↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊と歩む少女【旧バージョン】  作者: アインス
エピソード Ⅰ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
31/55

新たな旅路④ 訪れた村からの依頼 オーガ討伐

「……やっちゃった、よね?」


ソファは肩で息をしながら、

フレイルをそっと下ろした。


あたりには焦げた草の匂い。


ゴブリンのいた辺りの木々が、まるで「勘弁して」と言わんばかりに傾いている。


『すごかったでしょ!

 全部いなくなったよ!』

フレイルの核――ヤクモが、楽しそうにぴかぴかと光る。


「うん……うん、

 いなくなったのは分かるけど…」

ソファは眉をひそめ、地面を見た。


「……ゴブリンどこ?」


周囲には、もはや“討伐した証拠”すら残っていなかった。


地面は黒く、空気が熱い。


――そしてなにより、静かすぎる。


『えへへーっ、もえた!』

「燃えたっていうか、

 消し飛ばしたんじゃ……」


彼女は小さく溜め息をつき、焦げた土を靴先でつつく。


「…報告、どうすればいいの?

  跡(・)形(・)も(・)あ(・)り(・)ま(・)せ(・)ん(・)で(・)し(・)た(・)とか?」

ぽつりと呟いてから、ソファは腰のフレイルを見つめた。


ヤクモはまだうきうきと輝いている。


「ねえ……次は、もうちょっと抑えめにお願いできる?」

『“おさえめ”ってどうやるの?』


「燃やしちゃうから、炎は駄目!」


『とばしちゃう?』

「…風かな?それも駄目」


『バラバラ?』

「…多分木の事よね。それも駄目」


『カチコチ?』

「それよ!凍らせることもできるの?」


『だいじょうぶ。≪フェンリル≫ね』



――物語で見た覚えがある、犬じゃなく狼だった気が…。


「…分かった。次はそうしよ?

 ヤクモ。一つ決めていい?」


『なに~?』


「≪待て≫って言ったら、

 すぐ止まること!」


ソファが引き攣った笑顔を浮かべながら言い切るとフレイルの輝きは青みを帯びた深緑に落ち着いた。



◇



「…派手にやっちゃったね」

「あら?森に被害は出てなさそうよ?」

「依頼の報告はどうするんだ?

 …討伐になるのか?」

「なるっちゃなるでしょ。

 ゴブリンいないもん」

「確かにそうね。

 あれぐらいなら木々もすぐ生まれるわ」


「このまま見てていいのか?」

「とりあえずこのまま様子見かなぁ」

「どうやらオーガがソファに気付いたみたいよ」



◇



「……よし、次はオーガね。

 …準備完了っと」


ソファが腰のフレイルを持ち上げ≪アルゴス≫と唱えた瞬間、核の目の部分が白銀に光り始めた。


視界が前と同じく全方位に開け、慣れない視界に戸惑いながらも周囲を確認する。


「ねえヤクモ、さっきから少し静かじゃない?」


『しずか~。でもね、

 向こうで“どーん”って感じがする!』

「どーん? それは……擬音で言われても困るんだけど……」


ソファは苦笑しながら顔を上げた。


遠くで、森の影が動いた気がした。


木々が揺れ、鳥が一斉に飛び立つ。


「……え、えっと。

 今の“どーん”って、もしかして――」


ズゥンッッ!!


