救出作戦⑤ 帰国
一行は帰国への道すがら、見晴らしのいい水場で休息を取っていた。
「帰る前に2つ決めておきたいことがあるんだけど、いい?」
ノエルが切り出すと、全員が同意しノエルに向き直った。
「1つ目からね。ピエール、アンタ帰ったらどうすんの?」
「そういえば湯殿での話は途中だったな。先延ばしにして申し訳ない。
ファニーとも話し合ったんだが、是非お願いできないだろうか?」
「私からも、主人をよろしくお願いします」
ピエールとファニーが揃って頭を下げた。
「良かったぁ。こっちも話してたんだぁ。
運転手兼、荷物持ち兼、素材剥ぎ取り係兼、見張り兼、ソファの戦闘教育係ね。」
「…1つ増えた気がするが?」
「単純な護身術程度よ?固いこと言わないの~」
「ピエールさん!お願いします!」と勢いよく頭を下げるソファ。
「そう言う意味じゃない。…俺でいいなら協力させてくれ」
「じゃあ決まりね。…1つ目はオッケーかな」
「…あの」
次に移ろうとしたノエルにファニーが手を上げた。
「どうしたの?」
「申し訳ないんですけど…住むところとかは、あるんでしょうか?」
「とりあえずアテはあるから安心して。そっから先はピエール次第ね」
「なんで俺次第なんだ?」
「ハンターやるんだから、稼がなきゃ。捨てられちゃうよ~?」
「確かに」
「とりあえず住むところと、当面の生活費だけは気にしなくていいからね」
手を下ろしながら、とりあえずは納得した様子のファニー。
「もう1つは、私からね」とセレナ。
「荷物なんだけど、見るか見ないかってことで、ノエルが騒いじゃってて」
「だって気になるじゃ~ん」
「ノエル。黙ってるって約束でしょ?」
なんだそんなことかと拍子抜けした様子の夫婦とノエルを窘めるソファ。
「私たち2人は、見たくないと、どっちでもいいって意見なの。2人はどう?」
問いかけられた2人は顔を見合わせ、
「俺は…気にはなるが見なくていいと思う」
「私は、何もわからないので、見ない方が…助かります」
「決まり。この話はおしまいね。見ないって事で、素直に持ち帰って片づけちゃいましょ」
「え~?やっぱ気になる~」
そんなやり取りを交わしながら、一行は暫しの休憩を終え帰路についた。
◇
――道中は大きなトラブルもなく、一行は無事館へ戻り門をくぐると、
イツカが階段に腰を下ろし待ち構えていた。
「思った通りの時間だよ。ご苦労さんだったな」
「アンタいい加減にしなさいよ!」
出迎えようと近付くイツカにノエルが食いつく。
「おっ?中身見たのか?…にしちゃあ、ちっと着くのがはえぇ気もするが?」
「見てないわよ!中身もそうだけど、聞いてないんだけど?
何してくれてんの?とりあえずそこ!正座!説明!」
一気にまくしたてるノエルを一旦制止する一同。
「順番だ順番。まずはピエール。よかったじゃねえか。
奥さん、可愛いじゃねえか。
すぐアリアに案内させるからよ。先休んでもらってていいか?」
「はい。ありがとうございます」
館から出てきたアリアに従い、場を後にするファニーを見送る一同。
「…正座。説明」とノエル。
「悪いとは思ってたんだよ。ただ、こうするしかなかった。説明するからちょっと座ろうぜ」
そう言って、元いた階段を指さしながら腰かけるイツカ。
「本当はよ。中で話したいとこなんだが、これの説明が終わるまで我慢してくれな」
少し頭を下げてから、イツカは話し始めた。
「まず1コ確認していいか?中身知りてぇか?」
「アタシは気になるから見ようって言ったのよ」
「私は反対したわ。もう巻き込まれちゃったけど、
アナタの思い通りになり過ぎるのもイヤだったしね」
「私は、正直どうすればいいのかわからなかったので、
どっちでもいいって言いました」
「気にはなるが…見なくていいと」
イツカの問いに4人はそれぞれの意見を答える。
「そうなったか…いや、こっちの話だ。
中身は大きく分けて2つだ。
1つは、詳しくは知らねぇがそこそこ金目のものが入ってる」
「それ、2台あったわよ?」
「1台は全部金目のものだけだよ」
「じゃ、こっちにはもう1つ何かが入ってんのね?」
「その通りだ。」
「もったいぶらないで早く言いなさいよ!」
「言うが、全員、聞きたいか?イヤなら中入っとけよ?」
イツカの念押しに、乗り掛かった舟と全員が頷いた。
「―中身はな。ムタレン将軍だ」
「――!!」
「予想…外れたか?」
驚愕に目を剥く4人にイツカが笑顔で尋ねる。
「予想外ね。説明はしてくれるのよね?」とセレナ。
「もちろんだ。その前にピエール。
悪いが一緒に中見てくれるか?
