第28話 揺れる無言竜
ガンリュウの屋敷。
廊下。
静かだった。
昔は。
怒鳴り声。
笑い声。
酒盛り。
絶えなかった。
だが今は違う。
皆。
小声。
様子を伺う。
空気が重い。
バクトたちが帰った後。
ガボルドは一人で縁側に座っていた。
煙草。
火はついていない。
考え事だった。
「若頭」
幹部が近づく。
「……なんだ」
「また揉めてます」
「誰が」
「東組です」
舌打ち。
「またか」
最近増えていた。
内部抗争。
小競り合い。
原因は一つ。
後継者問題。
ガンリュウが死んだ後。
誰が無言竜を継ぐのか。
それで空気が割れている。
「若頭が継ぐべきです!」
「いや、古参だ!」
「東をまとめてるのは俺たちだ!」
派閥。
睨み合い。
若い組員までピリついていた。
ガボルドは頭を押さえる。
「……面倒くせぇ」
ガンリュウが元気だった頃。
こんな揉め事は起きなかった。
あの爺さんが座ってるだけで。
皆黙った。
だが今は違う。
弱った瞬間。
巨大組織は揺れ始めている。
さらに悪い噂。
「……チェリーパイも動いてます」
ガボルドの目が細くなる。
「東のか」
「はい」
チェリーパイ。
東地区最大勢力。
無言竜とは長年睨み合ってきた。
派手。
狂暴。
鉄砲玉も多い。
最近。
妙に動きが活発だった。
「境界で人数増えてます」
「武器も流れてるとか」
「……」
ガボルドは空を見る。
「嗅ぎつけやがったか」
獣みたいな連中だ。
弱った匂いを嗅ぐと寄ってくる。
「会長が倒れた」
「無言竜が割れ始めた」
そんな噂は。
当然。
東にも流れていた。
東地区。
九番街。
チェリーパイ本部。
赤い提灯。
騒がしい音楽。
女。
酒。
笑い声。
その中心。
「へぇー」
派手な男が笑う。
長い赤髪。
指輪だらけ。
チェリーパイ幹部。
キャンドル。
「ガンリュウ死にそうなんだ」
「らしいっすね」
部下が笑う。
「無言竜割れてるとか」
「今チャンスじゃないですか?」
キャンドルはワインを回す。
「かもなぁ」
ニヤリ。
「西を食うか?」
周囲が笑う。
「いいっすねぇ!」
「五番街とか空いてますし!」
「六番街もいける!」
だが。
一人だけ。
古参幹部が黙っていた。
「……やめとけ」
「ん?」
「無言竜はまだ終わってねぇ」
「でもガンリュウ病気っしょ?」
古参は煙草を吐く。
「問題はそこじゃねぇ」
「?」
「あのガキどもだ」
空気が少し変わる。
「……無名?」
「花の?」
若い連中が笑う。
「あんなガキ」
古参は睨んだ。
「笑うな」
真顔。
「極楽潰したの誰だと思ってる」
「……」
「フランペチーノ燃やしたの誰だ」
「……」
「しかもガンリュウのお気に入り」
静かになる。
古参は低く呟く。
「西に踏み込むなら」
「あいつらを巻き込む覚悟しろ」
笑い声が消えた。
一方。
無名の倉庫。
「“ぬ”……」
バクトが悩んでいた。
「これ絶対“め”だろ」
「違うって!」
カリナが笑う。
ワイザは肉を焼いている。
ポロンはどこから出したのか人形と遊んでいた。
ヒャッポは矢を削る。
平和。
だが。
外の世界では。
大きな流れが動き始めていた。
無言竜。
チェリーパイ。
王都裏社会。
ガンリュウという巨大な柱が倒れかけた瞬間。
街全体が。
静かに揺れ始めていた。




