18-3 とまどい
「お…おい勇…勝てる手立てはあるのか?」
「あるにはあるけど…まずは試したいことがある…」
「俺は距離をとって戦うから遥真はできるだけ近距離で戦ってくれ」
「分かった」
「ちなみに聞くけどそれは作戦であって勇が怖いから近距離で戦わない訳じゃないんだな?」
「…お互い頑張ろ!」
「…お…終わってるゾ」
「近距離で戦う時はアイツの手に気をつけろよ…あと四聖獣の中で1番早いやつで戦え」
「あいつに攻撃する時以外近づくなよ…」
「おうよ…」
「んじゃ…憑依・白虎…っと」
遥真は容易く纏うオーラを玄武から白虎へと切り替える。濃い緑から透明っぽい白色へと変わったから分かりやすすぎる。
クシュはその様子を見るといつもより口角を上げる。美人がしてはいけないような笑みだ。
「…いいねいイネ〜!」
「キャハっ!面白くなってきタネ〜!」
「じゃあ私も…本気で殺しに行っちゃウネ〜!」
ビュンッ!
クシュの体が一瞬揺れたように見えた。
そして瞬きをした瞬間にはクシュは二人の眼前からは消えていた。元からそこにいなかったように…足跡さえもそこからは消えていた。
「…ど…どっか消えたゾ!」
「いや…確実にどこかにいる…遥真気をつけろよ」
「キャハっ!」
「気をつけるべきなのはお兄さん!アナタダヨ〜?」
「震進伸振〜!」
殺す…と言っておきながらかなりふざけた技名。…だがクシュの本来の恐ろしさを知っている二人は虫の声を聞くように耳を澄ませる。
「はいヨイショ〜!」
ビュン…ッ!
勇は空気に押しつぶされるような感覚を覚える。それは上からなどではなく背後からだった。
「…ッ!」
クシュは両手で三角を作って…そこから何か輪っかを出しているように見える。それは何か物体ではなさそうで、空気を揺らした塊…そう勇は心のどこかで感じ取った。
しかし感じ取ったからといって…その対策が瞬時に思いつくものではない。
「…くッ!」
「勇ー〜…ッ!」
遥真が何か叫んでいる様に見えるが…空気の振動で何も聞こえない。鼓膜を無理やり抑えられている様で…若干痛みすら覚える。
勇が顔面を地面に押さえつけられている間…
遥真はあたふたしながら太ももを上げていた。
「あ〜!もうどうしたらいいんだ…!」
「…と…とりあえず勇を起こすしかないか…!」
「いや!今助けに行ったら俺も巻き込まれちゃうか…」
「…は!元凶となるアイツをぶん殴れば…!いや俺女の子殴れないんだった…」
「キャハっハゲのおっちゃん何もできないジャ〜ン!」
坊主からハゲへとグレードダウン。
…悲しいがその後の言葉には言い返すことができない。
「白虎…行くぞッ!」
ビュンッ!
遥真は地面を蹴ると一瞬にしてクシュの元へ辿り着く。数十mはあったというのに1秒もかからずに辿り着いたことに、どうやら遥真ですら驚いている様だ。
それはクシュも同じで何もできないまま、遥真の腕の中に包まれることとなる。
「や…やべ…止まれない」
…どうやら遥真は止まり方が分からない様だ。
飛行機のように斜め上に徐々に徐々に登っていきながら遥真は止め方を模索する。
自分の体だから簡単なことだ!っと言いたいが、能力が関わっているから難しく感じてしまう。
遥真が模索している中…
遥真の腕の中でクシュがモゾモゾとしている。
「キャハっ!ハゲのおっちゃんっ!」
「普通に私の胸触るとか変態ジャ〜ン!」
「えッ!?」
よーく腕の中を見てみると、クシュの推定Cカップの胸を鷲掴みにしていた。…このサイズは多分杏よりは大きく玲那よりは小さいくらい。舞は多分3人が合わさっても勝てないくらいのパイパイだ。
「わ…悪い!」
「ま〜良いんだケド〜」
「もしかしてお兄さんに言われた事〜忘れちゃっタノ〜?」
「私に近づくなって言う言葉〜!」
クシュは愛らしい笑顔を存分に見せつけながら、その細く悍ましい能力を持つ手を遥真の頭へと近づけていく。
「や…やべ…胸に触れた喜びで忘れてた…ッ!」
「キャハっ!キモ〜!」
ついにその手が遥真に触れる…!
