第23話 花と文字
季節が巡る。
西五番街。
無名の倉庫。
「……あ」
ポロンが立った。
「おおおお!!」
バクトたちが騒ぐ。
ポロン。
一歳。
ふらふらしながら歩いている。
「すげぇ!」
「歩いた!」
カリナが大興奮。
ワイザは拍手。
ヒャッポは少しだけ目を丸くしていた。
ポロンは嬉しそうだった。
「ばー!」
「俺!? 今俺見た!?」
バクトが騒ぐ。
ポロンは笑いながら転ぶ。
カリナが抱き上げた。
「かわいー!」
すっかり。
無名の家族になっていた。
そして。
街も少し変わっていた。
「見て見て!」
子供たちが笑う。
頭。
花。
一本刺している。
「無名ごっこ!」
「俺ヒャッポやる!」
「じゃあ俺ワイザ!」
なぜか流行していた。
頭に花を挿して歩く遊び。
しかも。
大人までやっている。
「最近流行ってるらしいぞ」
「生け花スタイル」
「意味わかんねぇ」
西五番街。
六番街。
妙なブーム。
その結果。
花屋。
「ありがとうございます!!」
大繁盛。
花が売れまくる。
店主は泣いて喜んでいた。
「無名様のおかげです!!」
数日後。
倉庫へ箱が届いた。
「なんだこれ」
開ける。
「うお」
高級菓子。
大量。
花屋からだった。
「お礼です!」
手紙付き。
カリナが叫ぶ。
「お菓子ぃぃ!!」
ワイザも食いつく。
「うまそう」
ヒャッポは静かにクッキーを見ていた。
ポロンは箱を叩いている。
さらに。
「こんにちは」
モーガンが来た。
本屋の店主。
あれ以来、顔色が良くなっている。
「おう」
バクトが出迎える。
「助けていただいたお礼です」
そう言って。
本を取り出した。
「……本?」
「はい」
一冊目。
魔物図鑑。
二冊目。
三冊目。
四冊。
「ひらがな入門」
無名の四人は固まった。
「……文字?」
「はい」
モーガンが少し困った顔をする。
「皆さん……読めませんよね?」
「……」
「……」
「……」
「……」
全員目を逸らした。
読めなかった。
バクトは咳払いする。
「別に困ってねぇし」
「困ります」
即答。
モーガンも真面目だった。
「契約書」
「地図」
「薬」
「危険表示」
「読めた方がいいです」
確かにそうだった。
バクトは少し考える。
そして。
「……やるか」
「やる!」
カリナが即答。
「本読めたらかっこいい」
ワイザも頷く。
「肉って書ける?」
「最初に覚えるのそれ?」
ヒャッポは静かに本を開いた。
その夜。
倉庫。
「これは、“あ”です」
モーガン先生。
開始。
「“あ”……」
バクトが真顔。
「変な形」
「“い”」
「棒じゃん」
「“う”」
「魚みたい」
カリナは意外と覚えるのが早かった。
ワイザは遅い。
ヒャッポは無言で覚えていく。
そして。
「これ名前書けるようになるの?」
「なりますよ」
「おお」
バクトが少し嬉しそうだった。
魔物図鑑も開く。
「うお」
「これ魔狼」
「こっち毒キノコ」
「こんなのいるのか」
知らない事ばかりだった。
橋の下。
スラム。
喧嘩。
それだけじゃない。
世界は広い。
バクトは少しワクワクしていた。
その時。
ポロンが紙へ手を伸ばす。
「ばー!」
ぐしゃ。
「あああ!!」
カリナが叫ぶ。
「ポロンだめぇぇ!!」
ポロンは笑っていた。
倉庫に笑い声が響く。
無名。
少しずつ。
ただのスラムのガキ集団から。
変わり始めていた。




