18-2 自由への招待
忘れていた
「ふぅ…」
「ごめんなさいね」
「本当に許さない…」
「風華…お主は舞と遊んでる時でもお漏らしをするのか?」
「そ…それはしないよ…!」
パンツを履き替えた風華は何故か自信気だ。頭におしっこかけたやつとは到底思えない。
ちなみに風華が着替えてる間にプールの俗に言う地獄のシャワーで頭を洗ってきた。…久しぶりに地獄のシャワーを浴びたが歳を取ったら冷たかったものが余計に冷たく感じてしまう。
風華と勇が後始末をしている間、クシュは律儀に待っていた。スマホいじってると普通…いや桁外れな美人な高校生にしかみえない。
「…何?」
「あ…ごめんなさい」
勇に対してはあんなにギャルっぽいのに…
やっぱり坊主のおっちゃんに見られたら冷たく当たるのが世の中の定石なのだろうか!…いや決しておっちゃんなんかじゃないのだが!
「よし第二ラウンドいくぞ」
「…勇のそれ結構久しぶりに聞いた」
「今までどれくらい適当だったのかが分かるな…」
「キャハっ!お兄さんたち仲良しダネ〜」
「あ…キャラ変わった」
多分クシュはこれはキャラ作りではなくって、勇と風華…ではなくって勇だけに見せるキャラなのだろう。勇は決して陽キャではないくせに…なんかクシュみたいな陽キャ女子に絡まれてるのなかなかムカつく。
「じゃあその第二ラウンド…」
「いっちゃオッカ〜!」
「まぁ第二ラウンドって言ってもクシュさんも一回しか攻撃してないけどね…」
「やめろ!風華!」
「じゃあ進っメ〜!」
ドスッドスッ!と重低音を奏でながら走り出した亡霊武者…多分また上に乗ってるクシュが操作しているんだろう。
「さぁ〜腕を上ゲテ〜!」
亡霊武者はクシュの声に従い走りながら腕を振り上げる。両腕を上げておばかな格好をしているが、片手には強力なでっけぇ炎の刀があるからバカに出来ない。
…しかし勇は余裕の表情であつあつのグラウンド地面に手をつける。…少し表情が歪んでいくのが分かる。
「ん〜お兄さんの考えとシテハ〜」
「地面から黒い縄を進まセテ〜武士ちゃんごと転ばせようとしてるんだろうケド〜」
「そうはいかなイヨ?」
ゴゴゴゴ…
地面が小刻みに震え出したのが分かった。
しかしその揺れは地震とは言えないほど弱いもので、震度で言ったら1があるかないかくらいの弱さ…しかし勇にとってはそれが何よりも面倒臭かった。
「なるほどな…」
「あ!あれ勇!あの作戦は!?」
実はこっちに戻ってくる時に風華とは作戦会議をしていた。…作戦会議と言っても単純なもので、黒縄で地面を這わせて亡霊武者を転ばせてその転んだ隙をついて風華がクシュを捕まえると言うもの。
…単純だがそれが1番効果的だと考えたからだ。
「ダメだ…地面が小刻みに揺らされて黒縄の制御が効かない…!」
「じゃ…じゃあまた避ける!?」
「いや…今回は避けようにも避けれない…」
「避けたら俺か風華…どっちかが切られてしまう」
「ならどうしたら…?」
「…風華は飛んでクシュを狙え…!」
「じゃあ勇は!?」
「いいからいいから」
「…う…うん」
ビュンッ!
風華は地面を蹴り上げ勢いよく飛び上がる。風華のロングのカツラが映える。
自分もそんなふうに飛び上がりたい…けど!自分が飛んでたら通報されてしまう。
「お兄さ〜ん!カッコつけてもみんな死んじゃうんダヨ〜?」
「それはどうかな…?」
「憑依・玄武…!」
「エ〜?」
クシュは斜め上に顔を上げる。
太陽が眩しいのか少し眉を顰めている。そんな顔をしているからか美人さがより際立つ。
クシュの眼前には坊主のおっちゃん…つまり遥真が体育館の上に佇んでいる。
さっきから登ったり降りたり大変だなぁ…ってクシュは思っている事だろう。
「亀餓天点ッ!」
遥真は両腕を振り上げて屋根から飛び降りる。
その両腕は緑色のオーラを纏っていて…太陽と反射して黄緑色にも見える。
「ん〜?遅イネ〜」
…あんなにイカつい技名をしてたのにかなり降りてくるのが遅い。例えるなら気球だ。
こんなん赤ちゃんでもハイハイでも避けれる。
もちろん武士…つまりクシュは表情を変えずに一歩後ろに下がり、遥真が落ちてくるのを待っている。
…なんか両腕を上げてマジな顔をしている遥真はアホみたいで面白い。
「お兄さんこんなのを頼りにしてタノ〜?」
「キャハっ!ハゲたおっちゃんなんてせいぜい出来てもATMダヨ〜ン?」
「あ〜でもお金も持ってなさそうダナ〜」
「可哀想な遥真…」
「さっきから…俺にだけ態度が冷たすぎるんだよッ!」
「美人に罵られると…!ブスにバカにされるより虚しくなるんだよッ!」
「だから報いを受けろッ!」
「え〜当たらないよ〜?」
「白髪美人のあんたが地面を揺らすなら…ッ!」
「俺はその地面を崩してやるよッ!」
バンッ!