どうにも抵抗ができない遥真は頭の中で念仏を唱えることしかできない。南無阿弥陀仏…南無南無南無流…
ビュンッ!
「遥真ッ!クシュを離せッ!」
「ほ!ほい!」
「ありゃ!」
クシュの手は止まり目を丸くしながら自分の足元を見る。遥真もクシュの足元を見たいから下を向く。決して胸が見たかった訳じゃない!
そこにはピンッと張った黒縄がクシュの足首にしっかりと巻きついていた。
「んじゃ!気をつけて!」
「キャハ…っ!」
綺麗な笑顔をわかりやすく顰めるクシュ。
遥真は慌てながらクシュを腕の中から離す。…あの柔らか感触を失うのは名残惜しいのだが!
「バ〜イバイ〜!」
ヒュン!
遥真が腕を離した瞬間…!
クシュはピンッと張った黒縄に連れ去られる!
しかもそれは相当な勢いでクシュの美人フェイスは保たれているものの、歯を食いしばっているせいか真顔よりは若干劣ってしまっている。
流石のクシュでもこのまま地面に直撃したらひとたまりもないだろう!
遥真は安心を感じて思わず口角が上がる。
「黒縄…!行ってこい…!」
ビュンッ…!
勇の両腕から2本の普通よりは細い黒縄が出る。
最近気づいたのだが、2本しか出せない黒縄だがこうしてちょっと一本を裂けば同時に3本出せることに気づいた。
それはそうと黒縄をはクシュの背中へと…!向かうことはなくプールサイドの柵へとくくりつけられる。
「うわぁ〜!キャハハっ!」
クシュは背中で黒縄に触れると、トランポリンで遊ぶ少女のように笑っている。本当に楽しそうで…クシュの父親になったような気持ちになる。
「お兄さんは私のこと触らないんダネ〜?」
「俺は好きな人しか触らないって決めてるんだよ」
「キャハっ!恋愛経験ない男の子とは思えない崇高な志しダネ〜!」
「…こ…心を刺してくるのか!?」
「キャハっ!」
「よいしょっと…」
クシュは両腕を伸ばして地面に着地する。
能力だけを見れば恐ろしいが、この無邪気な姿だけを見ればそれは可愛いとしか言いようがない。
クシュが着地したと同時に遥真もグラウンドに降り立つ。降り立つと言ったら聞こえはいいが、頭から落ちていて今は顔面の半分は砂まみれだ。
「ん〜?さっきお兄さん私と殺し合いするって言ってたのにおかしイネ〜?」
「もしかして〜?まだ私の恐ろしさが分かってないのカナ〜?」
完璧な美少女のスマイルを見せながら、メスガキのようにクネクネと体を揺らしているクシュ。
普段ならイラ…とくるところだが、ここはクシュをボコボコにする妄想をしてそのイラつきを抑える。
「クシュだって殺し合いって言ってるのにさ…全く殺そうとしてないじゃんか」
「は…?」
「だって…この前は結構な距離があっても俺たちを洗脳して目的の場所まで連れてきてただろ?」
「なのに今日は姿を表して俺たちと戦ってる…」
「…」
クシュは変わらず笑顔のままだ。
だがその笑顔の奥では睨んできている様に見えた。
「…さっきの斬撃とか振動ビームをみる限り振動が伝わるのには時間がかかるらしい」
「それを踏まえても…今この場に出てくる意味がない気がするんだよなぁ…」
「そのブージア爺じって奴の影に隠れて俺たちを攻撃でもなんでもすればいい」
「お兄さん…本当に変な人…」
「本当に…本当に殺してあげるカラ…」
「いいんダネ…?」
「殺せるものならな…」
「私が…お兄さんを殺してもいいノネっ!」
「クシュは可愛いからな…」
「その可愛い顔に真っ赤な血がつかない様に…俺が全力で止めてやるよ…」
「…っ!あ〜本当に…っ!」
クシュは両腕を広げて一歩足を前に出す…っ!
次の投稿は水曜日です




