救出作戦③ 再会。手ぶらでは帰れない?
夜明け前の薄闇に、山肌に貼りつくような石の城がそびえていた。
砕けた塔は歪み、そこから赤い光が漏れる。
静寂を裂く笑い声が風に乗り、城が眠らぬ巣窟であることを示していた――
「ここって、元はお城なの?」
「そうよ。
私たちの国ができる前の時代にオロディアが建てたの。
対魔物用の物見櫓と前線基地ってところね」
「んで、ウチができて、攻めてこないならいらないよね?ってんで
捨てられたお城。今は見たまんま盗賊が占拠してるの」
ソファの問いにセレナとノエルが答える。
「一つだけ確認させてくれ!」
カーゴリザードから先に降りた3人に追いついたピエールが慌てて声をかける。
「すまない。まさかとは思うが、このまま4人で正面から入るのか?
中の様子を伺うとか…俺が偵察として中に入るとか…」
「なんで?」「どうして?」ノエルとセレナが2人とも不思議そうに首を傾げる。
「君たちは、女性だ。…ここは盗賊の拠点だ。…その」
「優しいよねぇ。心配してくれてるんだ?
心配いらないから。ソファはビックリするかもだけどね」
「えっ?何かあるの?」
大丈夫大丈夫~と言葉を交わすうちに城門に到着した。
――朽ちた城門の内側は、粗末な布張りの天幕が乱立している。
沈黙した廃墟かと思えば、内側は異様な熱気に包まれていた。
焚き火を囲む盗賊たちの笑い声、略奪品の山、酒樽や金属器。
荒廃と喧騒が奇妙に共存していた。 ――
「うわっ!」と最初に声を上げたのはソファだった。
「わぁ~前より臭くなってる~」
「確かに匂うわね」
((女だ、だれの戦利品だぁ?いい匂いがすんなぁ。お~ここまで匂うぜぇ))
焚火を囲む盗賊たちが、こちらに気付くとわらわらとこちらへ向かってくる。
「わぁ~、ゾンビだぁ。ソファゾンビ見たことある?」
「ない…けど、あれがゾンビなの?盗賊は?」
「生き物よ。ニンゲン」軽口を交わす3人に砕けた塔から声がかかる。
≪おぉ!はえ~じゃねえか!こっち上がってこいや!≫
ゾンビたちは鐘の音が聞こえたのかブツブツと元居た場所に引き返す。
「今早いって言ったよね?予想通りの展開なんだけど~」肩を落とすノエル。
「上がっていいの?中に入るってこと?…あそこに?」目をまん丸にして尋ねるソファ。
「あら?ソファはここが気に入ったのね?待ってる?」とセレナ。
「お願い!連れて行って!」とセレナに縋るソファ。
会話をしながらも盗賊の脇を抜け、目的地へと歩を進める3人。
その後ろを我も我もと目で追い、頭で追い、体を傾けて追う盗賊たち。
さらに後ろを体を掲げ通り抜けるピエール。
((男じゃねえか!色男が女のケツ追っかけてんのかぁ?後で奢るから1人分けろよ!なっ!))