安心しろ。まだ眠ってるはずだ」
驚いたままのピエールを引き連れ、中身を確認するイツカ。
続けて中を確認したピエールはさらに驚いた表情のままこちらへ戻った。
「確認は終わりだ。続きは中で話す」
一同を館内へ促し、戻ったアリアにも馬車を裏へ回すよう指示を出した。
― 応接間にて。
「最初から説明する。オロディア軍が退却してすぐ、こっちから遣いを出した」
「コードね?」とセレナ。
「正解だ。向こう側に行ってたから都合が良かった。ピエールの奥さんとも無事合流してすぐの話だ」
ピエールは少しほっとした表情の後、怪訝な眼差しをイツカに向ける。
「安心しろ。後で確認すればいい。奥さんを危険な目には合わせてねぇ」
「続けて」とノエル。
「相手は向こうの顔なじみで、軍部の人間だ。
コードに伝えてもらったのはこうだ。
”ウチが攻められた。どうするつもりだ?”と」
「そしたら?」
「あれが送られてきた。
“申し訳ない。当方には貴国との戦争の意思はない。
当人と財産全てを合わせて届ける。受け取ってくれ”とな」
「それで、たまたま受け渡し場所に行ったのがアタシたちってワケ?」
「まあ…そうなるな」
「―ふざけんじゃないわよ!」
机を叩きつけイツカを睨みつけるノエルに対し
「危険はなかったはずだが?」とイツカ。
「たしかにね。危険はなかった。
ファニーたちと無事合流できたのもそのおかげってことにする気かしら?」
セレナの問いに目で頷いてから続けた。
「そこは少し予定外だった。
コードが向こう側の更に奥に行ってたのは知らなかったからよ。
ただ、理由を聞いてそれなら一緒に帰って来い。と指示を出した。
国を出るまでは軍部が目を光らせてるし、その方が安全だしな」
「軍部?国境まで護衛に来たのは盗賊ですが…」
「知らねぇのか?あそこは表向きは盗賊、本当は軍の諜報部隊だよ」
「―なっ!そんな話は…。」
「こっちの見張り兼魔物の侵入阻止と裏取引の検挙が任務だな」
「―!!」
「おかしいと思ったことねぇか?盗賊だったとしたら
普通あの規模なら軍から討伐部隊が出るだろ?
国としちゃあ、ほっとくわけには行かねぇからな」
「…確かに。」と納得するピエール。
「非公式だがこっちとの取り引きの場でもある」
「それはいいの!アンタたちがコソコソ何しようが、
中身が何だろうが、そんなのどうでもいい。
説明なしでアタシたちを使った落とし前、どうつけんのよ?」
「ウチの人間に適任者がいなかった。
使えそうな奴らは今ちょうど洞窟でトラブっててな。
表にいるヤツらは、もし中身見ちまったらどう対応するか読めなかった」
「私たちなら見たとしても連れ帰って、
こうやって問い詰められはするけれど
無事持ち帰るだろうってことね?」
「そういう事だ。巻き込んだことについては謝る。
この通りだ。もちろん報酬は払う。言い値を聞かせてくれ」
そう言って深々と頭を下げるイツカ。
「…一つ、いいですか?」
ここまで成り行きを聞いていたソファが手を上げた。
「嬢ちゃん。もちろんいいぜ」
「ムタレン将軍…どうするんですか?」
「とりあえず話を聞く。何が狙いで攻めて来たのか。
あとは国の身代わりの可能性について。だな」
「身代わり?」
「一応確認するだけだがな。コードの報告と、ピエールから聞いた話じゃあほぼ独断専行だが、本人の口から聞いておきたい」
「その後は?」
「どっちにしろ、殺すさ。
落とし前はつけとかねぇとな。
嬢ちゃんがやりてぇなら、構わねぇぜ?」
「…私は、そういう意味じゃなくて…
ちょっと気になって…」
「ウチのコたちに教えてやったら2人は手をあげるわね。」
「おっ?構わねえぞ?」
「言わないわよ。せっかくお花畑にいんのに、
なんで血生臭い話持ってく必要があるのさ!」
「もう1つの財産?はどうするんですか?」
「こないだの砦にいたヤツらで分けるさ。
近いうち、ギルドを通して分配する。働きに応じて…だがな。
死んでいったヤツらには、残された家族に多めにな。」
「デイルの家族にも…ですか?」
「ああ…働いた分はな。」
「―!働いた分だけ?」
「嬢ちゃん。勘違いしてねぇか?」
「何を…ですか?」
「あの坊主が死んだのは戦いの中ではあるが、砦じゃねぇ。」
「何が違うんですか!」
「嬢ちゃんたちがあそこにいたのは、何でだ?」
「何でって、ギルドからの依頼を受けて…」
「そうだ。仕事として、ギルドに従い、国を守れって依頼だ。」
「だったら何でデイルは死んだのに…。」
「勘違いしてんのはそこだよ。
いいか?あの時、あの坊主達の仕事は見張りだ。
追い打ちをかけろ。なんて指示は出してねぇだろ。
持ち場を離れてたんだ。そっから先の話はあいつらの自己責任ってやつだ。」
「―そんな言い方!」
食って掛かるソファを、セレナとノエルが諫めた。
「この話はイツカが正しいわ。
ソファ。アナタたちは依頼を受けたハンター。
依頼内容以外は自己責任よ。」
「プロなんだから。そこはコイツの言う通り。
納得できないんなら、ハンターやめな!」
2人からの初めての冷淡な否定に驚くソファ。
「そう言うこった。だが嬢ちゃん。お前は砦で活躍してたよな?
