初耳の情報が出ました。どうしましょう
前回の続きです
ペットは飼い主に似る。これには諸説があり、飼い主が自分に似たペットを飼うとか、生活環境で性格が変わるとか。真偽の程は定かではなく、俺はペットを飼った事がないから分からない。ペットが飼い主に似る話は置いとくとしてだ、リスナーは配信者に似る。あるVtuberの配信に行った時、リスナーの1人が言っていた。こっちは類は友を呼ぶとか朱に交われば赤くなる的な意味合いだろう。だが、俺は通りすがり。誰にも似る気はないんだが────
「勘弁してくれ……」
青葉えるの襲来宣言から5日。あれから彩晴さん経由で襲来の日が2月の終わりだと知らされ、tubuyaitaの方にもカウントダウンDMが届き続けているのが現状。ちなみに後1日。つまり、明日には青葉えるがここに凸してくる。切に思う。勘弁してくれと
「はぁぁぁぁ……」
華の金曜日。リビングに響く俺の溜息。ハッキリ言おう。憂鬱だ。元々『ライ』は何となく作ったアカウント。今でこそVtuber、リスナー、エンジニア、Live2Dモデラーとフォロワーが増えた。しかし、当初だと引き際を見て『ライ』は消える予定だった。アイコンを動かしたりしてる関係上、消すに消せなくなった結果、今に至る。いや、至ってしまった
「来駕、溜息吐くと幸せ逃げるよ?」
「悩みがあるなら聞くわよ?」
悩んでるのはアンタらと青葉えるの事なんだが……本人達には口が裂けても言えない。彼女達────というか、Vtuber全員の行動を全肯定するわけではないが、彼ら彼女らの行動にいちいち文句言ってたらキリがない。だからなのかもしれない……
「別に悩みなんてありませんよ。ただ、この寒さに嫌気がさしただけです」
本当はVtuberでアイドルなはずの紬さんや彩晴さん、青葉えるがどうして出会い厨みたいな事をしたか、大勢いるリスナーの中から俺を選んだ理由とか聞きたい事はある。だが、考えてほしい。人は基本的に自分の行動を批判され、否定されるのを嫌う傾向にある。彼女達に諸々の理由を聞いて俺がそれを否定したとしよう。どんな行動に出るか考えたくもない
「そう……何か悩みがあったらいつでも言って」
「相談乗るわよ?」
「別に何でもないですよ。ところでパソコン取に行きたいんですが……」
基本リビングにいる時は右手を紬さんと、左手を彩晴さんと手錠で繋がれている。とは言っても仕事の関係上、人に見られたらマズいものもあるみたいで手錠の鎖の部分は鉄製の縄になっててある程度の距離は取れるようになっている。行動範囲がリビングとキッチンに限定されるけどな
「私達も一緒に行く」
「靴は隠してあるけど逃げないとも限らないしね」
信用ないな、俺。配信で散々居場所に興味ないって言ったんだが……ヤンデレ警戒心強くね?
「逃げたりしないんですが……」
好きな人とはいつもいつでもどこででも一緒にいたいんかねぇ……なんて思いながら俺達はリビングを出た
一夜明け、今日は青葉える襲来当日の今日。俺達は────
「何で俺達はこんなところにいるんですかねぇ……」
札幌駅東改札口に来ていた
「えるは極度の方向音痴なのよ。初めてオフ会した時なんか何時間も待たされたわ」
「納得いかないけど、来駕を私達だけのものにするため。仕方ない」
「あのなぁ……」
溜息を吐く彩晴さんと眉間に手をやる紬さん。彩晴さんの方は半ば諦めモードだが、紬さんの方は若干不満気だ。当事者の俺はもちろん納得してないし諦めてもいない。マジで個人勢Vtuber怖すぎるだろ
「恨むならアイコン動かしたやつにLOVEって付けて私達を期待させた自分を恨んで」
「女の子はLOVEって言われたらすぐ期待する生き物なんだから諦めなさい」
「適当に名前付けただけだって何回も言ってるじゃないですか……」
彼女達には口が酸っぱくなるほど説明はした。アイコンがドキドキしてるように見せてるからLOVEって名前を付けたと。本人達は欠片も納得してくれなかったけどな!