ソファの笑顔が凍りついた。


地面が揺れ、風が唸り、木々が軋む。


「ヤクモ…もしかして、今の……」

『うん! “でっかいの”来た!』


低く、湿ったような、重たい唸り声が響いた。


「グゥォオオオォォ……」


ソファは一歩後ずさる。≪アルゴス≫の視界でも確かに捉えた。



背は人の倍ほど。


肌は灰と血を混ぜたような濁色で、

ところどころ石のように硬化している。


筋肉は生物のものというより、

岩が無理やり動いているかのよう。


彼女の心は以前の苦い思い出とともに不安で押し潰される。


視界のオーガは、ゆっくりと首を傾けた。


その片目は濁り、もう片方は赤黒く光っている。


瞳が、“視ている”のではなく

“嗅いでいる”ような――


人間の存在を空気の流れで感じ取っているような、異様な動き。


――ソファの背中に冷たい汗が流れた。


オーガはこちらへ向け一歩、地を踏み鳴らした。


ドゥンッ、と重低音が腹に響くたびに、森の空気が震える。


逃げ出した鳥たちが、はるか上空で悲鳴を上げた。


オーガはゆっくりと顔を上げ、赤黒い瞳が確かにこちらを見た。


そして――その口が、笑った。


「見つかった?

 まだ距離はあるのに?」

ソファはパニックに陥りかけながらも、他の個体がいないか、逃げ道はどちらか視界を見渡した。


――オーガは1体。


オーガの脚が地を抉り、砂と岩を巻き上げながらこちらへ突進してくる。


その巨体が進むたび、森の空気が圧し潰されるように揺れた。



ソファは腰を落とし、両手でフレイルを握り身構える。


すぐに彼女の2、3倍はありそうなオーガが地を裂くように現れた。


「速いっ――!」


ソファが反射的に後方へ跳ぶと同時に、オーガの拳がすぐ目の前の地面を打ち砕き土塊が爆ぜ、石が飛ぶ。


――恐怖はあった。


だが、初撃を躱したことと、以前この目で見(・)た(・)こ(・)と(・)が(・)あ(・)る(・)姿に少し冷静さを取り戻す。


(今回はイツカさんは来ない。

 でも私は前(・)とは違う。

 皆も“できる”って信じてくれた。)



目の前のオーガが振り返り咆哮を上げる。


それは低く、鈍く、音の圧で空気が揺れる。


ソファは一歩も退かず、フレイルを構え囁いた。


「――来て、≪フェンリル≫」


声と共に、フレイルの先端から蒼白い閃光が弾けた。


冷気が奔り、周囲の空気が一瞬で凍りつく。


氷片が風に舞い、霜が草を覆い白銀の狼が現れた。


その体毛は月光のように淡く光り、息を吐くたび、冷気が狼煙のように立ち上る。



フェンリル――氷の聖狼。



瞬間、地面に白い紋章が走った。


氷の蔦のような文様がオーガの足元に広がり、爆ぜるように氷柱が立ち上がった。


氷柱が交差し、空を突く。


瞬く間に、オーガの巨体は氷に飲まれ、半ば崩れかけた岩のように凍りついた。


空気が静止する。


氷が光を反射し森全体を蒼白の光に染め

冷気が風に溶けゆらりと漂う。


凍りついた空気の中心で、フェンリルはゆっくりと顔を上げた。

氷越しに見えるその瞳が、まるで何(・)か(・)を(・)確(・)か(・)め(・)る(・)よ(・)う(・)に(・)ソファを見つめる。


やがて――その瞳が細められ、わずかに揺らめく光を返した。


ソファの胸の奥で何かがふっと温かくほどけた。

身を凍らす風が止み、

氷の煌めきが一瞬、虹色に変わる。


小さな唸り声を上げた白銀の狼は白い吐息とともに姿を消した。



◇



遠目に見える“それ”は、

もはや戦闘ではなかった。


大地に突き刺さった氷の柱、

白銀の狼の影、


冷気が丘を越え、風が頬を刺す。

その中心で少女が息を吐く。


白い吐息が、まるで狼を模(かたど)り空へ昇った。



「……氷、か」

ピエールは低く呟いた。

「まるで……神話だな。

 あれが、ソファ?」


「綺麗ねぇ…ちゃんと一人でオーガ倒しちゃったわ」

「いいじゃん。いい感じじゃん!」


氷の檻の中、オーガがまだわずかに蠢く。


――まるで、生きながら氷像に変わるように。


そして森は神聖な静けさに包まれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。