白葉うるの相方も突撃して来るようです。どうしましょう
相方も突撃してくるってマジ?
Vtuberに付き合ってると身体がいくつあっても足りない。当たり前だ。生活パターンは人それぞれ。何時に配信するかはVtuber個人の自由なのだから。ただ、彼ら彼女らに付き合っていると身体と時間がいくつあっても足りないとだけは言っておこう。さて、俺がどうして身体と時間の話をしているのかと言うと……
「マジか……」
平日の静かな昼下がり。普通の会社員なら仕事を、学生なら学校に行っているだろう時間帯。在宅ワークたる俺と紬さん、パソコンさえあればどこでも仕事ができるらしい彩晴さんは今日も今日とて平和に引き籠り生活を満喫していた。そんな中、俺はスマホ片手に1件のリプライに頭を悩ませていた
「普通の呟きにリプしてくる奴がいるとは……」
自慢じゃないが、俺はリアルでもネットでも交友関係が広いわけではない。普通の呟きにリプが飛んでくるなどほぼない。だからこそ気楽に色んな人の配信へ行けるからない方が気楽まである
「これは……どうしたものか……」
配信の感想やアイコンしましたって呟きに対して礼とかなら分からんでもないし、飯テロ等に対して何かしらの反応なら頷けるのだが……とにかく、見てもらった方が早いか
『どうして来てくれないの?』
俺がした『寒い』という呟きに来たのがこのリプ。リアクションに困るんだが……
「どうしてって言われてもなぁ……」
俺は仕事をする紬さんと彩晴さんを後目にそっと溜息を吐く。このリプを飛ばしてきたのはVtuberの青葉える。白葉うること彩晴さんの相方である。白葉うると青葉えるはサークル所属勢でユニットを組んでるVtuber。どっちも自称清楚で中身は……うん。オタクが思う清楚とは程遠いとだけ言っておこう。んで、その青葉えるからリプでリアクションに困る事を言われているのだが、彼女が言ってる「どうして来てくれないの?」って言うのが「どうして配信に来てくれないの?」って事だけは何となく理解した
「はぁ……」
紬さんと彩晴さんを一瞥し視線を再びスマホへ戻すとそっと溜息を吐く俺。そのうち禿げそう……。どうしてと言われても生活環境が一変し、配信へ行けなくなったからとしか言いようがないのだが……このVtuberに限って言えば相方が家凸してきたんだが……
「マジでどうしよう……」
一応きっと多分記憶違いじゃなければ青葉えるは常識人で通ってる。相方の白葉うるは……サークル内でもトップ3に入るくらいヤバい奴というのがリスナーの共通認識。だからこそ送られてきたリプにも返答にも困っている。無難なのは仕事が忙しくなったからとか環境が変わって行くに行けなくなったとかだが、紬さんと彩晴さんの件がある。下手な事は言えない。ついでに青葉えるの事も別垢で呟いた事あるからバレてるかもしれないって思うと尚更だ
「彩晴さんに確認してみっか。ついでに住民票の事も聞いとかなきゃだしな」
Vtuberはたまに裏でリスナーについて話してると聞いた事がある。相方である彩晴さんなら何か知っててもおかしくない。まずは聞いてみるに限る。昼飯食ってる時にでも聞くとしよう
昼飯時────。俺達は3人仲良く食卓を囲んでいた。今日の昼飯は野菜と鶏肉のパスタ。作ったのはもちろんこの俺。紬さん達は仕事してて俺は名目上紬さんの秘書ではあるが、実際スケジュール等々は全て紬さんが管理してるから秘書としての仕事がほとんどない。飯を作るくらい当然だ
「あの……お二人に聞きたい事があるんですけど……」
「何? 結婚式の事?」
「それとも、子供の事?」
紬さんも彩晴さんもどうして俺の聞きたい事=結婚式や子供の事だと思ったかは今は置いとこう。突っ込んだら疲れる
「いえ、結婚式や子供の事ではなくてリスナーの事なんですけど……」
「ガッカリ……」
「今夜覚えておきなさい」
露骨にガッカリする紬さんと何かに火が付いた様子の彩晴さん。この女共は俺をどういう目で見てるんだ?