「「諦めて」」
「はぁ……」
もう逆らう気も抗う気も起きない。元々ネットの中じゃ全てにおいて興味ありませーんって感じで過ごしてきて本心は置いといて好きだと言ってきたツケが回ってきたんだろう。全部自業自得だ
青葉えるを待つ事10分。時刻は11:30────
「腹減った……」
俺は空腹に悩まされていた。青葉えると何時に待ち合わせしたかは彩晴さんしか知らない。故に俺は空腹に悩まされ、紬さんは……
「暇……」
暇を持て余していた。対して彩晴さんはというと────
「そろそろかしら……」
今か今かと青葉えるの到着を待っていた。曰く極度の方向音痴らしいが……ちゃんと俺達の元へ辿り着けるのか? なんて考えてると
「彩晴ちゃん、お待たせ」
「別に待ってないわ。それより、今回はちゃんと辿り着けたみたいね」
「うん。今日は迷えないもん」
青葉えるが現れたようだ。どうやら彩晴さんと親し気に話している黒髪ロングの女性がそうらしい。青のスカートに黒いコートか……どっかのお嬢様か? 彼女が青葉えるなら配信の時と随分雰囲気が違うな……
「アタシとのオフ会は迷ってもよかったって言いたいワケ?」
「そ、そうじゃないよ! 今日は来駕くんに会える日だから変なところ見せたくないの!」
「いつも配信で見せてるじゃない」
「あ、あれはVtuberとしてのキャラだよ! 素の私は変な子じゃないもん!」
「素でも配信でもアンタは立派な変な子よ」
「も~! 彩晴ちゃんのイジワル!」
「いつもの仕返しよ」
俺は何を見せられてるのだろう……本人達はいつもと変わらんやり取りをしているつもりなんだろうが、初見だと百合カップルのイチャイチャにしか見えん
「後は彩晴ちゃんに任せて帰ろう。私達の愛の巣へ」
表には出さないが、紬さんは彩晴さんと青葉えるのやり取りに心底苛ついてたらしい。待たされた挙句、全力放置を食らったら誰だってイラつくか。帰りたいのは同意だが、愛の巣は否定させてくれ
「ですね。後は彩晴さんがどうにかしそうですしそうしましょうか」
「うん」
彩晴さんに全てを任せ、俺達はその場を立ち去ろうと────
「待ちなさい! 来駕も紬もアタシ達を置いてどこに行くのかしら?」
できなかった
「家に帰る。彩晴はその人と思う存分イチャイチャついてていいよ。その間に私は家に帰って来駕とイチャイチャするから」
「アタシ達を差し置いていい度胸ね。昨日決めたハズよ? 来駕はアタシ達全員で共有するって」
「そうだけ彩晴はイチャつくのに忙しいみたいだから私達は帰っていいでしょ?」
「よくないわよ!」
「なら早く紹介して。そういうところが彩晴のダメなところ」
「うっさい!」
今度は俺と青葉えるをそっちのけで紬さんと言い合いを始める彩晴さん。共有するって話初耳なんだが……ツッコんだら負けだ。聞かなかったことにしよう
「女三人寄ればかしましいとはこの事か……」
昔の人はいい例えをしたと思う。女という漢字を3つ集めれば“姦”という文字になるって例えから生まれた例えらしいが、現状を見てしみじみと思う。きっとこういう状況を言うんだなと。俺は静かに暮らしたいんだけどなぁ……
「俺の願いは叶いそうにないか……」
いつの間にか青葉えるも参戦し、言葉通り女三人寄ればかしましい状況になってしまった。周囲の目が痛いから止めてほしいのだが、当事者達は公共の場で醜い言い合いをして恥ずかしいとは微塵も思ってないだろう
「ラーメンでも食いに行くか」
俺はそっと彼女達の側から離れた。ラーメン食って戻る頃には大人しくなってるだろう
紬さん達の側から離れる事に成功した俺は近くにある大型電気店の最上階に来ていた。1階から6階は電気屋だが、7階は洋服店、8階はラーメン店街、9階は昔はゲーセンやアニメショップ、ペットショップだったのだが、ここ数年行ってないから今は何があるのか分からん
「久々に1人か……」
紬さんとオフ会する前までは1人が当たり前だった。彼女に監禁されてから……いや、Vtuberを知ってから俺には大なり小なり他者との繋がりができた。繋がりはあれど一生対面する事はないと思ってたし、いつでも切り捨てられると楽観的になっていた。今じゃ雲の上の存在だと思っていた連中に監禁され、リアルで監視される生活を送っている。『ライ』を生んだ時には考えられなかった状況だ
「人との繋がりか……」
引き際が来たら『ライ』を消すつもりで別垢の存在をVtuberに教える気はサラサラなかったし、配信中にフォローしたところでバレはしないし、感想や印象を呟いたところで特定には至らないと思ってた。まさか秒でバレるとは予想外だった
「世の中思い通りにはいかないもんだな……」
Vtuberに限らず人は自分の事しか考えてないと思う。Vtuberに限って言えば自分が成り上がるためなら例え他のVtuberを蹴落としてでも固定のリスナーを確保すると思っていたし今も思ってる。リアルじゃ自分の思い通りになる人間は周りに置き、意に反する人間は徹底的に排除する。会社がいい例だ。面接で話してみてコイツは自分────自社にとって都合のいい人間だと思ったら採用され、違ったら適当な理由を付けて不採用。どんだけ現実を見たくないのやらと呆れてしまう
「現実を見たくないのはVtuberも同じか……」
Vtuberも中身は所詮普通の人間。tubuyaitaのプロフィールにはやれ魔界から~とか、魔法世界から~とか書いてあっても中身はただの人間。肯定する人間もいれば否定し、批判する人間もいるって現実が見えてない部分は他と大差ないって事に他ならない。世の中に向けて何かを発信してる立場の人間がそんなんでいいのか?
「いい歳した大人が聞いて呆れる」
Vtuberの豆腐メンタルに嘆息しながら俺はラーメン屋を目指した
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました




