救出作戦② 作戦会議
3人乗りの大型トカゲ
――カーゴリザードの背にまたがり、一行は夜道を進んでいた。
低い鳴き声が響くとソファは恐る恐る訊ねた。
「ねえ……この子って、噛んだりしないの?」
ノエルが軽く笑って手綱を操る。
「大丈夫。慣れれば馬より素直だよ。ただ、しっぽにだけは気をつけてね」
「しっぽ?」
「機嫌が悪いときに振られると、丸太にぶつかったみたいなもんだから」
ソファは思わず肩をすくめるとセレナが横から補足する。
「普段は穏やかよ。それより、ピエール。そろそろ説明してもらえる?」
ピエールは短く頷き、視線を前に据えたまま目的地と状況を説明する。
◇
「はぁ~。行きたくないなぁ~、ソファ帰っちゃおっか?」
説明を受けたノエルが第一声を上げた。――手綱を操る手はそのままに。
「すぐそんなこと言って。方向変えてないじゃない」
ソファもノエルの軽口は聞き流すようになってきた。
「ぶ~。ソファがつまんなくなってきた~。どこ向かってるかも知らないくせに~」
そう頬を少し膨らませながらも、少しスピードを上げる。
それを見たソファは少しフフッと笑いセレナに顔を向ける。
「どんな所なの?」
どう答えようかと少し首を傾げたセレナを制しピエールが話に入る。
「知らないのなら俺から説明させてくれ。
すまない。目的地はオロディアの盗賊団の拠点だ。
なぜその場所を指定してきたのかは分からないが
危険な場所であるのは間違いない。本当にすまない」
早口で説明しながら何度も謝罪するピエール。
「あら?そっちは別に心配ないわよ。
私はどちらかと言うと帰り道の心配をしてたんだけど?」
驚き咄嗟にセレナの方へ顔を向けるピエールに
「アタシもそっち~。帰りどうする~?」とノエル。
どういう事かと今度はピエールが2人に説明を求めた。
「とりあえず状況を整理するわね」
そう切り出したセレナにソファとピエールが姿勢を正す。
「今コードの指定した場所へ向かっているわ。
このままのスピードで行けば…夜明け前には着く。
道中は特に何もないから問題はないわ」
一度言葉を区切ってから続ける。
「ピエールは心配だろうけど、あそこへ入るのは何も問題じゃないの。
その時間なら皆寝てないだろうし、すぐ奥さんにも会えるわ」
「夜明け前につくのに?」
そう言ってソファが疑問を口にした。
「さっきピエールが言ったでしょう?目的地は盗賊団の拠点よ。
一仕事終えて帰ってきた頃よ。皆起きてるわ」
あ、なるほど。と納得した表情のソファを見て続ける。
「入るのは問題ないっていうのは基本的に門は開いているし、私たちは顔見知りもいるからなの」
怪訝な表情を浮かべるピエールには構わず
「私たちが帰りの心配をするのは、1つは移動手段」
「この子3人乗りよ~。今だって重量オーバーギリギリ。
感謝しなさいよ。
アタシたち3人でもアンタ2人分もないでしょうしね」
前からノエルが茶化して会話に入る。
「そう言うことなの。このメンバーに、奥さんとコードでしょう?
帰りの移動手段が必要。これが一つ目」
「アンタと奥さんがこれ乗って先に帰っててもいいわよ~」
そう言うノエルに対し、そういう訳にはいかないと食い下がるピエール。
「そう言うと思ったわ~」とため息まじりのノエル。
「だったら、そこで何か乗り物を貸してもらうとかは…」とソファ。
「そこが問題なのよ~。相手は一応盗賊よ?
“はい、これどうぞ~”とはならないわよ!」とノエル。
「場所聞かずに出てきちゃったから、手持ちないしねぇ。
それに、なぁんか引っ掛かるのよねぇ」
「引っ掛かるとは?」
そう訊ねたピエールにノエルが答えた。
「この子使っていいって言ったのあの“バカ親父”でしょ?
アタシたち誘うよう言ったのも多分そうよね?」
その通りだと頷くピエール。
「だからなのよ~。
一つ。3人乗りなのは当然知ってる。
二つ。アタシたちならこの人数でも行きは恐らく大丈夫。
三つ。帰りは増えるのも当然知ってる。
ってことは場所含めてなぁんかあるんじゃないかってねぇ」
そう思わない?とソファへ振り返るノエル。
「私たちに、何かをさせるつもり…ってこと?」
「ピンポーン!!って、まぁたやられたよ~」
ブツブツと前を向いてさらにスピードを上げるノエル。
クスクスと笑うセレナにピエールが言葉をかける。
「何度も言うが巻き込んですまない。
ノエル。ソファも。本当にすまない」
何度も謝罪するピエールにセレナは優しく声をかける。
「気にしなくていいわよ?別に。退屈しなくていいじゃない。
私は最近はずっとギルドにいたし、久しぶりに楽しんでるわ。
シェルとも仲直りしたし、ね?」
いつの間にか擬態をといて夜風を浴びているシェルティにそう尋ねる。
「せやなぁ。いつぶりになるんか…。外はえぇわぁ」とシェルティ。
「待って!じゃあ移動手段と着いてどうなるかは
その時考えるとして、他は何が問題なの?」とソファ。
「この時間に出て、このスピードで着くの夜明け前よ?
