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精霊と歩む少女【旧バージョン】  作者: アインス
エピソード Ⅰ

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救出作戦① 未明の出発

イツカの呼び出しを受け、館まで案内されたピエールは

応接間の扉に手をかける事が出来ずにいた。


このタイミングでのイツカの呼び出しが意味するもの。


(ファニーについてだろう)


呼び出しを聞いてからここまでの道のりで考えてみたが

それ以外にないとの確信があった。


扉の前で躊躇する理由はただ1点。


(どっちの報告なんだ?)


生きているのか、それともー。


扉の前でどれぐらいの時間が経っただろうか。


「いつまでそうしてる気だよ?

 さっさと入って来いよ!」


ハッと我に返り、慌てて扉を開け中に入る。


扉の向こうは、先日と変わらず暖かなランプの灯りが室内を照らしていた。


そこにイツカが椅子に腰かけ腕を組む姿があった。


無意識に部屋の中を見回してしまったピエールに


「まだここにはいねぇよ。

 お嬢ちゃんに付き合わしといて、

 帰って早々呼び出してすまねぇな。

 …何してんだ?とりあえずそこ座れよ」


イツカが言葉とともに顎で対面の椅子をさす。


頭の整理が追い付かず促されるまま慌てて座るピエールを確認し

イツカはしっかりと目を見据えて語り始めた。


「いいか?質問はなしだ。

 分かってるだろうが、コトはお前の嫁さんについてだ。

 もったいぶるつもりはねぇよ。

 安心しろ。生きてる。無事だよ」


(生きてる。――生きてると?)


慌てて聞き直そうとするピエールを手で制しイツカは続けた。

「質問はなしっつったろ。

 説明してやるから落ち着いて聞いとけよ」


とっさに姿勢を正し、一瞬目を閉じたピエールは、

相対するイツカの目を見て続きを待った。


「順を追って話すぞ。

 さっきも言ったが、嫁さんは生きてる。

 聞き間違いでも、お前を騙すつもりもねぇ。

 今この瞬間も生きて無事だよ」


もう一度ピエールは目を閉じ、言葉を飲み込んだ。


「続けるぞ。ひとつだけ言っておく。

 なんでそれが分かんのかってのは、

 今のお前には言うつもりはねぇ。


 情報源だけ教えとく。

 ウチのコードって男だ。知ってるよな?」


――忘れるわけがない。あの時あの場にあの男が現れなければ

今のこの状況はあり得なかったのだから――


「納得したみてぇだな?

 こっちはなんでそうなったのか知りてぇとこなんだが

 …まあ、今はいいか。

 コードからの報告はこうだ。


 『赤毛のお姫さまとそっちへ向かう。

  預かったもんは確かに渡した。

  国境越えはリスクがあるから、

  まだ生きてるなら色男が迎えに来てくれ』だとよ。


 …嫁さん赤毛なのか?」


「はい。妻で間違いないです」


「良かったじゃねぇか。

 合流場所を指定してきやがったんだが

 確かにここじゃあ、迎えに来いってのも良く分かる。

 お前知ってるか?」


そう言って広げられた地図の1点を指し示した場所はピエールも良く知っていた。


「場所は分かりますが…

 イツカさん、本当にここに妻が?」


――コードが指定した合流場所は、かつて近衛兵団内でも噂のあった場所であった。


「言いたい事は分かるがよ…

 さっきも言ったが、こっちもなんでそうなったのか知りてぇんだよ」


「確認させてください。

 軍にいた頃、噂で聞いただけなのですが、

 ここはオロディアの盗賊団の拠点の一つでは?」


(なんでこんなところを指定したんだ?

 これじゃあ、無事って情報は…)


「1つ言っとくぞ。

 コードってのは見たまんま、戦闘面ではからっきしだ。

 ただ、こういう仕事に関してだけはウチでも相当上位だ。

 報告でウソをついた事は一度もねぇし、失敗もねぇ。


 だから、生きてるのも無事なのも、まるっきり信じていい。

 コードが信用できねぇなら俺が断言する。

 “生きて”、“無事”だ」


イツカの言葉を受けてピエールもはっきりとした口調で答えた。


「少し戸惑いました。

 ですが私も一つ、これだけは信用して頂きたい。

 私ピエールは、今の会話、全て事実であると信じております」


「理由、聞いてもいいかい?」


「はい。今日だけでも、既にこれまでの私の常識は全て覆されました。

 なので、呼び出しを受ける前に心に決めたことがあります。

 “この国で出会った人の言葉は全て事実を語っている”と」


「面白れぇ誓いだな、そりゃあ。

 じゃ、迎えに行ってやんな。

 表のトカゲ乗ってけよ。乗れんだろ?」


「“カーゴリザード”でしょうか?」


ピエールの問いに笑顔で答えつつ、

「それとよぉ、

 嬢ちゃんの“道”の帰りにそのままここに来たんだったよな?


