第53話 落とし前
東一番街。
王都イデオでも、もっとも格式が高い地区だった。
白い石畳。
巨大な噴水。
魔法灯が昼でも淡く輝き、貴族の馬車が静かに行き交う。
そんな場所を、場違いな集団が堂々と歩いていた。
先頭はバクト。
その後ろにワイザ、カリナ、ヒャッポ。
さらに――。
全裸で数珠つなぎにされた五人の誘拐犯。
頭には花。
しかも、でかい。
さらにワイザが持っている巨大なのぼりには、墨でこう書かれていた。
『光界!最悪!誘拐犯人は光界!』
通行人が二度見する。
「え?」
「なにあれ……」
「光界?」
「誘拐?」
「また無名か!?」
ひそひそ声が広がっていく。
カリナは腹を抱えて笑っていた。
「だめ……! この絵面、強すぎる……!」
ポロンはワイザの肩に乗りながら、のぼりを見ていた。
「ひかるかい、さいあく!」
「覚えなくていい!」
即座にバクトが突っ込む。
そして、ついに巨大な白亜の建物が見えてきた。
光界総本部。
巨大な円形ドーム。
白い柱。
金色の紋章。
神殿というより、もはや城だった。
門番の白装束の男が、目を丸くする。
「な、なんだ貴様ら!」
バクトはにこっと笑った。
「落とし前つけに来たよ」
門番の視線が、数珠つなぎの全裸男たちへ向く。
「…………」
さらに、のぼりを見る。
『光界!最悪!誘拐犯人は光界!』
「…………」
顔が青くなった。
「す、少々お待ちください!!」
白装束は全力疾走で建物の奥へ消えた。
バクトは待っている間、誘拐犯の頭の花を整えていた。
「ちょっと右に曲がってるな」
「やめてください……」
「芸術だからな」
しばらくして。
「ど、どうぞ……」
門が開かれる。
無名一行はそのまま堂々と中へ入った。
大広間は広かった。
長椅子が並び。
正面奥には巨大な銅像。
人の姿をした何かが、丸い星を掲げている。
土台には文字。
『光るゲンジ』
「なんだあれ?」
「知らない」
「たぶん偉い神様じゃない?」
「名前ふざけてない?」
好き勝手言う無名。
案内され、二階の応接室へ。
しばらくして。
扉が開いた。
入ってきたのは、白銀の法衣をまとった男。
光界総帥、ガンダム。
後ろには幹部三人。
全員、目つきが鋭い。
しかし、入った瞬間。
数珠つなぎ全裸花男たちを見て、顔が引きつった。
「…………」
沈黙。
バクトは椅子にどかっと座った。
「さて」
ニヤリ。
「いくらで買い取る? こいつら」
「は?」
ガンダムが眉をひそめる。
「誰だそいつらは」
誘拐犯の一人が顔を上げた。
「総帥……そりゃねぇっすよ……」
部屋の空気が止まった。
バクトが耳に手を当てる。
「ん? 今なんて?」
「知らん!!」
ガンダムが怒鳴った。
「知らん知らん知らん!!」
「でも総帥の命令で……」
「知らん!!!」
幹部たちも冷や汗を流している。
バクトは頬杖をついた。
「へぇー」
ニヤニヤ。
「じゃあ切り刻んで魔魚の餌かなぁ」
「ま、待て」
「ん?」
「……どうしたい」
「今日は新聞屋ジェニスの前で証言してもらう予定だったんだけどなぁ」
ガンダムの顔色が変わる。
「ちなみに明日の新聞、全国版らしいぞ?」
「…………」
「さらに証言付き」
「…………」
「光界終わるかもな」
幹部の一人が青ざめた。
「総帥……!」
ガンダムが机を叩く。
「いくらだ!!」
「一人金貨百枚」
「高い!!」
「高くない」
「高い!!」
「誘拐した娘にも金貨百枚要求しただろ?」
「ぐっ……!」
「だから同額」
にやり。
「何人買う?」
ガンダムが歯ぎしりする。
「……おい」
「はっ」
幹部一人が奥へ走った。
しばらくして。
重そうな箱を持って戻ってくる。
机の上へ置いた。
ガチャリ。
中には金貨。
ぎっしり。
「金貨五百枚だ……!」
バクトの目が輝いた。
「うぉぉ」
カリナも輝く。
「すご!」
ワイザは一枚持ち上げた。
「重っ」
ヒャッポは無言で数えている。
バクトは満面の笑みで箱を閉じた。
「毎度あり!」
立ち上がる。
「またいつでも誘拐でもなんでもしていいぞ」
ガンダムのこめかみに血管が浮く。
「その度に買い取り発生するけどな」
「……っ!!」
バクトは笑いながら出口へ向かった。
その後ろを、数珠つなぎの元誘拐犯たちが、とぼとぼ歩いていく。
去り際。
バクトは振り返った。
「そういや」
「なんだ」
「光るゲンジって誰?」
幹部が吹き出した。
ガンダムは顔を真っ赤にしていた。




