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18-5 グレイシャルLOVE

 「お兄さんが…悪いンダ〜っ!」

 「…これまずそう」

 「お兄さんなんて〜!死んじゃエっ!」

 「ぐちゃぐちゃになって消えちゃエっ!」

クシュは勇の腕ごと抱きしめている。

しかもこの華奢な体のどこに力があるのか…勇が全身に力を入れてみてもぴくりとも動かない。

 「死んじゃエっ!死んじゃエっ!」

 「…ッ!」

勇の口からは少量の真っ赤な血が流れ出る。

おそらく今は血流が乱されている頃だろう…頭に血が回っていないのか目の前のクシュの可愛い顔がぼやけてしか見えない。

 「…あぁ」

 「キャハっ…!立ってるのもやっとなんじゃナイ…?」

 「…あぁ…杏…」

真っ白な背景の走馬灯が見えてくる。

そこには父や母、姉の家族の他に…杏とか舞…風華、遥真…霊愛とかの友達もそこに写っている。関係の少ないモカとかあとその友達の金髪…案外人の顔は覚えているものだ…。

思い出す時間が少ないだけで…脳みそにはこびりついている。

みんな天使の様な笑みを見せていて…自分がどれだけ恵まれていたのかを今になって実感する。

 「…っ!」

なぜかクシュの抱きしめてくる力が弱くなった。今なら簡単に腕から出ていけそうだ。

しかも能力を解除したのか頭にも血が戻ってきている様でよくクシュの綺麗な顔が見える。

それにしても近すぎる気がして…口唇にも何か違和感がある気がする。

クシュの白く長いまつ毛が自分のまつ毛と絡まっている。つまりその…キスをしてしまっていた。久しぶりのキスの味は鉄の味がした。

 「ん…!んんッ!?」

 「ん…」

ディープなキッス…

ベロとベロが絡み合って…官能小説のような愛と愛のぶつかり合いのようなキス。…しかし一方は殺しに来ていて…一方はそのキスを拒否っている。

…だがそのクシュの綺麗な笑顔を見ていると…このキスも悪くないのかなぁと思えてしまう。

 「あ…」

 「…ッ!?」

勇が至福そうな惚気顔…いわゆる鼻が大きく開いたドスケベな面をしちゃっているのを遥真が呆然と見ていた。

口では月も身を引くほどの美少女のキスをしながら、目と目が合っているのは…萩原健一のようなイケメンではあるが丸刈りな遥真。

ゴーヤチャンプルでも食べてるような気分になる。

 「うわ…ガチキスじゃん…」

普段なら温泉を見つけた猿のように騒ぎ立てて、その実羨ましがっているのが分かる声を上がるくせに…今は完全にドン引きした声を出している。

 「これ杏に言ってみようかな…」

 「んん…ッ!」

杏は何故かこーゆーキスになると厳しくなる。おそらくロマンチストだからドラマとかのキスを求めているんだろう…キムタクと松たか子に憧れていた。

だから勇は壊れたおもちゃのように必死に首を振っている。杏がロマンチストだからってのもあるが、好きな人に他の女の子とキスをしていたと知られたら嫌って思うのが男だ。しかも前科もある。

 「…んっ!」

 「んぐッ!」

キスをされながら金的を蹴り上げられる。

しかも足の甲などではなくって膝で蹴り上げられた。こんな摩訶不思議な光景二度とみることはないだろう。

 「…杏も怒るだろうなぁ」

 「ングッ!?」

また金的を蹴り上げられて…頭がクラクラする。

…ていうか遥真はなんで助けてくれないんだろう。噂話をする主婦みたいに口に手を当ててこっちを見ている。カラスみたいな目。

 「ぷはぁっ…」

 「ふぅ…ふぅ…」

やっとキス天国…ではなくて地獄から抜け出した勇は息を荒くしながら呼吸をする。

キスをする前は満面の笑みだったクシュは、何故か不満そうな笑みを見せている。そんなにキスが下手くそだったのだろうか…

 「杏…」

 「な…杏がどうしたんだ?」

 「なんでも…ないっ!」

 「…ッ!?」

背後から伝わる凍てつくような殺意…!

