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異世界子供ヤクザ:無名のバクト  作者: 忍絵 奉公


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第9話 五番街の倉庫


 橋の下。

 肉の匂いがまだ残っている。

 ガンリュウは串を置き、満足そうに息を吐いた。

「ふぅ」

「食ったな爺さん」

「久々にこんな肉食った」

「西六番街産だぞ」

「不安になる言い方すんな」

 ガンリュウは笑った。

 そして。

 バクトたちを見る。

「お前ら」

「ん?」

「気に入った」

 護衛二人が目を見開く。

 ガンリュウはニヤリと笑った。

「五番街に、使ってねぇ倉庫がある」

「倉庫?」

「おう」

 煙管を咥える。

「お前らにやる」

 一瞬。

 沈黙。

 カリナが先に反応した。

「えっ」

 ワイザも止まる。

「家?」

 ヒャッポの手も止まった。

 バクトだけが目を細める。

「……なんで」

「助けてもらった礼だと思え」

 ガンリュウが立ち上がる。

「案内する。行くぞ」

 その瞬間。

「ちょい待て!」

 バクトが立ち上がった。

 ガンリュウが振り返る。

「ん?」

「片付ける」

 そして。

 四人が一斉に動いた。

 バクトは石を元の位置へ戻していく。

 崩した土台も踏み固める。

 ワイザは鉄板へ水をかけ、ゴシゴシ洗う。

 ヒャッポは焚き火へ砂をかけて完全消火。

 カリナは骨やゴミを袋へ回収。

 動きが妙に慣れていた。

 数分後。

 橋の下は綺麗になっていた。

 まるで最初から何もなかったみたいに。

 ガンリュウが目を細める。

「ほぉ」

「西六番街の基本だ」

 バクトが鼻を鳴らす。

「汚したら次使えねぇからな」

 ワイザが毛布を抱える。

 カリナは袋を担ぐ。

 ヒャッポは弓を背負った。

「いいよ」

「行こうぜ爺さん」

 護衛二人は、また驚いていた。

(ちゃんと片付けるのか……)

(思ったより育ち悪くねぇ……)

 ガンリュウは笑った。

「ますます面白ぇ」

  

 西五番街。

 六番街ほどではないが、やはり貧民が多い。

 薄暗い路地。

 壊れた建物。

 浮浪者。

 だが、少しだけ空気が違う。

 六番街より“商売”がある街だった。

 その一角。

 古い大倉庫。

 レンガ造り。

 巨大。

 入り口は分厚い木の扉一つ。

 ガンリュウが鍵を投げる。

「開けろ」

 バクトが受け取る。

 ガチャ。

 重い音。

 扉が開いた。

「おお……」

 中はかなり広かった。

 天井が高い。

 木箱が少し残っている。

 壁は古いが頑丈。

 しかも高窓から夕日が差し込んでいた。

 赤い光が倉庫を照らす。

 カリナが走る。

「広っ!」

 ワイザが見上げる。

「雨こない」

「冬・・平気・・」

 ヒャッポは静かに周囲確認していた。

 出入口。

 窓。

 逃げ道。

 完全に狩人の目だった。

 ガンリュウが笑う。

「ここ使っていいぞ」

「マジで?」

「おう」

 壁を軽く叩く。

「ここなら冬もなんとかなる」

 バクトは倉庫を見回した。

 橋の下とは違う。

 屋根がある。

 壁がある。

 それだけで別世界だった。

「……いい場所じゃん」

「だろ?」

 ガンリュウは煙管を咥える。

「助けてもらった礼だ」

 そして。

 少し目を細めた。

「あとは極楽連合の件だが」

 バクトが振り向く。

「あれは好きにしていい」

「ん?」

「気に入らなきゃ潰せ」

 ニヤリ。

「シノギも奪え」

 カリナが笑う。

「公認だ」

 だがバクトは眉をひそめた。

「……どうせ後で言うんだろ」

「何を」

「上納金出せって」

 護衛二人が固まる。

(会長にそれ言う!?)

(胃が死ぬ……!)

 だが。

 ガンリュウは腹を抱えて笑った。

「あはははは!!」

 倉庫に笑い声が響く。

「いらねぇよそんなもん!」

「え?」

「儂ぁ金に困ってねぇ」

 煙を吐く。

「お前らが分捕った分は、そのままお前らのもんだ」

 バクトたちは少し黙った。

 西地区では珍しい話だった。

 普通は吸い上げられる。

 上が全部持っていく。

 だがこの老人は違う。

「……変な爺さん」

「よく言われる」

 ガンリュウは笑った。

 その目は少しだけ鋭かった。

「ただし」

「ん?」

「筋だけは通せ」

 空気が変わる。

「仲間売るな」

「弱い奴いじめるな」

「筋通して暴れるなら、好きにしろ」

 バクトは数秒黙る。

 そしてニヤッと笑った。

「いいじゃん」

 ガンリュウも笑った。

 西五番街。

 古い倉庫。

 そこが。

 後に西地区を揺らす“組”の始まりになる場所だった。



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