様々な罵声を浴びせられながら先行の3人にようやく追いつき城に足を踏み入れたピエール。
「あっ、良かった。ピエールも来たみたい」
「おっそ~い。早く上がるよ」
「凄い人気だったわね?」
外からは想像も出来ないほどに清掃の行き届いた城内にピエールは暫し声を失う。
「おぉ色男!生きてやがったか。こっちだこっちだ」
酒瓶を手にこちらを手招きする男。
「コード!こんなとこ呼び出してなんのつもり?」と問い詰めるノエルを無視し、
「セレナじゃねえか!外出んのいつぶりだ?」と近づくコード。
「相変わらずね。説明してくれるんでしょう?」とセレナ。
「そうだな。とりあえずこっち来て座っててくれ」
そのまま奥の一室へ案内し、部屋を後にするコード。
「…広くて綺麗な部屋だね」
沈黙に耐え切れずソファが誰ともなく声をかける。
「男かなぁ…女かなぁ…」ブツブツと呟いたままのノエル。
ピエールは冷静を保ちつつも、やはり落ち着かない様子のようだ。
「…来たみたいよ」
セレナの言う通り廊下の向こう側からこちらへ近づく足音。
扉が開かれ、現れたのはコードと大男だった。
テーブルを挟んで向かい側に座った大男。
身なりは整い、髭面だがきちんと手入れされている。見た目は武人の佇まいだ。
「久しぶりだな。ノエル、それにセレナ。また会えるとは思わなかった」
「久しぶり~。元気してた?」小声で返すノエル。
「そうね。私もまた会うとは思わなかったわ。元気そうね?」
セレナの返事に少し嬉しそうに微笑む大男。
「こっちの嬢ちゃんは新顔だな。名前聞いていいかい?」
「はい、ソファといいます」丁寧に返事を返すソファ。
「いい子じゃないか。すまない。こちらから名乗るべきだったな。
名はレイブという。ここの頭領をやっている。
気は進まないだろうがよろしく頼む」
名を名乗り頭を下げるレイブに戸惑うソファに、彼は構わず続けた。
「あんたがピエールかい?」
しっかりとレイブの目を見据えピエールは答えた。
「はい。私がピエールです」
暫くピエールを品定めするように眺めてから軽く目で微笑む。
「安心しな。奥さんは無事だ。すぐに会わせる」
目を閉じ安堵の息を吐くピエール。
「コードが伝言を飛ばしたのは昨夜だが、夜通し駆けて来たのか?」
「はい。私がイツカ殿より伝言を受け、3人に頼みこちらへ」
「そう固くなるな。ここは軍じゃねぇんだ。
悪いがまず情報の整理をさせてくれ。奥さんに会うのはその後になるが、いいか?」
問われたピエールは頷くしかなかった。
「着いたばかりだろ?今飲み物と軽食を用意させてる」
「助かるわぁ。喉カラッカラだったの」
「私も頂いていいですか?」
「せっかくだから、カボブがいいわ。贅沢かしら?」
「セレナがいると聞いたからな。用意させてる。
すぐ持ってくるはずだ。このまま話していいか?」
全員が頷いたのを確認し、レイブは話を進めた。
「こないだこっちのムタレン将軍の軍が、そっちへ攻め入った。
国境を少し越えた辺りで反撃にあい、こっちへ逃げ帰ってきた。
…ここまでは間違いないな?」
「間違いない、です。私たちもいましたから」
「先陣を率いたのは私です。私は祖国を裏切ってしまいましたが…」
「ただの情報の擦り合わせだ。他意はない。続けるぞ。
それからこっち、この国の情報はどれくらい知ってる?」
「何も知らないわよ。アタシたちがそれ調べてどうすんのよ?」
「そうだよな。単刀直入に言うぞ。
あるものを持って帰ってくれ。これはイツカとの取引だ」
「こうなるとは思ってたんだよね」ノエルが机に突っ伏せば
「イツカさんとの取引?」とソファは困惑した。
少し場が混乱する中、扉が開き軽食と飲み物が運ばれた。
「悪いがメシ食いながら仕事の話は嫌いなんだ。一緒に食おうぜ」
まずはグラスに黄色い果実が浮かんだ水が配られる。
ノエルはそれを手で受け取り一気に飲み干すとおかわりを要求した。
「そんなに水飲んでなかったのか?」と笑いながらレイブが水を注ぐ。
今度は一口味わってからノエルが答える。
「それもあるけどさ、ここの水好きなんだよね。でも今日ちょっと甘いよ?」
「そりゃあれだ。疲れてんだよ。後でちょっと休んでけ」
「私も好きかも。甘い?でも少し酸っぱいような」
「私もおなじね。ノエルはずっと御者席だったから」
「どっちにしろ休んでっていいぜ?まぁ食えや」
そう言ってテーブルの上の料理を差し出した。
「これ何ですか?パンに挟んだお肉と野菜?」
――焼き上げた肉を細かく削ぎ、たっぷりの野菜を薄いパンで包んでいる――
「カボブっていうんだ。ソファちゃん食ったことねえのか?
