦しんでおくのじゃ」
「フロルを殺した罰だと捉えよ…」
袖口から風華もどきを取り出すと目の前に佇むフードコートの机の上に置く。
「あと!顔が可愛いところだよね!」
この風華もどき…数秒のうちに口調も似てきやがった。それがとにかく嫌だ。
自分の子供っぽさを再確認させられる…。
もっと勇みたいにクール…というか厨二病っぽく話してみたかった。あの「俺何も気にしてないぜ?」って感じに憧れるお年頃なのだ。
「舌をぺろぺろさせるのがとにかく可愛い!」
「助けてぇ!勇…!」
その少し前…勇たちは…
関係ないですけどいつか高校生の頃書いた短い話を投稿したいです。火、木、土日のどこかに。




