第25話 地獄の庭
早朝。
西二番街。
高級住宅街。
静かな朝のはずだった。
ガラガラガラ……
豪華な馬車が屋敷へ戻ってくる。
中には。
フランペチーノ子爵。
四十代。
肥えた身体。
高価な服。
酒臭い。
「ふぁぁ……」
昨夜も貴族の宴会だった。
御者が門を通る。
その瞬間。
ガタンッ!!
「うおっ!?」
馬車が大きく傾いた。
「な、なんだ!?」
車輪。
落とし穴へ落下。
バキバキッ!!
馬が暴れる。
その勢いで。
「ぎゃあ!?」
フランペチーノ子爵が馬車から転がり落ちた。
ゴロゴロ。
「いっっ……!」
地面へ叩きつけられる。
「穴!?」
子爵が叫ぶ。
「なんだこれは!?」
御者も混乱していた。
「も、申し訳ありません!」
「いいから出しておけ!」
子爵はイライラしながら歩き出す。
その瞬間。
ズボッ。
「ぎゃっ!?」
片足が落ちた。
「は?」
落とし穴。
しかも。
グサッ。
「いっっっ!!」
画鋲。
三本。
くるぶしへ刺さる。
「痛ぁぁ!!」
涙目。
「なんだこれは!?」
さらに。
麻痺毒。
足が痺れてくる。
「な、なんだ……?」
子爵の顔が青くなる。
だが。
まだ終わらない。
足を引きずりながら。
なんとか屋敷入口へ。
「くそっ……!」
階段を上がる。
その瞬間。
ツルッ。
「ぬおっ!?」
油。
完全に滑った。
派手に転倒。
バンッ!!
そして。
運悪く。
手を突いた先。
火打石。
ガチッ。
火花。
一瞬。
沈黙。
ボゥッ!!
「ぎゃああああ!!」
引火。
服へ燃え移る。
「熱い!! 熱いぃぃ!!」
さらに。
周囲へ撒かれていた油へ火が走る。
ボワァァ!!
炎が屋敷周囲を駆け抜けた。
「火事だァ!!」
「水!!」
「誰かァ!!」
大混乱。
子爵は地面を転がる。
「あちぃぃ!!」
ゴロゴロ。
その時。
ズボッ。
「え?」
右手だけ落とし穴へ。
グサグサグサッ!!
「ぎゃああああ!!」
画鋲。
八本。
手のひらへ。
「なんだこれぇぇ!!」
もう意味がわからない。
恐怖。
混乱。
痛み。
熱。
麻痺。
「な、なんなんだ……」
そして。
そのまま。
気絶。
ドサッ。
数時間後。
子爵が目を覚ます。
「……う」
煙臭い。
熱い。
目を開く。
「……」
屋敷。
全焼。
「……は?」
黒焦げだった。
周囲には。
「うぅ……」
「痛い……」
メイド。
執事。
使用人。
逃げる途中で落とし穴へ落ちたらしい。
そこら中で転がっている。
しかも。
画鋲付き。
地獄。
子爵は震えた。
「なんだ……これは……」
意味不明だった。
事故?
事件?
呪い?
すると。
遠くから。
「道を開けろ!」
衛兵隊。
到着。
隊長が周囲を見て固まる。
「……なんだこの惨状」
落とし穴。
油。
火災。
大量の画鋲。
どう見ても異常。
「事件だ」
衛兵隊長の顔が険しくなる。
「徹底的に調べろ」
王都。
高級住宅街。
貴族邸全焼。
これは。
さすがに大事件だった。
その頃。
無名の倉庫。
「……」
「……」
「……」
四人は静かだった。
ジェニスが新聞を持って飛び込んでくる。
「大事件になってる!!」
バクトたちは新聞を見る。
そこには。
【謎の大火災! フランペチーノ子爵邸全焼!】
カリナが吹き出した。
「やばいって!」
ワイザも笑っている。
「全部踏んだの?」
ヒャッポは静かに犬用の肉を切っていた。
バクトは新聞を畳む。
「……本気のいたずらって言ったろ?」
西地区。
また一つ。
無名の伝説が増えた。




