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異世界子供ヤクザ:無名のバクト  作者: 忍絵 奉公


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第4話 花と面子


 西地区七番街。

 裏通り。

 地下酒場。

 そこが極楽連合の事務所だった。

 煙草の煙。

 酒臭さ。

 怒鳴り声。

 壁には無言竜の黒い竜紋章。

 そして今。

 事務所の空気は最悪だった。

「……で?」

 低い声。

 会長パクチ。

 細身。

 長髪。

 目だけが異様に冷たい男。

 笑っていないのに、笑っているように見える顔だった。

 その前で、ザードが正座していた。

 全身ボロボロ。

 しかもまだ髪に花びらが残っている。

 周囲の幹部たちがニヤニヤしていた。

「おいザード」

「はい……」

「お前、ガキ相手に裸にされたんだって?」

 周囲が吹き出した。

「しかも花ァ!」

「ギャハハハ!」

「尿道にまで刺されたってマジか!?」

「芸術作品じゃねぇか!」

 爆笑。

 ザードの顔が真っ赤になる。

「ち、違……あいつら普通のガキじゃ……」

「うるせぇ」

 パクチの声で空気が止まる。

「結果だけ見ろ」

 ザードが黙る。

 パクチは机を指で叩いた。

「極楽連合は何で飯食ってる?」

「……恐れられる事です」

「そうだ」

 静かな声。

「西地区で舐められたら終わりだ。ショバ代も払われねぇ。商人も逃げる。下も従わねぇ」

 パクチの目が細くなる。

「なのにお前は」

 机を蹴飛ばした。

 ガンッ!!

「会の顔に花を生けた!!」

 ザードが震える。

 周囲の幹部たちも笑いを止めた。

「申し訳ありません!」

「しかもガキ相手だぞ?」

 パクチが近づく。

「西六番街じゃもう噂だ。極楽連合はガキに負けたってな」

 ザードは額を床につけた。

「もう一度チャンスを――」

「ねぇよ」

 即答だった。

「お前、今日から下っ端な」

「……え?」

「格下げだ」

 ザードの顔から血の気が引く。

 周囲がニヤニヤする。

「便所掃除頑張れよ」

「花屋でもやるか?」

「ヒャハハハ!」

 ザードは拳を握った。

 だが反論できない。

 ヤクザの世界は結果が全てだった。

 パクチは煙草に火をつける。

「で?」

 幹部たちを見る。

「どう落とし前つける」

 一人が言う。

「橋ごと燃やしますか?」

「いや、手足切って見せしめだ」

「ガキなら売るのもアリじゃねぇですか」

 次々に案が出る。

 だが。

 結局。

 パクチは煙を吐きながら言った。

「殺せ」

 空気が静まる。

「殺して裸にしろ」

 ニヤリと笑う。

「んで全身に花ァ刺して、道端に転がしとけ」

 幹部たちが笑った。

「いいっすね会長!」

「やり返しか!」

「西地区流だ!」

 パクチは目を細める。

「舐められたまま終われるかよ」


 一方その頃。

 西六番街。

「おら運ぶぞー!」

 バクトたちは荷運びをしていた。

 市場の荷車。

 魚箱。

 酒樽。

 かなり重労働だ。

 だがワイザがいるので大抵どうにかなった。

「おい坊主! それ二人分あるぞ!?」

「ワイザ一人で足りる」

 実際足りていた。

 酒樽三つを抱えて歩く姿に、市場の男たちがドン引きしている。

 カリナは素早く荷物整理。

 ヒャッポは無言で周囲警戒。

 バクトは交渉役だった。

「次の仕事ねぇ?」

「お前ほんと図太いな……」

 だが。

 以前と違う事がある。

 周囲の反応だった。

「おい、あいつら……」

「極楽連合やったガキどもだ」

「マジで?」

「ザードを花まみれにしたって」

 噂が広がっている。

 しかも尾ひれ付きで。

「十人殺したらしいぞ」

「いや二十人だ」

「ヒャッポって奴、目が合っただけで人殺すらしい」

「化け物じゃねぇか……」

 橋の近くでは、スラムの小さい子供たちが目を輝かせていた。

「すげぇ……」

「極楽連合ぶっ飛ばしたんだろ?」

「かっけぇ!」

 バクトがニヤリと笑う。

「見たか」

「完全に悪名だよ」

 カリナが呆れる。

 だが西地区では。

 力ある悪名は、時に金より価値がある。

 その時だった。

 ヒャッポが静かに言う。

「来る」

 空気が変わる。

 路地の奥。

 こちらを見る男たち。

 極楽連合。

 しかも昨日より人数が多い。

 バクトはゆっくり笑った。

「仕事増えたな」

 西六番街。

 小さな悪ガキたちは、もう後戻りできない場所まで来ていた。



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