地面に当たる直前遥真は上げていた腕を振り下ろす。あんなに遅いし、不格好なのだから大した威力は出るはずがない。
クシュ…いや味方であるはずの勇も風華も同様にそう思っている事だろう。
…だが遥真は自信満々な表情を崩さない。
「無駄足…ご苦労様ダネ〜!」
「じゃあ死んじゃイナ〜!」
おちゃらけているが確実に遥真を殺そうと炎の刀を振り上げる亡霊武者ではなくてクシュ。
遥真は避けようと思えば避けれるはず…だが地面に腕をつけたまま動く様子はない。
「バッテンテン〜ッ!」
ブゥンッ!
遥真の背中に刀が当たる…ッ!
遥真に作戦があるのだろうと考えていた勇は、何も起きないことから思わず体が少し動く。
遥真はLINUで『俺に任せろ!』って送ってきていた。なのに…現状何もしていない!
だがそんな状態でも遥真は笑っている。
「美人な姉ちゃん」
「俺は女にゃの子は殴れないんだよ…!」
ゴンッ!
およそ人の世では聞くことのなさそうな音が地下を通じて地上に響く。
クシュはニコニコと笑っているが、少しその表情が揺れているのがわかる。
地下から何かが這い迫ってくるようにその音が徐々にこちらへと近寄ってくる。
「マズイカモね〜…っ!」
ガギィンッ!
「…っ!」
クシュと亡霊武者の立つグラウンドの自慢に突然ヒビが入り、まるでチョコを割るように簡単に崩れるッ!
一度足を掬われる亡霊武者は思うように動けずに、徐々にその蟻地獄のように崩れる砂に足を取られる。
「油断したらダメだぜ…!姉ちゃん…!」
砂埃が風に包まれて去っていくと…
「武者ちゃんやられちゃったねぇ…」
亡霊武者は左腕と顔だけを出して砂に埋もれている。陽キャの海水浴でしか全身が埋まることなんて見たことがない。
そしてクシュは頑張って亡霊武者を引っ張り出そうとしているが、力はちゃんと女の子なのかぴくりともしていない。
「今だ!風華!クシュを捕えろッ!」
「にゃい!」
ビュンッ!
どこかに隠れていた風華は一直線にクシュの元へ向かう。クシュは風華が見えていないのか未だに頑張って亡霊武者を引っ張っている。
「ちょ…ちょっとごめんなさい!」
風華は謝りながらクシュを持ち上げる。もちろん胸は避けてお腹らへんを優しく腕で抱き抱える。…こーゆーところは紳士だ。
「こ!この美人な人どうすればいいの!?」
「とりあえず風華持ってろ!」
「俺と遥真はこの亡霊武者をさらに埋めるから!」
「何それ楽しそうなんだけど!?」
「ねぇねぇ可愛いにゃんちゃん〜?」
「な…なんですか!?」
流石ピュアな風華。
女の子に話しかけられるだけで身構えている。
「私の能力のこと覚えテル〜?」
「し…振動?」
「うんうん!正解正解〜」
「えラ〜イ!」
「よしよし〜」
クシュは風華の頭に手を乗せる。
やっぱりクシュといえど、風華の可愛さには屈することになるんだなぁ…なんて感心してしまう。
「…揺れチャオ!」
「…ッー!?」
声にならない叫び声を出しながら風華は勢いよく地面へと直行する…!
まるで操作が効かなくなったドローンのようで、地面を前にしても受け身などもせずに頭から地面にぶつかる。
ドンッ!
激しい轟音がグラウンド中に響く。
「風華ッ!」
勇と遥真は地面を蹴り上げ風華の元へ走る。
クシュは頭を抑えて倒れる風華の腕から容易く脱出し、服についた砂を小蝿を追い払うように適当に払っている。
「…クシュ…お前今風華に何をした…?」
「…今やってるのはアナタたちがいつもやってるお遊びじゃないノヨ〜?」
「これはちゃんとした殺し合いナノ…」
「まぁでも今はこの可愛いにゃんちゃんの脳みそを揺らしただけだケドネ〜!」
「キャハっ!」
「私からの情けってやつをあげちゃいマ〜ス!」
「3人まとめてあの世に送ってアゲル〜!」
「…遥真」
「…あぁ」
「なになに〜?やっと殺し合いする気にナッタ〜?」
「あぁ…」
「キャハっ!」
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