第5話 荷車戦争
西六番街、市場通り。
昼。
魚の臭い。
怒鳴り声。
荷車の音。
そんな雑多な空気が、一瞬で静まり返った。
路地裏から現れた連中のせいだった。
極楽連合。
ざっと二十人。
棍棒。
ナイフ。
鎖。
完全に戦争装備だった。
市場の商人たちが青ざめる。
「お、おい……」
「昼間から始める気か……」
先頭の男がニヤつく。
「ガキども」
バクトたちを指差す。
「今日は逃がさねぇぞ」
周囲の空気が冷える。
だが。
バクトは平然としていた。
むしろ笑っている。
「なぁワイザ」
「ん?」
「あの荷車さ」
市場横の巨大な運搬車を見る。
酒樽が積まれた大型荷車。
「あれ逆に押し込んだら、あいつら笑える事にならね?」
ワイザが極楽連合を見る。
少し考える。
「……なる」
「だろ?」
カリナが吹き出した。
「絶対やる顔してる」
ヒャッポは静かに矢を持った。
ワイザは店主へ歩く。
「借りるぞ」
「え?」
次の瞬間。
ゴゴゴゴ。
「うおおお!?」
ワイザが荷車を持ち上げ気味に押した。
無理やり方向転換。
店主が悲鳴を上げる。
「おま、お前それ四人用だぞ!?」
「いける」
そして。
バクトが荷車の後ろへ立つ。
「行くぞ野郎ども!」
「おー!」
ドンッ!!
荷車が突撃した。
しかも。
押しているのがワイザ。
勢いがおかしい。
「お!? おい待っ――」
「うわぁぁ!?」
極楽連合がたじろぐ。
逃げ遅れる。
荷車が突っ込む。
ゴシャアア!!
人が吹っ飛んだ。
樽が跳ねる。
男が回転する。
路地に悲鳴が響いた。
「ぎゃああ!」
「足! 足ぃ!」
さらに。
転んだ男たちの上を荷車が乗り越えていく。
下から顔が出る。
そこへ。
バクトが踏みつける。
グシャッ。
「よぉ」
もう一発。
「ショバ代払うか?」
「ぎゃあああ!」
カリナも飛び乗る。
「顔踏むの楽しい!」
「やめっ、鼻ァァ!」
荷車の勢いで二人ほど荷台へ転がり込んできた。
バクトが笑う。
「乗客だ」
ボコッ。
ゴスッ。
顔面を殴る。
ワイザも拳を落とす。
ドゴン。
「ぐえっ」
白目。
ヒャッポは逃げようとした奴のズボンを矢で地面に縫い付けていた。
「待て」
「なんでズボンだけ正確なんだよ!?」
市場は地獄絵図だった。
そして。
五分後。
極楽連合、全滅。
二十人中十九人が転がっている。
一人は途中で逃げた。
バクトは息を吐く。
「弱ぇな」
「人数だけだった」
カリナが倒れた男を蹴る。
「こいつ財布持ってる」
「戦利品回収!」
結果。
銀貨三十八枚。
銅貨大量。
ナイフ数本。
酒も少し。
ワイザが肉屋を見る。
「肉」
「だな」
◇
夕方。
西六番街の裏路地。
そこには。
全裸で縛られた極楽連合十九人が転がされていた。
「寒ぃ……」
「助け……」
服も財布も武器も全部奪われている。
通行人たちが見ていた。
「またやられてる……」
「極楽連合最近弱くね?」
「いやガキどもがおかしい」
「十九人全裸は芸術点高ぇな……」
西六番街の噂はさらに広がっていく。
◇
その頃。
橋の下。
バクトたちは豪華な夕食だった。
肉。
串焼き。
パン。
しかも今日は腹いっぱい。
焚き火の上で肉が焼ける。
ジュウウウ。
ワイザの目が輝く。
「すごい」
「肉だぁ!」
カリナも大興奮。
ヒャッポは静かに焼いていた。
バクトは串を持ちながら笑う。
「極楽連合うめぇな」
「収穫源みたいになってる」
「また来るかな」
「来るだろ」
ワイザが肉を頬張る。
「やわらかい」
「銀貨三十八枚の味だ」
四人は笑った。
だが。
西地区の裏社会では。
もう笑い事では済まなくなっていた。
極楽連合。
連続敗北。
しかも相手はガキ四人。
このままでは、本当に組織の面子が崩れる。
そしてその噂は。
ついに無言竜本部へ届こうとしていた。