クシュの能力で操られていた黒縄は、あのキスシーンの時に解除されている…

勇は慌てながら黒縄を地面に突き刺す。

 「…黒縄ッ!クシュを引き剥がせッ!」

 「キャハっ!死ぬまで離さないっテ〜」

 「…ッ!いいから退けッ!」

 「キャっ!」

勇はクシュの体を引き剥がす。

しかし…クシュは無邪気に両手を広げて近づいてくる。まるで2歳児のようなその笑顔と行動。

だが勇の目は鋭くクシュを睨みつける。

 「…バカッ!近づくなッ!」

 「黒縄ッ!クシュの肩を打てッ!」


 ビュンッ!


黒縄は目にも止まらぬ速さで地面から飛び出し、そのあまりのスピードにクシュは回避すらできずに肩に黒縄が激突する。

相当な勢いだったからか…クシュは数m吹き飛ばされ地面に尻餅をつく。ちゃんと痛かったのかクシュは笑顔で顔を歪めている。


 グシュウッ!


あまりにも鈍い音がクシュと遥真の耳に入ってくる。…そしてそれと同時にクシュの顔には真っ赤でサラッとした液体が掛かる。

 「キャハっ…!お兄さん急にど〜した…ノ…?」

クシュは歪めた顔で精一杯の笑顔を作りながらその顔を上げる。

…その目の前の光景を見たクシュは目を丸くする。

 「…お兄…お兄さん…?」

 「クシュ…よく注意を引いてくれたじょり…」

 「ク…ブハァッ!」

勇は真っ赤な血を吹き出し、勇の目の前のグラウンドには大量の血の池ができる。まさに血の池地獄だ。

…クシュは状況を理解することができない。

攻撃ができないと言っていたブージアが勇の腹部を無数の刃物で突き刺している…もう内臓すら貫通しているんだろう勇の顔は真っ青になっていっている。

 「ク…シュ…嘘ついてたの…か?」

 「…キャハ」

 「おかしイネ…」

 「なんでブージア爺じが…?」

 「敵を騙すならまずは味方からじょり…」

 「で…でもサ…っ」

クシュは身を乗り出してブージアに近づき何か言葉を発そうとする。…しかし背後から迫る悍ましい空気の圧に怯えてしまい喉から声が出なくなってしまう。

 「…おい緑色の化け物」

 「今すぐ勇から離れろ…」

 「…緑色の化け物はワシの事じょりか?」

 「…お前以外誰がいる?」

 「じょッじょッ!じょりじょりッ!」

吐き気を催すほどの気色悪い笑い方をするブージア。見た目もゴーヤのようにしわくちゃで気持ちが悪い。

…しかも異様に顔が横に大きくそれに比例して目も横に長くなっていて…およそ人間ではない容姿…化け物としか言いようがない。

 「ワシは一対一では弱いじょり…」

 「クシュ…あのハゲ男なら距離を取るじょり」

 「…」

 「クシュ何ぼーっとしてるじょり?」

 「…っ!キャハ…!そ〜ダネ〜…っ!」

クシュは立ち上がり遥真から距離を取り、ブージアはお風呂の栓を抜くように容易く勇の体から刃物を抜き遥真から距離を取る。

しかも気色の悪いことに…その刃物は手には握られておらず服の中から出ているように見えた。

皮肉にもブージアの刃物で立っていられた勇は、刃物を体から抜かれると力無く地面に顔をつける。

ブージアやクシュなんてどうでも良い…遥真は一目散にその倒れた勇の元へと走る。

 「勇…まだ地面は熱いだろ…?は…早く起き上がってくれよ…」

 「む…無理言うな…」

 「そ…それより…な…何か…マズイ気がする…」

 「風華が…風華が…」

 「風華がどうしたんだ…?」

 「…風華に…もう二度と殺しをさせるな…」

 「…遥真…頼…」

勇は眠るように静かに目を閉じる。

…刺された腹部を見てみると黒縄が必死に止血をしていて、内臓が溢れ出すことは防いでいる。…だがおそらく内臓は使い物にならないだろう…黒縄はそれを分かっているんだと思う…。

