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ANCIENT -無代譚-  作者: 美朱太
未開の少年たち
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11/40

2-2 もう笑えないよ

今日も仕事疲れました。

見てくれるだけでハピネス。

ずっと長い夢を見ていた気がする…。

変なおっさんに能力を貰って…風華が復活して…懐かしい…。


カッコつけたって遅刻しそうな事実は変わらない。

あの夢も3日くらい前の話だ。言い訳にすらならない。


正直言ったら大分マズイのだ。

校門が閉まるのは8時20分。

なんと!家を出たのは8時16分!普通に寝坊した!

しかも校門には熱血教師の高橋が待っている。

竹刀に白いハチマキ。今は令和ぞ?

しかもこの高橋、昭和を生きてないんだぞ。まだ28歳らしい。

だが今日はなんだか普段とは違う。

高橋が清楚系美女になってたわけじゃない。


分かりやすく足が速くなっているのだ。

軽く走っても自転車と同じくらいの速度で走れる様になっている。横を通った時の運転者の顔は忘れられない。ムンクの叫びの様な顔。

夢で起きたことは事実の様だと実感する。

これなら校門が閉まるまでに入れる!

そしてこの足の速さで体育祭で無双…。

女子から話しかけられまくってモテモテ…。ぐへへ…


 「おいッ!勇話を聞いてるのか!」

 「き!聞いてます!」

自転車と同じ速さでも無理だよねって話で…。

高橋にみっちりと説教を受ける。

体罰の様な事は一切されてない。ただ汗臭い。

噂によると高橋は毎朝グラウンド10周してから校門の前に立っているらしい。恐ろしすぎる。

背中を丸めながら生徒指導室を出る。


 「ねぇ!聞いた?あの可愛いすぎる男の子また学校来るようになったんだって!」

 「一時期不登校だったらしいね!」

一つ下の女子生徒による噂話。

可愛い男の子…思い当たるのは一人しかいない。

これほどの噂になる男は風華しかいなかった。

蘇生されたのは3日前なのに…サボっていたのだろう。


一個下の学年には熱烈な風華love団体がある。ガチ恋って感じだが、メンバーはもれなく全員男だ。

しかも風華を男だと全員が知っている。

今日は風華も大変そうだ。人見知りだし。


ガラガラ…と立て付けの悪い教室の扉を開く。

説教されている間に朝学活は終わっていて、今は1限が始まるまでの15分間休み。

風華は一躍時の人となっていた。

風華の席の周りに集まっている人がほとんど。

もちろん風華を嫌いな人は目を尖らせてグループを作っている。

だがただ一人で…机に突っ伏す女子がいた。

 「杏…」

気持ちよさそうに涎を垂らしながら眠る杏。一応ここは家では無く学校だ。

まだ一限すら始まっていないのにこの眠りよう…この先が心配すぎる。

だが起こさない様に静かに一限の支度を始める。


ヴォアを退治した後、杏は無理をする事が無くなった。

あれだけ授業中に手を挙げてたのに、今は目を開けている方が珍しい。それは良くないが…。

無理に友達を作ろうともせずに、親友と呼べる人と昼休みは過ごしている。

自由気ままに学校生活を謳歌する杏に正直憧れてしまう。授業中に寝てみたい。

けど一週間に一度の小テストで点数を取れないからダメだ。

杏は家で勉強しているから点数を取れている。


こうして杏の勉強事情を知っているのも同じ屋根の下で昼夜を共にしているからだ。

ヴォアを退治した後、行きどころが無くなった杏。

施設に行く事になるかも知れなかったのだが、両親が「うちに居ていいよ」と言った事で同じ家に住む事になった。

勇としてもそれは嬉しいことだった。

どんな理由をつけようとしても、杏と毎日会えるからと言うのが大きすぎる。


だがこの事は誰にも言っていない。

お互いの親友にさえ黙っておく事にした。

もちろん風華にも言ってないし言う気もない。


視線を風華に移してみる。

相変わらず凄い人だかり。新作のゲームの発売日の様だ。

そこに一人の女子が手を振る。

 「あっ!風華くん!久しぶりだね!」

この学校で唯一風華に「くん」づけをする女子。

このポニーテールの無邪気な美少女は山下舞(やましたまい)