そのまんまこう…かぶりついて食うんだよ」
そう言いながら目の前でカボブに食いつくレイブ。
溢れる香辛料の香りに包まれたそれは、ソファの空腹に刺激を与える。
見よう見まねで思い切りかぶりつくソファ。
香ばしく焼かれた肉、色鮮やかな野菜に溶けた脂とスパイスの香りが混ざり合い
もう一度かぶりつけば肉汁と野菜の甘みが広がる。
「おいしいです!」余程空腹だったのか食べながらそういうソファに
「食いっぷりいいじゃないか。たっぷり用意させたからよ。腹いっぱい食えな!」
そう言って嬉しそうに自分もカボブにかぶりつく。
あのセレナでさえ、ただ無言でカボブにかぶりつき既に2つ目に手を伸ばす。
無言のまま食事が進み、あっという間にすべてのカボブは胃の中へ収まり
食事を終えるとすぐにレイブはすぐ戻ると席を外した。
「私たちも少し外すわ。もしレイブが戻ったらすぐ戻ると伝えてね」
そう言ってピエールに目配せし席を立つよう促すセレナ。
部屋を出たセレナはピエールを廊下の隅へ手招きする。
素直に従ったピエールの首に手を掛けるとそっと抱きしめた。
「……!!」
驚きの行動にピエールは声を失う。
瞬間2人は柔らかな風に包まれ心地よい花の香りが辺りに漂った。
セレナはそっとピエールから離れると風は霧散し、
残り香だけが辺りに漂いやがて消えた。
「奥さんに会うのよ?洗浄の魔法よ…
私は好きだけど、嫌われたくはないでしょ?」
そう言ってセレナは先に部屋へ戻っていった。
ピエールは暫しその場に立ち尽くしたが、すぐに意図を知り、目を閉じ頭を下げた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「…あんたさ、その鼻どうしたの?」
部屋を出た2人を目で追いながらノエルが口を開いた。
「あん?名誉の負傷ってやつよ!」とコード。
「負傷?死んでないじゃん?」
「ばかやろう。俺が死んだの見たことねぇだろ?」
「殴られたらあんた死ぬじゃん」
「なんで殴られたって決めつける?」
「見りゃ分かんでしょ?ピエールの奥さんに何もしてないでしょうね?」
「バッ…かやろう!俺が何するってんだよ」
「いいの?後で聞いちゃうよ?」
「…すいやせん。ちょっと間が悪かった時にちょっと…」
「……。」「……。」
「ピエールからいくら巻き上げるつもりよ?」
「いや…。もののついでなんで…、ギャラは…、ただ少し、ほんのすこぉし!」
「…もう受け取ったわよね?」
「へぇ…」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
セレナに続いてピエールも部屋へ戻り席に着いた頃、
「おい、ピエール。ちょっとあっちの部屋行ってな」
そう言いながらレイブは隣の部屋を指さし中へ入ってきた。
呼ばれたピエールはすぐに立ち上がり、即座に部屋を出る。
「…やるじゃん」と呟くノエルに
「言うなよ。俺は見たくねぇしよ、お前らもそうだろ?」
そう言って体に似合わない笑顔を浮かべるレイブ。
「私、みんな凄いって今思ってる」
そう呟いたソファへ部屋の誰もが優しい笑みを浮かべた。
「…さぁ、一息ついたろ。仕事に戻らせてもらうぞ」
和やかだった空気を一度引き締めたレイブはそう言って口を開いた。
「さっきも言ったが、イツカとの取り引きだ。
お前らが聞いてるか聞いてないかはそっちの話だ。
こっちとは関係ねぇ。まずはそこハッキリ言っとくぜ」
「その前にいい?」と手を挙げるノエルに顎を上げ続きを促すレイブ。
「ピエールの奥さんも取り引きの対象なの?」
引き締まった空気がさらに重くなる。
「いや…丸っきりってわけじゃないが、もう済んだ話だ。連れて帰ってやんな」
「ならいいわ。全部話すなら聞くわ。話せないならこの話はナシ。どう?」
「それで構わねぇよ。こっちはそれも勘定に入れてんだ。
まず1つ。運んでもらうブツはまだここには届いてねぇ。
着くのは明朝だ。言っとくがこっちのミスじゃあねぇ。
お前らが着くのが早過ぎたんだよ」
「話聞いて飛び出て来たからね。いいよ?今日の宿代はどうするの?」
「こっち持ちだ。ただ部屋は2つだ。そっちで好きに分けな」
「…このハゲはどっち?」
「安心しろ。こいつは別件だ。話が終わったらすぐ出ることになってる」
「1つ目は問題なしよ。続けて」
「ブツの中身は言えねぇ。これはそっちがつけた取引条件だ。
国を出るまではウチのモンが送り届ける。
そっから先はこっちとは関係ねぇ。
中身が見たけりゃあ見ればいいし、そんで置いてくなら好きにしな」
そう言うとレイブは手を上げて終わりを告げる。
「この場で返事した方がいいのかしら?」とセレナ。
「いや?構わねぇぜ?聞いていいか?