 「…ッ!?」

押しつぶされてしまいそうな殺意…

これはブージアのものでもクシュのものでもない事は明らかだ…。底の見えない深海のような殺意。全身が恐怖に震えて寒くもないのに口が震え出し歯と歯がぶつかり合う。

 「…勇」

 「ふ…風華…お前頭は…」

 「勇…死んじゃったの…?」

子供のように首を傾げながら勇に近づいてくる風華。…顔は綺麗なのだがその瞳には全く光なんかありやしなかった。

 「…誰が勇をこんな目に合わせたの?」

 「…遥真じゃないよね?」

 「俺がする訳ないだろ…!」

 「じゃああの…おじいちゃんと女の子か…」

 「…眠れる獅子のお目覚めのようだじょり」

 「…どうするノ?ブージア爺じ…」

 「あの男の能力は確かSOZOだったじょり」

 「…クシュ…ここは一旦引くじょり」

 「…キャハ…ブージア爺じが逃げたくなるなんて〜」

 「笑ってる場合ではないじょり…」

ブージアはクシュの手を引き来ていた紫のコートをマントのように開く。そこには体なんてものはなく…何故か深淵が広がっていた。

 「創造…移動…」


 ビュンッ!


遥真の目の前を歩いていたら勇は、瞬きをしている間に消え…いつの間にか風華はブージアとクシュの元へ移動していた。

 「…じょりッ!」

しかし風華の行動を予想していたのか、ブージアはコートを開き無数の刃物を風華に向ける。

….このままでは風華も勇と同じようにあの刃物の餌食に…ッ!

…そう考えるのがバカバカしくなる光景が次の瞬間には目の前に映し出されていた。

 「創造…無効…」

その言葉によってブージアの刃物は一瞬のうちに綺麗さっぱり消え去る。まるで元からそこに無かったと勘違いしてしまいそうなほどだ…

…風華は笑うでも怒るでもなく涙を流しながらブージアのその細すぎる手首を掴む。

 「…ごめんね」


 ボキッ!


 「グッ!」

ブージアの手首は風華によって簡単に折られる。風華は釣りをするように手首を一瞬振り上げただけだった…

 「クシュ…!ワシを守るのじょりッ!」

 「う…うんっ!」

 「辞めて…」

 「…っ!?」

その一声によってクシュの体は震え上がる。

…遥真からはどっちが悪かが分からないほど…風華が怖くて怖くてたまらなかった。

…だが風華は止まることを知らない。

今度はブージアの一つ残った折れていない手をまた優しい手で包み込む。

…また簡単に折られるのだろう。

それが良いことか悪いことかなんて…分かりきっている。なのにあの優しい風華が怖くて…遥真は目の前の暴走を見ていることしかできない。

 「ごめんね…」

 「…ッ!!」


 「やめろ風華…ッ!」

中性的なイケボがどこからか聞こえてくる。

…その声によって風華はブージアの手から手を離して辺りを見渡す。

すると遥真の右隣からピンク色の渦が巻き出す。

 「…おいハゲ小僧遅れて悪かったな」

そのピンクの渦が広がりきると、そこからは金髪のイケメンと、赤い色の美人さんが出てくる。

 「…あ…私は勇の友人の霊愛だ」

 「こっちは私の姉の紅恋だ」

 「…よろしく」

 「…あ…あぁはい」

 「ていうか!」

 「な…!風華に何が起きてるんだよッ!」

 「…風華に何が起こってるか話は後だ」

 「とりあえず風華を止めなければな…」

 「勇の息があるうちに…」

霊愛はかっこいいセリフを言って立ち上がる。

…だが霊愛が前に出るわけではなく強そうな姉の紅恋が霊愛の前に立っている。

…多分紅恋の方が全然に強いのだろう…

次の投稿は月曜日です

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