 あいつら館のどっかにいやがるから

 お前、顔出してあいつら追い出しといてくれ」


イツカの発言に込められた意図に気付いたピエールはハッとして目で意図を問う。


「うるせぇんだよ。あいつら。

 ギルドで飲んどけってんだ。

 話は終わったぜ。お前もとっとと行ってこい」


話は終わりとこちらに背を向け手を払う仕草のイツカに従い

ピエールは部屋を出た。


閉めた扉の取っ手から手も離せないまま、深く、深く頭を下げた。


「まだいやがんのか?

 コードから追加の伝言だ!


 『姫さんに鼻折られたぞ、チクショウが。

  一発殴らせろ。』だとよ。


 …何言ってんだ、こいつ?

 さぁ、行った、行った」


イツカの言葉で咄嗟に扉から離れたピエールも言葉の意味が理解できず、

ひとまずソファ達にどう頼むか思考を切り替えた。


ちょうど館の離れから人が猛スピードでこちらへ駆けてくるのが見えた。


目を凝らすとそれはアリアであった。


「あぁあぁぁあぁ、ピエール!

 ゴメン!急いでるの!あっち行ってて!」


声をかける間もなく、確かにアリアが風のように去っていった。


何が何だか分からないままアリアが指さした方、離れに目をやると、

聞き覚えのある声が漏れてくる。


開けっ放しの扉から中を覗くと、目当ての人物たちが勢ぞろいしてこちらに気付いた。


「あっ。ピエールじゃん。

 イツカの用事は終わったの?

 突っ立ってないで座んなよ~」


床には転がった空き瓶と、飲みかけのグラス。


笑い声の名残と、酒とつまみの匂いがまだ漂っている。


「す、すまない。覗くつもりはなかった。

 っと、今アリアと凄い勢いですれ違ったんだが…」


「ほっといていいよ~。

 すぐ戻ってくるだろうしねぇ。…飲む?」


矢継ぎ早な展開について行けないままのピエールだったが、

すぐに切り替え、差し出されたグラスを手で制し頭を下げた。


「どした…「すまない!」


ノエルと言葉が重なったが構わず続ける。


「すまない。

 少し話を聞いてもらえないだろうか?」と切り出した。


「時間外労働はしないんだけどねぇ~」


軽口で応じたノエルをセレナが制す。


「私たち、ちょっと着替えてすぐ戻るわね。

 その間に話をまとめられる?」


セレナの言葉の意味が呑み込めず、怪訝な表情のまま目を向けた。


「ホントにすぐ戻るわよ?それとも一緒に来る?

 …でも時間ないんでしょう?残念」


答える間もなく、ノエルを連れてセレナが部屋を出た。


キョロキョロしていたソファもセレナに手招きされ、素直に従った。


残されたのは、精霊たちとピエール。


今日既に何度目になるだろうか。ピエールは切り替えて状況を整理する。


「夜更かしは好かんわぁ…

 せやけど今日までたぁ~んと寝てあるから、

 付き合いましょか?」


ピエールは声の主、シェルティに向き合い訊ねた。


「すまない。まだ整理が追い付いてないんだ。

 どうなっているんだ?」


艶のある長い睫毛の奥の瞳でこちらを見据えたシェルティは


「心配せんでよろしい。

 悪いようにはならへんよ」


甘い響きとともにそう告げると、それきりフイと顔を背けた。


時間を置かず、3人が戻って席に着く。


「お待たせ。話していいわよ」


セレナがこちらに目を向ける。


「あ、ああ。すまない。まず謝らせてくれ」


上目遣いでセレナの様子を伺うが、彼女は目で続きを促した。


「妻の事なんだが…順を追って話す。

 イツカさんとの話は、妻の事だった。

 生きてる。無事だと」


口にしながらピエールは声に力が入っているのに気付いた。


「コードからの伝言で、

 迎えに来いとの事だった。

 場所も聞いている。で…、」


「もういいわよ!場所どこよ?」


ノエルがピエールの言葉を遮って前のめりになる。


「あんたねぇ。顔に出てんのよ。

 “申し訳ないが来てくれないか?”ってね。

 来ないかもって思ってるワケ?」


「来て…くれるのか?」


ピエールは驚きの表情を浮かべ訊ねる。


「あら?お願いして、“ダメ”って言っても

 説得するつもりだったんでしょ?

 時間の無駄よ。時間ないんでしょ?」


「場所教えてください」


セレナとソファも行くつもりなのが見てとれた。


「って言っても地図なんか持ってないから、

 動きながら聞きましょ。

 はい!出発!どっち行くか案内しなさいよ」


言葉より早くノエルが席を立ち、セレナとソファもそれに続き

慌ててピエールもすぐにそれを追う。



一行が館を出たのは、雲の向こうに月が見え隠れする夜のうちであった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――




騒がしい足音とともに


「お待たせっ!!」


山のように盛られたルベラの実を手に、離れの扉を開けたアリアは立ち尽くした。




「…ヤクモぢゃぁあぁぁん」

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