↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊と歩む少女【旧バージョン】  作者: アインス
エピソード Ⅰ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
38/55

消えた商隊③ ~帰還・勧誘~

 ソファが退避させていたエルクを連れ帰ると、木立の奥から足音が近づいてきた。


「ソファご苦労さま。ちょうどよかったわね。向こうも戻ってきたわよ」


 先ほどまでの姿など微塵も感じさせず、そこには普段のノエルが待っていた。


「みんな無事…みたいね」

 見えた人影は5人。全員が自らの足でこちらへ向かってきている。そのうちの1人は商人だろうか、護衛の肩を借りながら一歩ずつ前へ進んでいる。


「とりあえずエルクに乗せちゃえばいいんだよね?」

 問いかけに対しノエルが頷いたのを見て、商隊の元へ駆けるソファ。


 商人の男はまだ顔色が悪かったが、影喰い(シャドウ・リーチ)の影響だろう。疲労の色が濃いが、外傷は見当たらなかった。


 護衛の民兵たちは外傷も癒え、自らの足で歩き、ギルドのハンターたちも、すでに戦闘に戻れるほどの回復を見せていた。


 ノエルの姿を確認すると、ソファに告げた。

「すまんがここは任せていいか?俺たちは荷を取りに戻る。すぐ後ろまでオリバーさんが来てるから」

 ソファが頷いたのを確認してから来た方向へ駆けていく。


「皆さんはこちらへ。私たちのエルクに乗って少し休んでください。」

 誘導に従い、商人と護衛たちが馬車に乗り込む。


「何その手慣れた感じ?アリアみたいでムカつくんだけど?」

 いつの間にかソファの後ろに立ったノエルが声をかけた。


「っ!ビックリした…脅かさないでよ」

「後ろが隙だらけだよ。まだまだだね」


「いやいや、後ろにいたのノエルじゃん。警戒なんてしてないよ~。それより…大丈夫?」


「え?なんで?…あぁ商隊?よかったよね。本当に、誰も喰われてなくて」


「それもそうだけど、ノエルは?疲れてない?」

「アタシが?なんでよ?ぶっ倒れてたのはソファじゃん!それとも…見なかった事にしてほしい?」


「もう!疲れてないか聞いただけ!別に心配するくらいいいじゃない」


「心配してして~。動けない~。オリバーが戻ったら荷物の積み込みよろしく~」

「ハイハイ!分かりました~っと。あ!戻ってきたよ」


 木立の奥から、重い足音が近づいてきた。


 オリバーの逞しい体が先頭に見え、荷車を曳いて戻ってきた。


「えっ?あんなの自力で引っ張ってこれるものなの?」

「筋肉バカだからねぇ~。ピエールの仕事一つ取られちゃったね」


「…手伝った方がいいのかな?」

「いらないんじゃない?あのまま筋肉連中に任せとけば?」


「おう、戻ったぞ!全員生きてた!喰われかけた魂も戻ってる。もう大丈夫だ!」

 戻ったオリバーが短く告げる。


 その声には、緊張の糸がようやく解(ほど)けた安堵が滲んでいた。


 彼は一息つくと「あとは連れ帰るだけだ」と続けた。


 ソファは荷車のそばに立ち、散乱した荷を確認し始めた。箱には薬草や鉱石が詰まっており、血も汚れも残っていない。


「嬢ちゃん、ありがとうな!助かったぜ」

「荷物の積み込みは任せな!もう動けるからよ」

「ソファ!後は任せてこっちで休んでていいぞ!」

 護衛のハンターたちとオリバーが手際よく荷を移していく。


「うわっ!はやっ!」

 まるで熟練のような動きの3人を目で追いながらソファは思わず叫んだ。


「こっち本業にした方が稼げるんじゃない?それか護衛兼運び屋?見てて気持ちよくなるね」

 ノエルもソファに同意して作業を見届ける。


「終わりだ!全部乗ったぞ。ノエル、ソファ悪いんだが帰りは屋根でもいいか?」

 そう言ってオリバーが馬車の屋根を指さす。


「え~?屋根で見張りしろっての~?」

「行きにアースワーム片づけてあるし、いらんだろ。見張りはこっちでやる。屋根で寝転んでろよ」


「りょ~かい。まだ暖かいし、ちょっと寝るかな。ソファも後は任せて、ゴロゴロしよっか」

 ノエルに促されてソファも馬車の屋根に登る。


 全員が乗り込んだのを確認すると、オリバーが手綱を握り短い号令とともに、エルクが嘶《いなな》き、車輪が軋む音が静かな森に響いた。



 ソファは最後にもう一度だけ振り返る。


 薄暗い森の奥、崩れた封祠(ほうし)の跡には、淡い光が差し込んでいた。


 ヤクモの声がそっと届く。


「だいじょうぶ。あの森、もうちゃんと息してる」

「うん。きっともう大丈夫だね」


 森を抜けた瞬間、湿った空気が晴れ、柔らかな風が頬を撫でた。


 それはまるで――

 森が“ありがとう”と囁いたようだった。



 ◇



 街の門を抜けた瞬間、夕暮れの光が差し込んだ。


 石畳の上を進む車輪が軋み、街の喧騒が少しずつ近づいてくる。ソファはその音を聞きながら、深く息を吐いた。


 あの森の重さが、ようやく遠ざかっていく。


