第14話 二番街
正月。
朝。
西五番街の倉庫前。
「準備いいか?」
バクトが聞く。
カリナは珍しく綺麗な服を着ていた。
「どう!?」
「転びそう」
「失礼!」
ワイザはいつも通り。
だが髪だけ少し整えている。
ヒャッポも服が少し綺麗だった。
そして。
ポロン。
カリナに抱っこされている。
「連れてくの?」
「置いてけないでしょ」
「まぁな」
バクトは息を吐いた。
「行くぞ」
二番街。
王都イデオでも有名な高級街。
西地区とは別世界だった。
「……すげぇ」
バクトが見上げる。
石畳。
巨大な街路樹。
綺麗な店。
銀行。
宝石店。
高級ペットショップ。
どこも磨き上げられていた。
通る人間も服が違う。
しかも奥には。
巨大な屋敷群。
貴族街。
門の前には護衛騎士が二人ずつ立っている。
鎧。
槍。
剣。
完全武装。
カリナが小声で言う。
「場違い感すごい」
「帰る?」
「帰らない」
ワイザはキョロキョロしていた。
「犬が高そう」
「見る場所そこ?」
ヒャッポは静かだった。
だが少し警戒している。
そして。
「……あ」
巨大な屋敷が見えた。
黒い塀。
巨大門。
まるで城。
そこに。
着物姿の男たちが五人立っていた。
全員、只者じゃない。
目が鋭い。
気配が静か。
だが。
バクトを見ると頭を下げた。
「お待ちしてました」
「うお」
見覚えがある。
いつも影みたいにガンリュウの近くにいる手練れたちだ。
一人が笑う。
「どうぞ、兄さん」
「兄さん?」
「会長のお気に入りですから」
「やめろ気持ち悪い」
護衛たちは笑った。
そして門が開く。
「……おお」
中庭。
広かった。
整然としている。
砂紋。
松。
巨大な岩。
池。
錦鯉。
空気まで静かだった。
ワイザが池を見る。
「魚でかい」
「食うなよ」
「見ただけ」
ヒャッポは庭を観察していた。
死角。
高所。
逃げ道。
完全に裏社会の人間の目。
カリナは門松を見ている。
「これが正月かぁ」
バクトは少し落ち着かなかった。
「爺さん、思ったより偉い人だったんだな」
護衛が吹き出す。
「今さらですか」
「だって普段橋の下で肉食ってんじゃん」
「まぁ……そうですね」
玄関へ着く。
扉が開いた。
「うわ」
靴。
大量。
何十人分もある。
しかも。
中から笑い声。
酒臭い。
大騒ぎ。
「ぎゃははは!」
「飲め飲め!」
「会長まだ生きてます!?」
「誰が死ぬかァ!」
カリナが目を丸くする。
「なんか想像と違う」
案内役が苦笑した。
「昨日の年越しから飲んでますんで」
「ずっと?」
「毎年です」
「怖っ」
廊下を進む。
広い。
高級。
だが。
どこか人の気配がある。
使用人。
組員。
笑い声。
怒鳴り声。
完全に“家”だった。
そして。
大広間。
襖が開く。
酒。
料理。
刺身。
鍋。
焼き魚。
豪華すぎる料理が並んでいた。
「……」
無名一行、停止。
そこに。
上座のど真ん中で酒を飲んでいたガンリュウが気づく。
「おう!!」
真っ赤な顔。
完全に酔っている。
だが楽しそうだった。
ガンリュウは大きく手招きする。
「来たかガキども!!」
周囲の組員たちが一斉に見る。
静まる。
「……あいつら?」
「噂の」
「極楽潰してるガキか」
視線が集まる。
だが。
ガンリュウは気にしない。
「こっち来い!」
バクトは少し緊張しながら歩いた。
だが。
机に並ぶ料理を見た瞬間。
「……うまそう」
全部吹っ飛んだ。
ワイザは既にヨダレが危険だった。
カリナも目がキラキラしている。
ヒャッポだけ静かだった。
でも。
刺身を凝視していた。
ポロンはなぜか笑っている。
ガンリュウが豪快に笑った。
「今日は好きなだけ食え!!」
無名一行。
人生初の。
本物の正月が始まった。