普段は首の付け根辺りのボブなのだが、体育や暑い日だとこうして髪を結んでいる。

この学校でもかなりモテる。

あの杏と双璧を成すとも言われている。

美人が好きなら杏。可愛いが好きなら舞。

大体この二人に分かれている。女の子版龍虎。

まぁ風華派が一番多い事には言及しないでおこう。

あいつは正直別格なのだ。


舞の話に戻ろう。

このクラスの学級委員。言わずもがな学校の人気者だ。

だが良く子供みたいと揶揄われることから低身長な事と幼い顔の事がコンプレックス。

子供みたいと言われるのは性格も大いに影響している気もするが…。

あとここだけの話…かなりの巨乳だ。顔の幼さとは大違い。これも人気の所以だ。


 「ひ…!久しぶり…ッ!」

声が上擦っている。

この反応で分かる通り風華は舞が好きだ。

しかも中学生の頃からずっと好きだ。

舞が志望していた高校を知ると、底辺高校からここに志望校を変えた。

先生には到底無理だと言われていたが合格した。かなり勉強をしていた様だった。

風華は純粋にストーカー気質の様だ

誰かに似ている様な気がするが気のせいだろうか…。


風華は良く恋愛相談をしてくる。

朝早くとか夜遅く。とにかく舞への想いが強くなったら連絡してくる様で時間はまちまちだ。

はっきり言うとかなり迷惑している。

だが風華はテンションが上がるとお喋りが止まらず…仕方なくそれを聞くことしか出来ない。

たまに良いアドバイスをしても実行しない。

かれこれそれが3年。

せっかく同じ高校で同じクラスなのに何も進歩していない。話すことすらほとんどない。


心の中で風華への愚痴を呟くと杏が欠伸をして目を覚ます。顔には痕が付いているが…言わない方がいいだろう。

 「ふぁ…おはよぉ…」

 「あ…杏おはよ」

微妙な関係でそこそこ気まずい。

別に振られたから…話せないと言う訳じゃない。別に家だと普通に話してるし仲は良いと思う。一緒にテレビゲームもしてるし…

けどそこに恋愛感情が乗ってるか…と聞かれると難しい。こっちは乗ってるがあっちは乗っていない。気がする…というか多分そうだ。

杏も騒がしい風華の席が気になる様でその席を見る。

 「風華がいるんだけどっ…!?」

 「目の錯覚!?脳の処理不足!?」

 「まぁ…色々あって風華は復活した」

 「き…気になる!」

勇は事細かく説明した。

風華が復活した理由と…二人には現在能力が備わっていることを説明した。

 「そっか!」

意外にも端的な言葉。拍子抜けだ。

 「話を聞く限り…あいつみたいなヤバい奴がいっぱいいるんだね…」

 「そうらしい…」

 「じゃあ!これからは勇が守ってくれるってこと!?」

 「は…はい…」

 「やった〜!」

可愛らしく両腕を伸ばす。

いつもよりあざとく、可愛く見える。

クールな可愛さを上回っている!ブッ刺さる!

 「てか!舞ちゃんと話してるじゃん!」

 「それは脳のバグだ」

 「風華は頷いてるだけで話してない」

 「あ…本当だ」

 「仕方ない〜!」

 「可愛い可愛い風華の為にウチが一肌脱いじゃるか〜」

ガラガラと椅子を引いて立ち上がる杏。

仕方ない…と言っていながら顔はワクワクしていた。そしてスキップの様な小走りをしながら風華の隣に向かう。

 「ねぇ!知ってる!?」

 「実は風華は〜舞ちゃんのこと〜!」

もうほとんど言っている様なものだ。

だが皆鈍感らしい!誰も気づいていない。

ただ一人風華だけは何を言おうとしているのかに気付き杏の口を抑えようとする。

 「キャ〜変態〜!」

杏の作戦はこうだろう。

舞の目の前で騒いで注目を集める。

それから舞も会話に参加する。

風華も話せる様になるかも!?

…って事は予想できるが「変態」と聞いて会話に入ろうとする者は誰もいない。

もちろん舞も興味を示さずに愛想笑いをする。

ていうか杏と舞ははちゃめちゃに仲が良い。

この前は舞の家に泊まりに行くみたいなことを聞いたし…。普通に共通の友人として話すのも悪くないと思うのだが…これはモテない側の意見なのだろうか。


ガラガラ…ッ!と勢いよく教室の前の扉が開く。

 「舞ッ!」

そしてそこからセンター分けのイケメンが顔を出す。

確か…あの男は学年イケメンランキング第2位の男!もちろん勇は30位くらいの中途半端!そしてサッカー部…そのくせバスケがはちゃめちゃにうまい。中学生の頃にやっていた奴が普通に負けたらしい。完封負け。可哀想だな。

それに加え、隣のクラスの学級委員長!頭も良い!親も太い!最強スペック!