「アンタらは俺をどんな目で……それより! 紬さん達は裏でリスナーの事を話したりするんですか?」
「リスナーの事? 私は彩晴と違ってユニット組んでないけど……そうだね、仲いいVtuberと共通のリスナーだったらたまに話す」
「アタシも自分の枠に来てくれててえるの枠にも来てくれているリスナーの事ならたまに話すわ」
「なるほど……」
「いきなりどうしたの? もしかして来駕もVtuberデビューするの?」
「それなら全力で協力するわよ?」
「いや、デビューはしないんですけど、ちょっと気になる事があって……」
頭に疑問符を浮かべる紬さん達を余所に俺は一気にパスタを平らげるとそのまま自室へ向かった
「頻繁にではないにしろリスナーの事は話すのか……」
自室に入り、後ろ手でドアを閉めるとすぐさまベッドへダイブ。紬さん達に言われた事を思い出していた
「もっと詳しく聞いとくんだった……」
Vtuberが裏でどんな話をしようと誰に嫌われようと興味ない。俺はVtuberの配信に通りすがるだけなのだから。俺だけじゃなくVtuberのリスナーはほぼ全員通りすがりだ。配信から配信へ、VtuberからVtuberへ。自分の最推しを求めて旅を続ける。最推しを見つけたらその人の元へ居つく。まるで渡り鳥みたいに。Vtuberが裏でリスナーの話をしているのは別のVtuberから聞いた話だが、紬さんと彩晴さんがそうだとは思わなかった
「青葉える……」
無理にリプを返す必要はない。返せる時に返して返せない時は何かしらの反応を示す。俺には返さないって選択も取れる。よし!
「ハートだけ付けて放置しよう! そうしよう!」
思考を放棄した俺はスマホをベッドわきへ放り投げた。どうにでもなれだ
青葉えるのリプを放置してから数時間後。俺はソファーで紬さんと彩晴さんが仕事する姿をぼんやり眺めていた
「ねぇ来駕君」
「何ですか?」
「さっきえるがリプ送ったのに返事来ないって言ってきたんだけど心当たりない?」
「あー……そういえばリプ来てたような来てないような……」
「その反応は来てたね。ハート付いて放置されたって言ってたし」
背中越しに伝わる彩晴さんの圧。ぼんやりしてたところに不意討ちを食らった形になったから適当に誤魔化そうとしたがダメだったようだ
「何? 来駕はまた女性Vtuberをたぶらかしたの?」
「人を節操なしみたいに言わないでくれませんかねぇ……」
追い打ちをかける形で紬さんからも圧をかけられる。俺が女性Vtuberキラーみたいな言い草はなんなんだ?
「来駕君は女性Vtuberたらしでしょ。それより、えるも近いうちにここへ来るから」
「oh……」
「何それ迷惑」
「仕方ないでしょ。私もえるも来駕のこと愛してるし」
「なら仕方ない」
「仕方ないとは」
紬さん! さっきまで嫌そうな態度だったのに掌返しがすごい! つーか、彩晴さんがここにいるの納得してるんすか?
「仕方ないよ。ラブなんて言われたら誰でも期待する」
「おかしいって」
「おかしくないわよ。世の中そういうものなんだから」
紬さんと彩晴さんが何を言っているのか理解できない……HTMLファイルの名前を付ける時に「アイコンハート型だしラブでいいか」っていう短絡的発想で付けただけなのにマジと捉えられるとか世の中どうなってんだよ
「勘弁してくださいよ……」
今ですら収集つかないのにあと1人増えるとか勘弁してくれよ……
「ダメよ。アタシ達の面倒は最後までキッチリ見てもらうから」
「私の面倒も最後まで見て」
「えぇ……」
彩晴さんと紬さんの言ってる事がマジで分かりません。アンタらはペットか何かか? 俺は犬か猫を拾ってきたのか? 頼むから分かりやすく例えてくれ。無理なら別の例え方してくれ頼むから
「女性Vtuberを惚れさせたんだから責任を取るのは当たり前」
「紬の言う通りよ。ラブなんて言われて惚れない女はいないんだから責任取りなさい」
「マジかよ……」
紬さん達の暴論とも言える理論に俺は項垂れるしかなかった。新人や個人勢のVtuberチョロすぎるだろ……
える襲撃予告から1週間。近いうちに来るとは言われたが、あの日から特に何もなかった。平和が一番! 平和最高! このまま襲撃されずに済まねぇかなぁ……なんて考えてると────
「来駕君、える今日来るわよ」
「は?」
「だから、えるが今日ここに来るわよ」
「────!?」
リビングに────というか、俺に衝撃が走った。寝耳に水とはまさにこの事か……
「来駕諦めて」
「諦めろってまだ何も言ってないんですけど……」
「言わなくても解かる。えるさんがここに来るって現実が受け入れられないんだよね? 私も同じだから気持ち解かる」
現実を受け入れられないとは言ってないんだよなぁ……受け入れたくないけど
「はぁぁぁぁぁ……」
運命に抗えないのか……今からでも実家に帰れねぇかなぁ……
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました




