これからの道①
館の廊下を進むソファとノエル、廊下に並ぶ美しい掛け軸や、
細やかに装飾された障子窓に、ソファは感心の声を漏らしていた。
「こんな立派な館があるんですね……初めて見ました」
ソファがそう言いながら周囲を見回すと、ノエルが振り返って微笑む。
「ここはね、昔重要な会議が行われるために建てられたの。
今でもこうして使われてるけどね。そんなに感心しなくてもいいでしょ?
あんた田舎の子丸出しよ?」
ノエルが笑いながら肩をすくめると、ソファは少し頬を赤くして小さな声で答えた。
「そんなこと……ないです……多分」
「ほらほら、その“です”“ます”もやめたら?
アタシたちパーティー組むんだし、もう敬語なんていらないのよ。
リラックス、リラックス」
ノエルが軽く肩を叩くと、こちらに気付き出迎えたアリアも続けた。
「ノエルの言う通りよ。もっと楽にしていいのよ」
「そ、そう……ですか?」
「そうよ。“です”も“ます”も、今すぐ封印!」
ノエルが言い放つと、ソファは一瞬困ったような顔をしたが、意を決して答える。
「……分かった。じゃあ……気を付ける……よ?」
「うん、それでいい!かわいいじゃない」
ノエルが満足げに頷き、アリアも笑顔で頷く。
「それにしても遅かったわね。
でも、これで今日の業務はおしまいね」
アリアは落ち着いた口調で、疲労を感じさせない余裕のある態度を見せていた。
「おしまい?いっつもピシッとしてるけど、さすがに今日は疲れてるでしょ」
ノエルは腕を組みながら少し嫌みっぽく軽口を叩く。
アリアはその言葉にくすっと笑い、肩をすくめた。
「そう見える?まだまだやれそうよ。
ソファちゃん、お疲れさま。ここまでよく頑張ったわね」
「す~ぐそうやって完璧ぶるから、可愛くないよねぇ~。
ちょっとくらい疲れたって顔してみたらいいのにね?」
ノエルはからかうようにアリアの肩を叩き、笑顔を浮かべる。
そのやり取りに、ソファは口元を緩めながらも少し驚いた表情を見せる。
「こういう感じなんだ……」
ノエルの仕草に構わずアリアは手で廊下の奥を指し示した。
「応接間へ案内するわ」
廊下を進む一行が応接間の扉に近づくと、
中から低い声が漏れ聞こえてきた。
ノエルが耳をすます仕草をして囁く。
「なんか真面目に話してるみたいね。
でも気にしないで入っちゃおう」
扉の向こうは、暖かなランプの灯りが室内を照らしていた。
そこには、イツカが腕を組みながらピエールの話を黙って聞いている姿があった。
イツカの背後にはマウロが控えており、緊張の色を隠しきれない表情を浮かべている。
一方、ピエールは何かを決意したような表情で、静かに言葉を紡いでいた。
「―ムタレンが裏切りをでっち上げ、
敗北の責任を全て押し付ける算段だったんです。
それに気付いた時には、既に動くべき駒が限られていました」
アリアが入室すると、イツカは視線を向けるだけで軽く頷いた。
ピエールも振り返り、頭を下げて一礼する。
続けてソファが入るなり、マウロがぎょっとしたような表情を浮かべ目をそらす。
その動きがあまりに露骨だったため、ノエルが吹き出しそうになる。
「何その反応?ソファちゃん、そんなに怖い顔してた?」
「えっ、わ、私は……」
突然話を振られたソファは戸惑うが、
マウロはさらに挙動不審になり目線が定まらない。
「い、いや……別に……なんでもない!」
言葉を絞り出すように答えたマウロだが、その耳は赤く染まっていた。
ソファはその様子に首をかしげつつも、
マウロにノエルとパーティーを組む話をどう切り出すべきか迷っていた。
一方、マウロは何かやましいことでも隠しているかのような挙動を繰り返す。
「……何かあったの?」
ソファが思い切って尋ねると、マウロは大げさに手を振りながら答えた。
「な、なんでもない!本当に!」
その不自然な動きに、ソファはますます疑惑を深めていく。
視線をふと横に向けると、
ソファは応接間の一角でソファーに横たわるセレナの姿に気付いた。
寝息を立てながら無防備に眠る彼女の胸元が、規則正しく上下している。
その姿を見た瞬間、マウロがさらに挙動不審になり、今度はあからさまに目をそらした。
「……え、なにこれ」
ソファはセレナとマウロを交互に見ながら、眉をひそめた。
セレナの肩から滑り落ちそうになっている衣装が目に入り、
ソファは状況をすぐに理解した。
「ねぇ、マウロ……ジロジロ何見てんの?」
低い声で問い詰められたマウロは、
慌てふためきながら弁解しようとするが、何も言葉が出てこない。
ソファの視線が鋭くマウロを捉える中、ノエルがニヤニヤしながら囁いた。
「これは……後が怖そうね~」
「ノエルさん!」
ソファが抗議するが、ノエルは肩をすくめて楽しげに笑った。
イツカがニヤニヤしながらやり取りを見ていたが、やがて静かに口を開いた。
「さて、そろそろ本題に戻るか。ピエールの話も聞き終わったところだしな」
部屋の空気が再び落ち着きを取り戻し、全員がイツカの方を向く。
ソファもノエルに促されて席に座り、話を聞く体勢に入った。




