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異世界子供ヤクザ:無名のバクト  作者: 忍絵 奉公


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第11話 人食い鬼ヒャッポ


 西五番街。

 無名の倉庫前。

 夕方。

「弟子にしてください!!」

「お願いします!!」

 スラムの子供たちが群がっていた。

 年齢は七歳から十二歳くらい。

 ボロ服。

 裸足。

 目だけギラギラしている。

 西地区では珍しくない光景だった。

 強い奴に憧れる。

 守ってくれる存在へ集まる。

 だが。

「ダメだ」

 バクトは即答した。

「えぇぇ!?」

 大ブーイング。

「なんでだよ!」

「俺たちも極楽連合ぶっ飛ばしたい!」

「無名入りてぇ!」

 バクトは頭を掻く。

「食わせていけるかわかんねぇ」

 子供たちが止まる。

「あと命の危険もある」

 バクトの顔は真面目だった。

「俺より小さいガキは無理だ」

 静かになる。

 だが。

 一人が泣きそうな顔で言う。

「でも家ねぇし……」

「親もいねぇ……」

 カリナの顔から少し笑みが消える。

 ワイザも黙る。

 バクトは数秒黙った。

 そして。

「ヒャッポ」

 倉庫の奥を見る。

「ん」

 暗い奥から、ヒャッポが歩いてきた。

 しかも。

 ものすごく嫌そうな顔。

 そして。

 ものすごく怖い顔。

 目が死んでる。

 影の中から現れるせいで、余計怖い。

 子供たちが固まった。

「うっ……」

「ひっ」

 バクトが突然叫ぶ。

「出たぞォ!!」

「!?」

「人食い鬼ヒャッポだぁぁ!!」

 ヒャッポが無言で一歩前へ出る。

 ギィ……。

 床が鳴る。

「ぎゃあああ!!」

「食われる!!」

「逃げろぉぉ!!」

 子供たちは全力で逃げた。

 一瞬で消える。

 静寂。

 そして。

「……人食い鬼」

 ヒャッポがボソッと言う。

 カリナが吹き出した。

「ぷっ……!」

 肩を震わせる。

「似合いすぎ……!」

 ワイザも笑いをこらえている。

 バクトは腹を抱えた。

「悪ぃ悪ぃ!」

 ヒャッポは無表情だった。

 だが少しだけ不満そうだった。

 

 その後。

 倉庫は少しずつ“住める場所”になっていった。

 ワイザが巨大な木材を抱えて戻ってくる。

「どこから持ってきた」

「捨ててあった」

「まぁ西地区だしな」

 ワイザは黙々と組み立て始めた。

 ギシギシ。

 ゴンゴン。

 釘を打つ。

 板を繋ぐ。

 そして。

「できた」

「おお!」

 二段ベッドだった。

 かなり雑。

 でも頑丈。

 ワイザが乗っても壊れない。

「天才か?」

「寝れる」

 カリナが上へ飛び乗る。

「秘密基地みたい!」

 ヒャッポは下段へ座る。

 少し嬉しそうだった。


 夜。

 バクトは一人、六番街へ向かっていた。

 古びた孤児院。

 窓から灯りが漏れている。

 中では子供たちの笑い声。

 シスター・シンディローパーの怒鳴り声も聞こえた。

 バクトは少し笑う。

 懐から袋を取り出した。

 銅貨三十枚。

 今日までの稼ぎの一部。

「……借りだからな」

 窓から放り投げる。

 ガシャッ。

「!?」

 中で悲鳴。

 バクトは即座に逃げた。

「泥棒!?」

「違いますシスター! お金です!」

「なぜ投げ込まれてるんですか!?」

 声を聞きながら、バクトは路地を走る。

 少しだけ嬉しそうだった。

 窓の修理代が銅貨30枚分だと言う事に気づかずに・・


 一方。

 カリナは市場。

「この布安くならない?」

「無理だよ嬢ちゃん!」

「じゃあ隣いく」

「待て待て!」

 交渉中。

 かなり強い。


 ヒャッポは倉庫の隅。

 静かに矢を削っていた。

 一本。

 また一本。

 無駄なく整える。

 その時。

「……ん」

 ふと思いつく。

 小刀を取り出す。

 矢へ刻む。

 ヒ。

 ャ。

 ッ。

 ポ。

「名前?」

 カリナが覗き込む。

 ヒャッポは頷いた。

「自分の矢、わかる」

「おー!」

 バクトも戻ってきた。

「なんだそれ」

「銘」

「職人っぽいな」

 ヒャッポは静かに新しい矢を並べる。

 そこには全て。

『ヒャッポ』

 と刻まれていた。

 西五番街。

 無名の倉庫。

 少しずつ。

 そこは本当に“家”になり始めていた。



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