「――帰ったな」

 オリバーが小さく呟く。


 馬車では、商人が顔色を取り戻し、隣で護衛たちが小声で言葉を交わしていた。誰もが疲労の色を隠せないが、確かな安堵があった。



 ギルドの前に着くと、商人家の者たちが慌ただしく駆け寄る。

「戻られたのですね!」

「ああ、全員無事だ!」

 オリバーが短く答えると、周囲から安堵の声が広がった。


 ノエルは馬車の屋根から降り、ソファの方を向く。

「お疲れ。よく頑張ったね」

 いつもの軽い調子にソファは少し照れくさそうに頷いた。


 ギルドの扉を開くとカウンターのアリアと目が合った。

 彼女は手にした書類を一度閉じ、まっすぐに三人を見据える。


「お帰りさない。無事帰ってきてくれてありがとう」と変わらない飛び切りの笑顔を向けてくれる。


 オリバーが一歩前に出て報告する。


「商隊五名、全員生還。護衛二名は軽傷、商人は衰弱。原因は影喰い(シャドウ・リーチ)――封祠(ほうし)が壊れていた。森全体が呪いに侵食されてすぐといったところだった」


 アリアの目が鋭く細まる。

「……封祠(ほうし)が壊れていた、ですって?」


「ええ」ノエルが補足する。

「オリバーが封祠(ほうし)を核ごと叩き潰して、ようやく止まったわ」


 アリアはしばらく沈黙した。

 やがて、深く息を吐く。


「あの森の封祠(ほうし)は百年以上前の封印のはずよ。その呪いが偶然に蘇るなんて、ありえない」


 彼女の指先が机の上で小さく鳴った。


「――この件、調査班の編成が必要ね。すぐに手配して」

 隣で控えていた職員が頷き、足早に部屋を出ていく。



 静寂が戻ると、アリアは3人の方を見た。

「ありがとう。本当に助かったわ。本来なら調査隊と討伐隊を組むべき案件よ」


 ソファは少し照れ笑いを浮かべながら

「……ノエルとオリバーさんがいたからです。私だけなら森を焼いちゃうところでした」


「おい、アリア!すこし話があるんだが?」とオリバーが口を挟む。


「――ラグルの森には、古くから“供物の儀”があったはず。近くの村が毎年、封祠(ほうし)に供えを捧げていたはずなんだけど」

「儀式が止まって、それで封祠(ほうし)が……?」

 とノエルが眉をひそめる。


「分からないわ。けれど――」

 アリアは視線を窓の外へ向けた。

「“なぜ封祠(ほうし)が壊れたか”は問題。何か意図があるのか――」


「おい、アリア?」


 沈黙。


「アリア?」オリバーが腕を組んだ。


「――じゃあ、ウチが行ってくるわ」ノエルが笑って言う。

「調べに行ってくれるの?」

「ウチじゃ不満?小規模で小回りが利いて、それに腕利きよ?」

 ノエルが不敵な笑みを浮かべると、アリアの口元にも笑みが浮かぶ。


「おい!!」

「「なに?」」


「何って…言うことがあるだろ?」


「私?オリバーに?何かな?」

「あぁ、アタシたちにお礼でしょ?」

「ああ!お酒ね!上等なの、もちろん用意してあるわよ?」

 そう言うとさっき出て行ったはずの職員が酒瓶を手に戻ってきた。


「ありがとう。これこれっと。はい、オリバー」

「ちょっと待て!なんだ?お前は調査隊の手配に行ったはずだよな?戻ってきたら酒?どう考えたっておかしいだろ!!」


「…?なんでよ?」

「別におかしくないわよね?」

「ソファ!ちょっと助けてくれ」


「なんですか?」とソファ。


「今の聞いてただろう?…一体どうしてこうなった…」

 少し首を傾げたあと、ソファが手を打つ。

「えっと…、今から新生スプライトク(・)イ(・)ン(・)テ(・)ッ(・)ト(・)の結成祝いです!」


「違うだろ!」オリバーの絶叫に、してやったりの表情のノエルとアリア。


「うんうん。ソファ、いいよ。それで正解なんだよ」

「偉い偉い。本当に慣れてきたわね」


「オリバーさん…ごめんなさい…」

「…いつの間にそっち側に…」


「まあまあ、メンバー紹介するから。もう館で皆待ってるから。飲も!」

 そう言ってノエルはオリバーの首根っこを掴みギルドを出て行った。



「うわぁ~。こんなパターンもあるんだね」

「ソファ。チャンスは一瞬。逃しちゃダメ。このままオリバーをパーティーに確保しなさい」


「え?オリバー嫌がってるんじゃ?」

「大丈夫。あと一押しよ。前衛が欲しいんでしょ?彼なら文句なしよ。それに荷運びなんかは喜んでするわよ?」

「頑張る!何すればいいの?」


「イツカの屋敷でセレナが仕掛ける…」

「え?」

「ソファに助けを求めるでしょうね」

「…?」


「“勧誘”の練習よ。後は自分で確かめて」

 そう言ってアリアもギルドを後にする。


 残されたソファは小さく息を吐き、

「なんかまた巻き込まれそう…」と呟いて歩き出した。


 けれど、その顔はどこか楽しげで、足取りは軽やかだった。


 イツカの屋敷で待つ“次の物語”を、彼女はまだ知らない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。