名前は…

 「颯くん!どうしたの!?」

颯だ…行方颯…。嫌いじゃないが聞きたくはない。バスケの一件以来すっかりトラウマになってしまった。…。

 「資料が多いから一緒に運ばない?」

 「え…えと!分かった!」

舞は走って教室を出ていく。

そして横並びで資料室へ歩いていく。

イケメンと美少女はそれだけでも絵になる。

却って教室では…。

完全なるお通夜ムード。

この中に故人側だった風華がいる事に気付き笑いを堪える。不謹慎すぎるが…風華が今生きているからこそ笑える。神様…ありがとう。

その状況に耐えきれなくなった女子は、風華の背中を撫でる。皆全然鈍感じゃなかった。

本当に気づいてなさそうなのは舞くらいだった。

 「風華…大丈夫!次があるよ!」

 「そうだよ!風華可愛いし!」

 「ほら!俺とか興味ない!?案外イケてるぜ!?」

 「別に風華が良いなら今日の夜空いてるけど!俺んち誰もいないんだ!」

風華の背中を撫で慰めの言葉を懸ける。

男子の数人はほとんど告白の様なものだったが…この光景こそが本当の男女平等なのではないか…?


クラスメートの優しさが胸に沁みる。

優しいのにその優しさが悲しみを増やしている。自分の惨めさが浮き彫りになってくる。

だがそれに気づく者は誰一人としていない。 


風華の大爆死以外には特筆する点はなかった。

久しぶりの学校だと言うのに…話しかけてくれる人はいつもと変わらなかった…。


授業を終えると風華と帰路につく。

久しぶりの授業ということもあり…だいぶ疲れた。普段平然とやっていたが、色々な部分を使っていたのだと分かった。

 「もう学校行かない!」

 「子供みたいなこと言うなって」

 「勇も振られたクセにぃ…もっと焦ってよ!」

 「まぁまぁ落ち着きなさいな」

まず好きな人と話せない人が目の前にいると、自然と余裕も出ちゃうものだ。

しかもこっちは同じ屋根の下に住んでいる。

彼氏がいないことも知っている。

これからは徐々に距離を詰めていくターンなのだろう。

 「むぅぅ!ムカつくぅ!」

 「ははは〜怒っちゃダメだぞ〜」

 「ッて!?まさかもう!?」

股間に走る激痛。下を見ると風華が股間を鷲掴みにしている。これは玉であって球ではない。

 「良かった…仲間だぁ…」

 「…ぉおオォッ…」

何がどうあれ…こうして風華と歩けるのは嬉しいものだ。約1ヶ月ぶり…。長くても一日だけ会えない時はあったが…こんなに長く会えないのは初めてだ。

よく考えると…なんでこんなに風華と居るのだろう。休みもずっと風華はくっついてくる。いつも凄くニコニコしながら。

別に嫌じゃない。むしろ嬉しいが…。

万が一のそっち系の可能性も考えるが…正直、別に嫌とは思えない。

男が好きなわけでは無い!…が昔だったら、杏と歩いて家に帰りたい!とか言ってそうだが…風華と帰るのも一興と考えるのは歳のせいかな。

 「噂に聞いたけど…」

 「えっ!?なになに!」

一瞬で元気になり顔を近づける。

風華の長い髪の毛が揺れる。

 「舞と颯、遊園地デート行ったらしい」

 「傷口抉らないでよッ!」

 「ていうか!話してないのに付き合えると思わない方が良いぞ」

 「分かってる!…けど!恥ずかしいもんは無理だもん!」

 「もんもんもんもん文句ばっかり言ってちゃモテないぞ!」

目に涙を浮かべながら小刻みに震える風華。

この反応を見たいが為にやってることがほとんどだ。

 「じょ!冗談だって!」

 「別に舞と颯は付き合ってないらしいし」

 「ほ!本当ぉ…?」

 「真実を確かめたいなら舞に直接聞いてみろ」

 「ぐぬぬぅ…ッ!」

顔が緩んだり、歯を食いしばったり、表情の変化が激しい。風華と話していると子犬と遊んでいる様な気分だ。

 「それより風華が生き返ってるって事はよ」

 「あの夢のことは全部現実って事なんだよな」

 「そうみたいだね…」

 「明らかに身体能力も上がってたし…」

 「じゃあ能力も使えるってこと!?」

大きく口を開き顔を近づける風華。

犬歯がよく見える。本当に犬なのかも知れない。顔は子猫みたいなのに…。

 「まぁ肝心の能力を使える相手が居ないけどな」

 「確かにね!」

 「神様が言ってた地球外生命体?って言うのの話も一切聞かないしね!」

 「まぁあの歯抜けの神だし間違えてたんだろ」

 「ちょっと勇!」

 「歯抜けのハゲでも神様は神様だよ!敬わなきゃ!」

 「そっかそっか!」

 「わっはっはっは!」

ギャグ漫画の様に大きな口を開けて笑う二人。

おにぎり3個は放り込めそうなほどに。


突然グラウンドから謎の砂埃が舞う。

そして女子と男子混ぜ合わさった悲鳴。四部合唱の様だ。

だがその声に綺麗さは無くただただ慌てている様な声で…

徐々に二人の顔は曇ってくる。

トモコレで泣きかけました。

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