歩いて帰るには遠すぎなのよねぇ。
あの“バカ”の考えを読み解くのが問題」
そう言ってまたブツブツと何やら考え込むノエルはまたスピードを上げる。
「そうか…。これも何かの作戦だと思えばいいのか!
…だとすると、ここにいる4人で盗賊団の拠点に行き、
まずはファニー、コードの2人と合流。
…6人で何かをさせるつもり…ということになるが?」
「そうなるわね」とセレナが相槌を打つ。
「ファニーに戦闘は無理だ。
コードにも戦闘は期待できないとイツカさんが言っていた…」
「“さん”はいらない!“バカ”でいいのよ、あんなヤツ!
ただこの子も連れて帰んなきゃダメよ!」と更にスピードを上げながらノエル。
「徒歩だとすると、おかしくなるな。
…とすると、移動手段を確保して6人で帰って来いとなるが…」
「盗賊がそんな物を貸してくれる訳がない…ってことよね?」とソファ。
「恐らく、だけど。
もう一つ“何か”を持って帰れってことだと思うの」
「…ということは、“救出護衛任務”ということか!」
「やっぱそうなるよねぇ~。
アタシさっきから頭ん中男か女どっちなの~?状態だもん!」
「えっ!?…人なの?」とソファ。
「考えてもみなよぉ~。
こないだの戦闘2、3日前じゃ~ん。
戦闘前にコードはあっちに行ってたんでしょ?」
「…確かに、あの男に会ったのは戦いの準備中だった」
「…オロディアの要人か、何らかの関わりのある人物の可能性が高いわね」
「セレナもそう思うよねぇ~。
男かな?女かな?どう思う?
どうせ着くまで暇だし賭けよっか?」
「…悪いが、俺は降りる」
「今回はナシね。私も降りるわ」
「流石に不謹慎」 と3人から即座に否定されるノエル。
「でも男か女かって、そんなに気になるの?」
少し考えてソファが尋ねる。
「なるよ!何言ってんの!
確定してるのは男2。女4。
帰りもトカゲで3人乗りだとしたら?」
「…?」と考え込むソファ。
「…俺は、ファニーと…コードでも大丈夫だ」
「何言ってんの?バカなの??
ハゲがそっちは当たり前でしょ!
じゃなくって!」
「…乗れない」とソファが呟く。
「そう言うことよぉ!ってことはだよ?だよ?」
「4人乗りの乗り物か、もっと複数って事になるわね」とセレナ。
「そう!!ハゲをピエールに押し付けて、こっち4人乗りでも最低1人!」
「今と一緒じゃないの?」とソファ。
「全然違~う!
要人だよ?偉い人だよ?オッサンじゃん!
ハゲでデブじゃん!」
「まだ決まったわけでは…」とソファ。
「臭くて醜いわね…」とセレナ。
「…すまない。そう言えばまだ風呂には…」とピエール。
「そこ!言うな!聞いてない!」とノエル。
「ピエール。大丈夫!臭くないから」とソファ。
「あら?私は好きよ?うっとりしちゃう」とセレナ。
「黙んな。セレナ」とノエル。
「…女性ってことも…あるんじゃ…?」と改めてソファ。
「もっと問題よ!
もう一回言うよ!要人だよ!偉い人だよ?
王妃様~とかお姫様~だよ?
あら、ここではワインはでませんの?狭いのねぇ~。
とか言ってくるんだよ?」身振り手振りでノエルが喚く。
「…まだそうと決まったわけじゃあ…」とソファ。
「臭くて醜いわね」とセレナ。
「王妃も姫も匂いまでは…」とピエール。
「ピエール。そこ聞いてないから!例えだから!」とノエル。
「…複数なら…良くない?」ともう一度ソファ。
「もっと問題!
じゃあどうすんの?
1台は新婚どもと御者のハゲ!
1台はアタシたち!
もう1台に詰め込んだとしたら、護衛は誰がすんのよ!」
「…私たち…だよね?」とソファ。
「そうでしょうね」とセレナ。
「すまない」とピエール。
「嫌だぁ~。行きたくない~。けど見えてきた~」とノエル。
「あら?予定より早いわね」
「向こうに薄っすら見えるのがそうなの?」
「ああ。間違いない」
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まだ夜の帳が残る空に、黒々とした影が浮かび上がる。
切り立った山肌に、異様なほど不格好にへばりついた石造りの城塞。
かすかな松明の灯が揺れ、人の営みを示していた。




