第7話 無言竜会長
西六番街。
橋の下。
昼過ぎ。
バクトたちは、いつものようにだらけていた。
ワイザは肉を焼いている。
カリナは川へ石投げ。
ヒャッポは無言で矢を削る。
その時だった。
「……来た」
ヒャッポが小さく呟く。
橋の向こう。
一人の老人が歩いてくる。
白髪。
オールバック。
上等な着物。
腰には刀が二本。
だが。
ただの金持ち老人ではない。
近づくほど分かる。
妙な圧。
荒々しい。
獣みたいな気配。
それなのに歩き方は静かだった。
バクトが目を細める。
「誰だ? この爺さん」
「貴族っぽくないね」
「でも強そう」
ワイザが肉を置いた。
老人は橋の下へ来る。
そしてニヤリと笑った。
「お前らか」
「ん?」
「極楽連合を花畑にしたガキどもは」
カリナが吹き出した。
「噂になってる」
「そりゃなるわ」
バクトは笑った。
「で、爺さん誰だよ」
老人は答えない。
ただ楽しそうに四人を見る。
その時だった。
橋の向こう側。
三人の男が立っていた。
帽子を深く被り、いかにも裏稼業。
一人が小声で言う。
「……間違いねぇか?」
「あぁ」
「やれ」
バクトは気づいていなかった。
だがヒャッポだけは、ちらりと視線を向ける。
男たちはゆっくり距離を詰める。
自然を装って。
だが。
間合いがおかしい。
バクトの眉が動く。
「……?」
三人が老人の背後へ回る。
そして。
一斉に懐へ手を入れた。
その瞬間。
「危ねぇぇ!!」
バクトが叫んだ。
老人を突き飛ばそうと飛び出す。
だが。
老人は動いていた。
無言。
静かに。
刀を抜く。
キン。
一瞬、銀が走る。
次の瞬間。
背後の一人が、斜めに裂けた。
袈裟斬り。
血が噴き出す。
「なっ――」
残り二人が突っ込む。
小刀。
速い。
しかも近い。
老人も今の体勢では間に合わない。
バクトは反射的に動いた。
「うおお!!」
老人の着物を掴む。
思い切り後ろへ引っ張った。
体勢が崩れる。
その瞬間。
ドスッ。
「いってぇぇ!!」
バクトの肩へ小刀が刺さった。
血が飛ぶ。
「バクト!!」
カリナが叫ぶ。
ワイザが立ち上がる。
ヒャッポが弓を持つ。
だがその時。
橋の上から影が三つ落ちた。
ドンッ!!
「!?」
新手。
終わった。
そう思った瞬間だった。
三人は空中から、そのまま膝を落とした。
ゴッ!!
刺客二人の頭へ直撃。
「がっ!?」
「ぐぇ!」
頭が地面へ叩きつけられる。
一瞬で白目。
さらに三人は素早く縄を出し、二人を拘束した。
動きが異常に速い。
完全な手練れだった。
「お頭!」
一人が倒れた老人へ駆け寄る。
「大丈夫ですか!」
老人――ガンリュウは、ムッとした顔だった。
「お前らァ……」
ゆっくり立ち上がる。
「来るなっつったろうが」
「しかし!」
「しかしじゃねぇ」
ガンリュウは刀を鞘ごと抜く。
そして。
ゴン。
「いてっ!」
部下の頭を軽く叩いた。
「尾行バレバレだ馬鹿」
「申し訳ありません!」
バクトたちは固まっていた。
カリナが小声で言う。
「ねぇ」
「うん」
「この爺さん……」
ヒャッポが静かに呟く。
「強い」
ワイザも頷く。
「すごい」
ガンリュウは笑った。
そして血を流すバクトを見る。
「お前」
「……あ?」
「なんで庇った」
バクトは肩を押さえながら顔をしかめる。
「知らねぇよ」
「は?」
「目の前で爺さん死んだら後味悪ぃだろ」
一瞬。
沈黙。
そして。
ガンリュウは腹を抱えて笑い出した。
「がはははは!!」
橋の下に笑い声が響く。
「面白ぇガキだ!」
護衛たちも驚いていた。
無言竜会長が、こんなに笑うのは珍しい。
ガンリュウはニヤニヤしながらバクトを見る。
「気に入った」
「は?」
「お前、名前は」
「バクト」
「そうかバクト」
ガンリュウの目が細くなる。
「儂ぁ無言竜会長――ガンリュウだ」
空気が止まった。
カリナの口が開く。
「えっ」
ワイザも止まる。
ヒャッポだけが静かだった。
そしてバクト。
「……へぇ」
数秒後。
「すげぇ強そうな爺さんだとは思った」
護衛たちが青ざめた。
無言竜会長に。
タメ口。
だが。
ガンリュウはまた笑った。
「いいねぇ!」
西六番街。
橋の下。
そこで。
後に裏社会を揺るがす出会いが起きていた。




