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異世界子供ヤクザ:無名のバクト  作者: 忍絵 奉公


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第8話 橋の下の宴


 西六番街。

 橋の下。

 夕暮れ。

 焚き火の上で肉が焼ける。

 ジュウウウ。

 脂が落ち、煙が立つ。

 その匂いに、老人が鼻を動かした。

「……うまそうだな」

 ガンリュウだった。

 無言竜会長。

 西地区最大組織の頂点。

 そんな男が、普通に橋の下へ腰を下ろしている。

「俺にも食わせろ」

 バクトが笑った。

「金ある?」

「ねぇ」

「会長なのに?」

「今日は財布持ってきてねぇ」

「じゃあタダ飯だな」

 護衛二人が青ざめる。

(会長にタダ飯って言った!?)

(胃が痛ぇ……!)

 だがガンリュウ本人は楽しそうだった。

「いいじゃねぇか」

 ワイザが肉を差し出す。

「食う?」

「おう」

 ガンリュウは串を受け取る。

 そして普通にかぶりついた。

「……うめぇ」

「だろ?」

 その横で。

「じっとしてろ!」

 カリナがバクトの肩へ布を押し付けていた。

「いてぇ!」

「うるさい!」

 かなり雑だった。

 ほぼ拷問。

 ガンリュウが眉をひそめる。

「おい」

「ん?」

「それ手当か?」

「たぶん?」

「たぶんってなんだ」

 見かねた側近の一人が前へ出た。

「失礼します」

 懐から酒瓶。

 ガーゼ。

 針。

 糸。

 次々取り出す。

 カリナが目を丸くする。

「うわ、本格的」

「どいてください」

「はーい」

 側近は慣れた手つきだった。

 傷を洗う。

 縫う。

 ガーゼを当てる。

 しかも速い。

 バクトはその間も気にせず肉を食っていた。

「爺さんほんと強かったな」

「まぁな」

「さっきの斬り方やばかった」

「お前も無茶苦茶だったぞ」

「反射だよ」

 その時。

 側近が小さく呟く。

「――ヒール」

 淡い光。

 傷口が閉じる。

 数秒後。

 バクトの肩は綺麗に治っていた。

 バクトは肉を噛みながら振り向く。

「ん?」

 肩を触る。

「あ、治ってら!」

 ガンリュウが笑う。

「今さら気づいたか」

「すげぇな!」

 バクトが目を輝かせる。

「ギフトか?」

 側近は少し嫌そうに頷いた。

「……はい」

 ギフト。

 この世界で、人が必ず持つ才能。

 剣。

 炎。

 怪力。

 治癒。

 内容は人それぞれ。

 一つとして同じものはない。

 バクトにもギフトがある。

 異空間収納。

 物を別空間へ入れられる便利能力。

 それは仲間たちも知っていた。

 だが。

 もう一つ。

 誰にも言っていない力がある。

 鑑定眼。

 相手の名前と、ギフトの一文字だけ見える能力。

 だが情報が少なすぎて、普段はあまり使っていない。

 バクトは何気なくガンリュウを見る。

 すると。

『ガンリュウ 居・カ』

 頭に文字が浮かぶ。

「……居?カ?」

 意味が分からない。

 居る?

 家?

 住む?

 イカ?

 ギフト内容が読めない。

 バクトは眉をひそめた。

(変なギフトだな)

 その横でガンリュウが肉を食っている。

「うめぇなこれ」

「銀貨三十八枚の味だからな」

「なんだそりゃ」

 笑い合う。

 護衛二人はまだ胃が痛そうだった。

 会長へここまで普通に話すガキを初めて見たのだ。

 しかも。

 ガンリュウが怒らない。

 むしろ楽しそう。

 その時。

 後ろから悲鳴が聞こえた。

「ぎゃあああ!!」

 橋の影。

 もう一人の側近が、捕らえた刺客三人へ水をぶっかけていた。

「吐け」

 無表情。

 怖い。

「誰の指示だ」

「し、知らねぇ!」

 バシャァ!

 また水。

「次は指折る」

「ひぃ!」

 カリナが小声で言う。

「この人たち怖っ」

「無言竜だしな」

 バクトは平然としていた。

 ガンリュウは肉を食いながら笑う。

「お前ら」

「ん?」

「ここがアジトか?」

「あぁ」

 普通に答えるバクト。

 護衛二人がまた固まる。

(またタメ口……!)

(心臓止まる……!)

 だがガンリュウは気にしていない。

 むしろ楽しそうに橋の下を見る。

 ボロ布。

 木箱。

 焚き火。

 貧民の寝床。

「悪くねぇな」

「だろ?」

「風通しは最高よ」

「冬死ぬぞお前ら」

「その前に稼ぐ」

 バクトが笑う。

 その顔を見ながら。

 ガンリュウは静かに目を細めた。

(面白ぇ)

 このガキ。

 恐れていない。

 媚びない。

 だが馬鹿でもない。

 しかも。

 仲間のためには身体を張る。

 西地区では珍しい種類の人間だった。



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