第13話 正月の誘い
西五番街。
無名の倉庫。
昼。
ポロンが床をハイハイしていた。
「うお、速ぇ」
バクトが驚く。
まだ赤ん坊なのに、妙に元気だった。
カリナは布を縫っている。
ワイザは鍋。
ヒャッポは矢。
最近の無名は、少しだけ平和だった。
その時。
ギィ。
倉庫の扉が開いた。
「よぉ」
「爺さん」
ガンリュウだった。
今日もふらりと来た。
護衛も見えない。
だが絶対どこかにいる。
ガンリュウは倉庫を見回す。
「お、いたいた」
ポロン発見。
ハイハイしてくる。
ガンリュウはしゃがみ込んだ。
「お前……」
バクトに真顔。
「まだ早いだろ?」
「ん?」
「立つのか?」
「何が?」
「……ちんこ」
「なに!?」
「じゃあ攫ってたのか?」
「ちげぇって! 捨てられてたんだ!」
「そうなのか」
ガンリュウは普通にポロンを抱き上げた。
かなり自然。
ポロンも泣かない。
むしろ楽しそうだった。
「おー」
ガンリュウが変顔をする。
「ぶへぇ」
「きゃっきゃっ!」
ポロン大喜び。
その様子を見て。
側近の一人がものすごく嫌そうな顔をしていた。
(会長なにやってんだ……)
それと目が合う。
ガンリュウがハッとした。
「……んん」
急に真顔になる。
何事もなかったようにポロンをバクトへ返した。
「変わりないか?」
「露骨に誤魔化したな今」
「聞こえんな」
ガンリュウは煙管を咥える。
バクトも笑った。
「まぁ特に変わりねぇよ」
「極楽連合とも揉めてねぇか?」
「あぁ」
「そうか」
ガンリュウは少し嬉しそうだった。
その時。
「ところで」
「ん?」
「正月、うち来るか?」
バクトが止まる。
「……は?」
「遊びに来い」
「いやそれ行ったら、爺さんの部下になる流れだろ」
「馬鹿言うな」
ガンリュウが笑う。
「客人だ客人」
「怪しい」
「エビやタイ」
「?」
「ヒラメの舞い踊り」
「なんだそりゃ」
カリナが首を傾げる。
「ヒラメ踊るの?」
「知らねぇ」
ワイザだけ反応した。
「エビ?」
「タイ?」
食べ物に反応している。
ヒャッポも少しだけ気になっていた。
「正月料理だ」
ガンリュウがニヤリ。
「食いたくねぇのか?」
沈黙。
バクトは知らない。
孤児院にも、スラムにも、そんな豪華な正月は無かった。
「……美味いのか」
「めちゃくちゃ美味ぇ」
「どのくらい」
「お前らが普段食ってる肉、全部忘れるくらい」
ワイザが立ち上がった。
「行く」
「早ぇよ!」
カリナも手を上げる。
「私も!」
ヒャッポも静かに頷いた。
「……食べる」
バクトがため息を吐く。
「お前ら全員行きたい顔してんな」
ガンリュウが笑う。
「来るべきだ」
「そんなにか」
「朝から晩まで食えるぞ」
「夢か?」
「一泊二日で接待してやる」
「なんでそんな優しいんだ爺さん」
「気に入ったからだ」
即答だった。
バクトは少し黙る。
そして。
「……わかったよ」
「おう」
「正月だな?」
「五日後だ」
ガンリュウは立ち上がる。
「朝来い」
「場所わかんねぇ」
「迎え寄越す」
そう言って帰ろうとした。
その時。
ポロンが小さい手を伸ばす。
「あー」
ガンリュウが止まる。
少し笑った。
そしてポロンの頭を撫でる。
「またな」
そのまま出て行った。
静かになった倉庫。
数秒後。
「……エビ」
ワイザが呟く。
「タイ」
ヒャッポも言う。
「ヒラメの舞い踊り……」
カリナが真剣に考えていた。
「やっぱ踊るのかな」
「知らねぇよ!」
バクトが笑う。
だが少しだけ。
正月が楽しみになっていた。




