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異世界子供ヤクザ:無名のバクト  作者: 忍絵 奉公


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第27話 病という魔物


 穏やかな時間が流れた。

 三年。

 無名の倉庫も変わった。

 壁は補強され。

 寝床も増え。

 文字を書ける者も増えた。

 そして。

 ポロン。

 四歳。

 元気。

 走る。

 うるさい。

「アニキー!」

 バクトへ飛びつく。

「おおっと」

 抱き上げる。

 ポロンは大笑いしていた。

 ワイザはさらに身体が大きくなった。

 カリナは美人になり始めている。

 ヒャッポは相変わらず怖い。

 怖さだけ成長していた。


 街も変わった。

 極楽連合。

 かつて西地区5・6番街を支配した組織。

 今や。

 組員五人。

 規模縮小。

 五番街は手放し。

 六番街で細々と生きていた。

 花事件の後遺症は大きかった。

 誰も入りたがらない。

「また花刺される……」

 そんな噂まであった。


 ある日。

 ジェニスが言った。

「……ガンリュウ会長」

 バクトが顔を上げる。

「ん?」

「かなり悪いらしい」

 空気が止まる。

 カリナが眉をひそめる。

「病気?」

「なんか寝込んでるって」

 ワイザも黙った。

 バクトは少し考える。

「……行くぞ」

「見舞い?」

「あぁ」

 ポロンも元気よく手を上げた。

「いくー!」


 二番街。

 高級住宅街。

 ガンリュウ邸。

 相変わらず広い。

 だが。

 以前より静かだった。

 門の前。

 着物姿の門番が立つ。

「止まれ」

 鋭い目。

「今は誰も通せん」

「えー」

 ポロンが不満そう。

 バクトが口を開こうとした時。

「……通せ!」

 奥から声。

 皆振り向く。

 そこにいたのは。

 ガボルド。

 若頭。

 ガンリュウの側近幹部だった男。

 少し老けた。

 だが迫力は増している。

 ガボルドはバクトたちを見て笑った。

「大きくなったなぁ、バクト」

「おっさんも老けたな」

「言うようになった」

 苦笑。

 門番たちが驚いていた。

 若頭へこんな口を利く者はいない。

 だが。

 ガボルドは怒らなかった。

「来い」

 静かに案内する。


 屋敷の奥。

 静かな部屋。

 薬の匂い。

 そこで。

 バクトは止まった。

「……」

 ベッド。

 ガンリュウ。

 痩せていた。

 あの巨大な存在感が小さく見える。

 頬はこけ。

 腕も細い。

 それでも。

「おぉ」

 笑った。

「バクトか」

 かすれた声。

「久しぶりだな」

 精一杯の笑顔だった。

 バクトは少し黙る。

「……悪いのか?」

「あぁ」

 ガンリュウは笑う。

「情けねぇ姿だろ」

「別に」

 バクトは近づいた。

 ガンリュウが手を伸ばす。

 弱々しい。

「腹触ってみろ」

「ん?」

 手を掴まれる。

 腹へ。

 触る。

「……なんだこれ」

 硬い。

 腹の中。

 大きなコブみたいだった。

 バクトは眉をひそめる。

「これなんだかわかるか?」

「……知らん」

 ガンリュウは小さく笑った。

「癌ってやつだ」

「がん?」

「これがな」

 自分の腹を軽く叩く。

「身体ん中を食い荒らしていく」

「……」

「そのうち全身に回る」

「……」

「俺はこいつに食われて死ぬんだとよ」

 静かだった。

 ポロンも空気を感じて黙っている。

 バクトはコブを見つめる。

「……魔物か?」

 一瞬。

 部屋が静かになる。

 そして。

「……魔物」

 ガンリュウが笑った。

「くくっ……」

 肩を震わせる。

「違ぇねぇ」

 笑う。

「病ってのは」

「一番タチ悪ぃ魔物かもしれんなぁ……」

 その笑顔は。

 少し寂しそうだった。



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