第36話 跡目会議
初七日。
終了。
無言竜本部。
空気は重かった。
宴会場として使われていた大広間。
今日は違う。
全員。
正座。
着物。
殺気。
壁際には手練れ。
幹部たちの後ろにも部下。
少しでも揉めれば。
即流血。
そんな空気だった。
もちろん。
無名はいない。
呼ばれていない。
そもそも裏社会の正式構成員ですらない。
前へ進み出る男。
弁護人。
眼鏡。
細い。
静かに書類を開く。
「……では」
「故ガンリュウ会長の遺言書を読み上げます」
シン。
静寂。
「無言竜二代目跡目は――」
皆。
視線を上げる。
「若頭ガボルドとする」
ザワッ。
空気が揺れる。
ガボルドは黙ったまま。
拳を握る。
だが。
次の瞬間。
「待てや」
低い声。
立ち上がった。
イーダン。
若頭補佐。
三・四番街縄張り。
鋭い目。
細身。
蛇みたいな男。
「お前がまとまれるのか?」
空気が張る。
さらに。
別方向。
ドン。
机を叩く音。
レクトン。
七・八番街縄張り。
巨漢。
坊主頭。
「俺もそう思う」
堂々と言った。
「ガボルド」
「お前は強ぇ」
「あぁ認める」
「だがよ」
指を向ける。
「頭じゃねぇ」
ザワつく周囲。
ガボルドの後ろの若衆が立ち上がりかける。
「座れ」
ガボルドが止めた。
だが。
顔は怒っていた。
「……お前ら」
低い声。
「親父に弓引くつもりか?」
怒号。
空気が震える。
イーダンは鼻で笑う。
「そんなつもりはねぇ」
「だがな」
「お前じゃ無理だ」
「組が潰れる」
レクトンも頷く。
「今の無言竜は弱ってる」
「チェリーパイも動いてる」
「宗教連中も様子見だ」
「そんな時代に」
ガボルドを見る。
「脳筋じゃ無理だ」
場の空気が一気に危険になる。
ガボルド側近。
殺気。
イーダン側も武器へ手。
レクトン配下も立ち上がる。
一触即発。
「……」
ガボルドが立ち上がる。
巨大。
威圧感。
睨む。
「じゃあ」
一歩。
「お前なら出来るのか?」
イーダンを見る。
イーダン。
周囲を見回す。
自分の派閥。
頷く部下たち。
そして。
レクトン。
無言で。
頷いた。
その瞬間。
場の空気が変わる。
完全に。
割れた。
壁際。
古参幹部が小さく呟く。
「……始まったな」
無言竜。
後継争い。
ガンリュウ亡き後。
巨大組織は。
とうとう内側から。
軋み始めていた。




