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追放されたオメガの食堂~嵐の夜に保護した銀狼の獣人王と幼いもふもふ孤児たちに手料理を振る舞ったら、溺愛されました~  作者: 水凪しおん


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第5話「木漏れ日と不器用な贈り物」

 嵐の夜から数日が過ぎ、森は再び穏やかな日常を取り戻していた。

 木々の間から差し込む日差しは暖かく、土は適度に水分を含んで柔らかい。

 リオンは食堂の裏にある小さな菜園で、土まみれになりながら雑草を抜く作業に没頭していた。

 使い込まれたカマで根元から草を刈り取り、クワを使って硬くなった土をほぐしていく。

 額に滲んだ汗を麻の手ぬぐいで拭いながら、リオンは大きく息を吐き出した。

 土の匂いと、太陽の光をたっぷり浴びた植物の青臭い匂いが入り混じり、肺の奥まで満たしていく。

 王都での息の詰まるような生活を思えば、こうして泥にまみれながら土と触れ合う時間は、リオンにとって何よりも心が安らぐひとときだった。

 オメガであるというだけで全てを否定され、存在を隠されるようにして生きてきた日々。

 ここでは、誰もリオンの性別や血筋を問わない。

 ただ、育てた野菜が美味しく育つかどうか、明日のパンがふっくらと焼けるかどうか、それだけが重要だった。

 作業に区切りをつけ、カマを置いたとき、背後の森の入り口の方から枯れ枝を踏む乾いた音が聞こえた。

 リオンが振り返ると、木漏れ日を浴びて銀色の髪を光らせたガレルが立っていた。

 その後ろには、ルカとミーナが少し恥ずかしそうにガレルの足元に隠れるようにしてこちらを覗き込んでいる。

 リオンは驚きで少し目を見開いたが、すぐに土を払って立ち上がり、三人の元へと歩み寄った。


「いらっしゃい。また来てくれたんですね」


 リオンの声に、ガレルは微かに頷き、無言のまま手に持っていた大きな麻袋をリオンの前に差し出した。


「これは……?」


「……森の奥で採れた。俺たちだけでは食べきれないから、受け取ってくれ」


 ガレルが短く言うと、リオンは麻袋の口をそっと開いた。

 中には、鮮やかな赤い色をした木の実や、傘が肉厚で香りの強いキノコがどっさりと入っている。

 どれもこの森の奥深く、獣人でなければ立ち入れないような危険な場所にしか生えていない貴重な食材ばかりだった。


「こんなにたくさん……本当にいただいていいんですか?」


 リオンが驚いてガレルの顔を見上げると、彼は少し気まずそうに目を逸らした。


「あの夜の、食事の礼だ」


 そのぶっきらぼうな言い方に、リオンは思わず小さく吹き出しそうになるのをこらえた。

 獣人国の王ともあろう者が、わざわざ自らの手で森を歩き回り、これほどの食材を集めてきてくれたのだ。

 その行動の裏にある、不器用で誠実な性格が透けて見えて、リオンの胸の奥が温かくなる。


「ありがとうございます。とても良い香りですね。今日のスープに早速使わせてもらいます」


 リオンが嬉しそうに微笑むと、ガレルの金色の瞳がわずかに揺れ、リオンの顔から目を離せなくなったようにじっと見つめてきた。

 その視線の強さに、リオンは頬が少し熱くなるのを感じて視線を下に落とす。

 足元では、ルカがリオンのエプロンの裾を指先でツンツンと引っ張っていた。


「……あまいパン、またある?」


 ルカの小さな声に、リオンはしゃがみ込んでルカと目線を合わせた。


「ええ、あるわよ。ちょうど今からおやつにしようと思っていたところなの。中に入って待っていてくれる?」


 ルカはぱっと表情を明るくし、ミーナの手を引いて食堂の中へと駆け出していった。

 ガレルはその後ろ姿を見送りながら、小さくため息をつく。


「……すまない。あの夜以来、子供たちがここの飯の味を覚えてしまってな。俺の作るものには見向きもしなくなった」


「ガレルさんも、料理をされるんですか?」


「火で肉を焼くか、野菜をそのまま食わせるくらいしかできないがな」


 ガレルの自嘲気味な言葉に、リオンは苦笑しながら立ち上がった。


「料理は慣れですよ。もし良ければ、簡単なものからお教えしましょうか?」


 リオンの提案に、ガレルは少し驚いたような顔をしたが、すぐに真剣な表情になって頷いた。


「……頼めるか」


「はい。では、まずは手洗いからですね」


 リオンはガレルを厨房へと案内し、木桶に水を汲んだ。

 ガレルの大きな手が水に浸かると、その厚みと傷だらけの指先に、彼がこれまで歩んできた過酷な日々が刻まれているのがわかる。

 ガレルが手を洗い終えると、リオンは清潔な布を渡し、麻袋からキノコを取り出した。


「まずは、このキノコの汚れを落とします。水で洗うと香りが飛んでしまうので、布で優しく拭き取ってください」


 リオンが実演してみせると、ガレルは真剣な眼差しでその手元を見つめ、自分でもキノコを一つ手に取った。

 彼の手にはキノコが小さすぎて、少し力を入れればすぐに潰れてしまいそうに見える。

 ガレルは全身の筋肉を硬直させ、息を詰めるようにして、布でキノコの表面を慎重に拭き始めた。

 その様子がどこか可笑しくて、リオンの口元から自然と笑みがこぼれる。

 王都での冷たい視線に晒されていた頃には、誰かと並んで厨房に立ち、笑い合いながら料理をすることなど想像もできなかった。

 ガレルの大きな体から発せられるアルファの気配は、今ではリオンを威圧するものではなく、守られているような安心感を与えてくれるものに変わっていた。

 ガレルから漂う森の土と微かな獣の匂い、そしてキノコの香ばしい匂いが混ざり合い、厨房の空気を穏やかに満たしていく。

 窓の外から聞こえる子供たちの明るい笑い声が、二人の間の静かな時間を優しく包み込んでいた。

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