俺も見てたし、報告も受けた。
細かい報酬はギルドで聞いてくれ。
恐らくそこそこの額で、嬢ちゃんの正当な報酬だ。
それをどう使おうが、それも自己責任ってやつだ。
誰も文句なんか言いやしねぇよ」
イツカの真意に気付き、納得はできないものの、ソファは大人しく引き下がった。
「ちょっと疲れてきたわ。何か食べながら話さない?」
セレナがそう言うと、用意は出来てる。と別室へ移動することとなった。
「ソファ。納得した?」
「これが正しいの?私が間違ってるってノエルも思うの?」
「そうだね。今回のは、ソファが間違ってる」
「そっか。少し考えたい。後で行ってもいい?」
「待ってるからね」
― 別室にて。
木製の大皿には湯気を立てる野菜のシチュー、
香ばしく焼かれた黒パン、塩気の効いたチーズが並ぶ。
隣には香辛料を利かせた魚のグリルが置かれ、
表面は香ばしく、中はふっくらと仕上がっている。
さらに柑橘を搾って爽やかな風味を添え、滋養を高める山菜の炒め物。
果実酒が食卓を彩り、体に力を満たす香りが立ち込めていた。
「いいじゃない。ソファは後から来るから先食べちゃいましょ」
少し遅れて入ったノエルがそう告げると、食事を始める一同。
「話変わるけどよ。お前。どうするか決めたのか?」
「お前って言うな!この3人もらってくからね!」
「セレナもか?」
少し驚きの表情を浮かべるイツカ。
「ええ。当分はそのつもりよ」
「そうか。シェルティは元気だったか?」
「仲直りしたの。まだあまり外には出たがらないけど」
「良かったじゃねえか。」
「ええ。当分ここを拠点にするつもりよ。ねえ?ノエル?」
「そうね。とりあえずソファを鍛えなきゃね」
「…また、道に行くのか?」とピエール。
「当分あそこには行かない。ギルドの依頼からね」
なるほどとピエール。
「報酬だけどさ。とりあえず、ピエールたちの住むとこ用意しなさいよ」
ノエルの発言にピエールが驚く。
「いいぜ。ウチなんかどうだ?離れの1つでいいだろ?」
今度はイツカの発言に驚いた。
「ファニーの働き場も考えなさいよ」
「ギルドでどうだ?アリアの助手だな」
「ちょ!ちょっと待ってくれ。…待ってください」
「なんだよ?不満かよ?」
「いや…不満などでは…私は元とはいえ、敵国の、この国に攻め入った人間ですよ?」
「だからどうした?」
「いや…それをそんな近くに置くのは…」
「また裏切んのか?」
「違います!」
「じゃあ問題ねぇじゃねえか。アリアと一緒なら安心だろ?な?」
「アタシはいいと思うよ?」
「私も賛成よ。あとはピエールがどうしたいか、ね」
一同の視線を受けたピエールは頭を下げ
「願ってもない条件です。よろしくお願い致します」
「私もいい?」とセレナ。
「とりあえず4人でここのギルドにいるんだけど、
移動手段が欲しいわ。あの大鹿。もらっていいかしら?」
「あのゴルドホーンエルクか?いいけど、あいつ早くはないぞ?」
「でも運べる量は多いわ。乗り物もつけてね」
「丸ごと持ってってもいいぞ?」
「趣味が悪いわ。却下」
「分かった。アリアに見繕ってもらうが、どうだ?」
「妥当ね。任せるわ」
「お待たせしました」
遅れてきたソファがそう言って席に着く。
「落ち着いたか?」とイツカ。
「さっきは取り乱してごめんなさい。
少し冷静に考えてみたら、確かに皆の言う通りでした。
まだ引っ掛かる部分もあるにはあるんですけど、もう大丈夫です」
そう言ったソファに優しい表情を向ける一同。
「今よ、報酬の話してたんだ。
嬢ちゃんは何かあるか?」
「みんなは…もう済んだみたいね」
一同を見渡し、自分も食事を始めたソファは少し考え、
「じゃあ…武器がいいです。何かありますか?」




