第12話 ポロン
早朝。
まだ空は薄暗い。
西五番街の倉庫。
「……ん?」
バクトが目を開けた。
何か聞こえる。
小さい。
だが妙に耳につく。
「ふぎゃああああ!!」
「……猫?」
また泣き声。
「ぎゃあああ!」
「犬か?」
かなり必死だ。
バクトは眠そうに立ち上がる。
ギィ。
倉庫の扉を開けた。
「……は?」
そこにあったのは。
籠。
そして。
赤ん坊。
布に包まれた、生まれたばかりくらいの小さな赤子だった。
「え?」
バクトが固まる。
「え? え?」
赤ん坊は真っ赤な顔で泣いていた。
「ぎゃああああ!!」
「まじ?」
周囲を見る。
誰もいない。
路地。
朝霧。
静かな五番街。
本当に赤ん坊だけだった。
「困る困る困る!」
バクトは頭を抱えた。
だが放置もできない。
「うわぁ……」
仕方なく籠を持ち上げる。
倉庫へ入れた。
すると。
ピタ。
「……え?」
泣き止んだ。
バクトが固まる。
「まさか」
試しに外へ出す。
「ぎゃああああ!!」
「うるせぇ!」
中へ戻す。
ピタ。
「……」
また外。
「ぎゃあああ!!」
「なんなんだお前!」
その時。
「んぅ……?」
カリナが起きた。
髪ボサボサ。
寝ぼけ目。
「なにそれ?」
赤ん坊を見る。
一瞬停止。
次の瞬間。
「キャーーー!!」
飛び起きた。
「かわいい!!」
「うおっ!?」
バクトから籠を奪う。
「ほらほらー!」
「べろべろばー!」
赤ん坊が笑った。
「きゃっきゃっ」
「笑ったぁ!!」
カリナ大興奮。
その騒ぎでワイザも起きる。
「……あれ?」
赤ん坊を見る。
「子供できたの?」
「違うわ!!」
即ツッコミ。
ヒャッポも起きた。
赤ん坊を見る。
数秒沈黙。
「……人さらい」
「違ぇぇ!!」
バクトが頭を抱える。
「朝起きたら置いてあったんだよ!」
ワイザが赤ん坊を見る。
「小さい」
「当たり前だろ」
「弱そう」
「赤ちゃんだからな!?」
カリナは完全に夢中だった。
「かわいい……」
ほっぺをつつく。
赤ん坊は笑っている。
どうやら機嫌がいい。
「……どうする」
ヒャッポが聞く。
全員黙る。
沈黙。
そして。
バクトがため息を吐いた。
「……しょうがねぇ」
「お?」
「ここで育てる」
カリナが飛び跳ねた。
「やったぁ!」
「育て方知らねぇけどな!」
そこから大混乱だった。
まず。
「赤ちゃんって何食うんだ?」
「肉?」
「死ぬわ!」
カリナが市場へ走る。
赤ん坊を連れた女性たちへ聞き込み開始。
「すみませーん!」
「赤ちゃんってどう育てるの!?」
奥様たちが固まる。
「え?」
「お姉ちゃん子供いるの?」
「いない!」
「じゃあなんで!?」
数時間後。
カリナは知識を大量に仕入れて戻ってきた。
「ミルクがいるんだって!」
「ミルク?」
「牛乳でも薄めればいいかもって!」
「ほぉ」
「あと布おむつ!」
「なんだそれ」
「巻くの!」
布を持って実演する。
かなり雑。
でもなんとなく形にはなった。
「すげぇ」
「私天才かも」
「絶対違う」
ワイザは小さい鍋で牛乳を温めていた。
ヒャッポは無言で小さな木のおもちゃを削っている。
気づけば全員動いていた。
夜。
赤ん坊は布に包まれて眠っていた。
スヤスヤ。
静か。
四人は周囲で見守っている。
「名前どうする?」
カリナが聞く。
バクトは少し考えた。
そして。
「ポロン」
「……へ?」
「朝、ポロンって置いてあったから」
ワイザが頷く。
「わかりやすい」
「いいのそれで!?」
カリナが笑う。
ヒャッポも小さく頷いた。
「覚えやすい」
赤ん坊――ポロンは、小さく笑った。
その姿を見て。
バクトたちも少し笑った。
西五番街。
無名の倉庫。
そこに。
新しい家族が増えていた。