誰が決めることになってんだ?」
「ウチ解散したのは知ってる?」
「こないだ挨拶に来てたじゃねぇか。知ってるよ。
祝いならコードに渡したぞ?お前が来るのは知らねぇからよ」
「そうなんだ。律儀だね。ありがとう」
「気にすんな。じゃあなんだよ。返事はちょっと休んでからにするか?」
「そうしてくれるとありがたいわ。」
「じゃあそのまま部屋使って構わねぇぜ。
風呂入ってくか?もうすぐ湯が入れ替わる頃だしな」
「賛成!それ助かるわぁ」
「じゃあ悪いんだけど、続きは夜でもいいかしら?」
「決まりだ」
そう言って席を立つと笑顔を浮かべソファへ声をかける。
「ウチの風呂はいいぞ。疲れなんか一気に吹き飛ぶ。
気に入ったらいつでも来いよ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「コード」ノエルはそう言って手を向ける。
「へいっ」コードはその手に包みを置いた。
「誰が来るかは聞いてなかったの?」
「俺の予想じゃあ、色男とオリバーの旦那辺りだったんだよ。
あの“酔っ払い”は返事しねぇしよ」
「あんたなんの仕事してたのよ?」
「…どっから言えばいいんだ?」
「短め。ピエールの奥さんをなんでこんなとこに連れて来たのよ?」
「無理だ。帰ったら話すわ。俺もすぐ出ねぇとだしな」
「分かったわよ。気をつけてね~」
会話を終えて部屋を出ようとするコードをノエルが呼び止めた。
「コード。アタシが言うのは変だと思うだろうけどさ。
…ピエールの奥さん、ありがとね」
そう言って頭を下げた。
「ノエルよぉ、もっぺんギルドでそれやってくれよ。それで全部チャラだ」
「分かった。…払い過ぎな気がするから一杯奢んなさいよ?」
手で応じたコードはそのまま部屋を出て行った。
「お疲れ様。行きましょうか」
そう言って部屋から出ていくセレナを追う2人。
「風呂だよぉ。ピッカピカのふろだよぉ」
「…ここ盗賊いたよね?外と中が別世界…」
「お風呂ねぇ。ホントぶっ飛ぶよ?早く行こ!」
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山の奥深く、岩肌を削って落ちる滝。
その水流のすぐ傍らに湧き出す温泉は、源泉そのままの熱を抱き、
湯面からは細やかな蒸気が立ち上っていた。
湯殿を囲む柱や板壁は新しく削られた木で組まれており、
湯気に混じって漂う木の香りが鼻をくすぐる。
甘やかで清々しい匂いは、山の湿った空気と相まって心をほどき、
肌を撫でる湯の柔らかさと共に深い安らぎをもたらしていた。
「あぁ~。生き返るぅ~。ここに住む~」
「うわぁ~。ホント…。うあぁああ~」
「はぁ…染みるわね」
「セレナ。聞いていい?それ浮いてるの?」
「あら?気になる?下から掬ってみて」
「いいの?ちょっとごめんね。
うわっ!…これは、ちょっと…」
「…何バカやってんの?」
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「部屋は2つ。男は1,女は4」
「…やっぱり寝れないよね?」
「新婚1組。余り3」
「離れてたのって数日だよね?ね?」
「元気なのはいいことじゃない。仲がいいのもね?」
「いやいやいやいや。これは…」
「1,2…3……えっと…」
「数えなくていいから!」
「今、5回目ね」
「数えなくていいっての!」
「え?確か私たちとお風呂入れ替わってからも…」
「マジ?マジなの?」




