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異世界子供ヤクザ:無名のバクト  作者: 忍絵 奉公


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第10話 無名


 西六番街。

 極楽連合事務所。

 空気は重かった。

「……マジなのか」

 幹部の一人が呟く。

「会長直々に倉庫与えたらしい」

「しかも五番街の倉庫だと」

「終わったじゃねぇか……」

 誰も笑っていない。

 あのガンリュウ。

 無言竜会長。

 滅多に会う事すらできない、西地区の頂点。

 その男が“気に入った”と言った。

 意味は重い。

 下手に手を出せば、無言竜本体との衝突になる可能性がある。

 極楽連合程度では、潰される。

 だが。

「……だからって引けるか?」

 ザードが低く言う。

 格下げされ、目の下にクマを作っていた。

「あんなガキに好き勝手されて、西五・六番街のシノギ全部取られたら終わりだ」

 他の幹部も黙る。

 実際、既に影響が出始めていた。

 商人。

 露店。

 荷運び。

 住民。

 “極楽よりガキの方がマシ”

 そんな空気が広がり始めている。

「……どうする」

「様子見だ」

 パクチが煙草を揉み消す。

「今はまだ動くな」

 苦い顔。

「会長のお墨付きってのが面倒すぎる」

  

 一方。

 西五番街。

 倉庫。

「組の名前?」

 カリナが目を輝かせた。

「必要だよ!」

「なんで」

「かっこいいじゃん!」

 ワイザも頷く。

「名前、大事」

 ヒャッポも小さく頷いた。

 バクトは面倒臭そうに頭を掻く。

「別にヤクザになる気ねぇんだけどな……」

 少し考える。

 無言竜。

 無言。

 なんとなく兄弟分っぽい。

 でも名前を考えるのは面倒。

 結果。

「無名」

 沈黙。

「……え?」

「だから無名」

「理由は?」

「なんとなく」

 カリナが吹き出した。

「適当すぎる!」

「でも嫌いじゃない」

 ワイザが頷く。

「かっこいい」

 ヒャッポも静かに言う。

「・・覚えやすい・・」

 カリナが跳ねた。

「襲名披露パーティしよう!」

「やらん!」

「えー!」

「看板も出さねぇ!」

 バクトが指をさす。

「敵作りすぎたら後で面倒だろ」

「確かに」

「とりあえず五番街を縄張りにする」

 カリナがニヤリ。

「支配者だ」

「違ぇよ」

 バクトは呆れる。

「相談受けるだけだ」

「……相談?」

「困り事聞いて、解決する」

「ヤクザじゃなくて便利屋では?」

「だからヤクザになる気ねぇって言ってんだろ」

 

 その日から。

 無名は動き始めた。

「相談事あったら聞くぞー!」

 西五番街。

 通りを歩くバクトとカリナ。

 声を張る。

 一方。

 ワイザとヒャッポは別ルート。

 裏路地。

 市場。

 運河沿い。

 それぞれ歩き回る。

 しかも。

 噂が広がっていた。

『無言竜会長のお気に入り』

『極楽連合をボコったガキ』

『五番街の新顔』

 西地区では、噂は武器だ。

 しかもガンリュウ公認。

 それだけで住民の見る目が変わる。

「お、おい坊主」

 最初の依頼は魚屋だった。

「荷車盗まれたんだ」

「どこで」

「運河沿い……」

「任せろ」

 十分後。

 酔っ払いが勝手に持っていただけだった。

 ワイザが荷車ごと持ち帰る。

「早ぇ!」

 次。

「猫が木から降りねぇ」

 カリナが登る。

 五秒。

「はい」

「ありがとう!」

 次。

「ゴロツキが店前で寝てる」

 ヒャッポが無言で矢を放つ。

 男のズボンが地面に縫い付けられる。

「ひぃ!?」

 逃走。

 次。

「洗濯物盗まれた」

 バクトが路地裏のガキを脅す。

「返さねぇと全裸で吊るすぞ」

「すみませんでした!」

 問題は次々解決した。

 しかも。

 全部ちょっと乱暴。

 でも早い。

 西地区では、それが重要だった。

  

 夕方。

 倉庫へ戻る四人。

 カリナが笑う。

「人気者じゃん」

「疲れた」

 ワイザはパンを食っている。

 ヒャッポは今日回収した矢を数えていた。

 バクトは銀貨を並べる。

「今日の収入、銀貨六枚」

「結構ある!」

「地味に稼げるな」

 その時。

 倉庫の入口で、小さな子供たちがこちらを見ていた。

 スラムのガキたち。

 目をキラキラさせている。

「あの……」

「ん?」

「無名って……」

 少年が興奮した顔で言う。

「極楽連合倒したんだろ!?」

 カリナがニヤリ。

「まぁね」

「すげぇ……!」

「弟子にしてください!!」

 バクトは嫌そうな顔をした。

「あー面倒な事になってきた」

 だが。

 西五番街。

 西六番街。

 少しずつ。

 無名という名前が広がり始めていた。



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