第29話 ポロン誘拐
東地区。
チェリーパイ本部。
赤い照明。
煙草。
酒。
そして。
「……なるほど」
キャンドルが笑う。
「ガキ共の弱点見つけたか」
部下が頷く。
「はい」
「四歳くらいの子供がいます」
「名前はポロン」
「かなり可愛がってる様子でした」
別の男がニヤつく。
「そこ突けば終わりっすね」
「人質だ」
「脅せば従う」
キャンドルはワインを飲み干す。
「派手にやるなよ」
「まず試せ」
「はい」
◇
数日後。
西五番街。
昼。
バクトとカリナ。
そしてポロン。
「アニキー!」
ポロンが走り回る。
「走るな!」
「転ぶぞ!」
カリナが笑う。
平和。
ワイザとヒャッポは別行動。
荷運びの仕事中だった。
その時。
「すみません」
観光客風の男が近づく。
帽子。
荷物。
普通。
「この荷物、少し持ってもらえませんか?」
「ん?」
バクトが見る。
さらに。
別の男がカリナへ。
「道を聞きたいんだが」
地図を広げる。
「ここどこ?」
「えっと……」
自然だった。
何も不自然じゃない。
バクトが荷物へ手を触れる。
シュン。
異空間収納。
「おお!」
男が驚いたフリをする。
その瞬間。
カリナが地図へ視線を落とした。
男の指。
「ここなんだけど――」
そして。
サッ。
「……え?」
軽い音。
カリナが振り向く。
ポロンがいない。
「あ!」
十メートル先。
男がポロンを抱えて走っていた。
「アニキーー!!」
ポロンが笑う。
一瞬。
カリナの顔色が変わる。
「待てぇぇ!!」
爆発的加速。
地面を蹴る。
速い。
速すぎる。
男も焦る。
「ちっ!」
「なんだあの速さ!」
カリナはどんどん距離を詰める。
あと少し。
手が届く。
ガシッ!!
襟首を掴んだ。
「返せ!!」
男が振り返る。
その目。
冷たい。
スッ。
ナイフ。
ポロンの首元。
「……っ」
カリナが止まる。
呼吸が止まる。
男が低く言う。
「放せ」
「……」
「下がれ」
ポロンは笑っていた。
遊んでると思っている。
「カリナー……」
カリナの手が震える。
怒り。
悔しさ。
だが。
ナイフが近すぎる。
「……っ」
ゆっくり手を離す。
「そうだ」
男が後退する。
「下がれ」
カリナは睨みつける。
殺しそうな目だった。
その時。
「おい」
バクト。
追いついた。
息も乱れていない。
状況を見る。
ポロン。
ナイフ。
誘拐犯。
一瞬で理解した。
男はニヤつく。
「動くなよ」
「このガキ死ぬぞ」
周囲の空気が変わる。
カリナが震えていた。
「バクト……」
だが。
バクトは静かだった。
妙に静か。
「……へぇ」
笑った。
目だけ笑ってない。
「俺ら相手に」
一歩前へ出る。
「人質なんて取るんだ」
男が少し怯む。
理由はわからない。
だが。
寒気がした。
バクトの目。
今まで見たことない目だった。




