第19話 賭場のサイコロ
西五番街。
夜。
賭場は熱気に包まれていた。
「張ったァ!!」
「六だ六!!」
「こっち来い!!」
酒。
煙。
怒号。
木札が飛び交う。
そこは極楽連合の賭場だった。
裏路地の地下。
かなり繁盛している。
中央では壺振りが行われていた。
ルールは単純。
茶碗の中へサイコロを二つ入れる。
転がす。
大きい方の数字が出目。
2と5なら、5。
ぞろ目は二倍。
ただし2のぞろ目は4扱い。
そして。
1のぞろ目だけ特殊。
相手が6の倍数だった場合に勝てる。
単純だが、妙に熱くなる遊びだった。
「……またか」
男が呻いた。
六番街の書店店主。
名前はモーガン。
四十代。
痩せ気味。
眼鏡。
真面目そうな男。
だが今。
目の下にクマを作っていた。
「五のぞろ目!!」
「うおおお!!」
極楽側が勝つ。
モーガンは歯を食いしばった。
負け続けていた。
だが。
おかしい。
「……妙だ」
彼は本屋の店主だった。
数字。
記録。
観察。
そういう事は得意だった。
だから。
毎回、出目を記録していた。
紙へメモ。
誰が勝ったか。
どの目が出たか。
ずっと。
そして気づいた。
「大賭けした時だけ……」
極楽側の出目が異様に良い。
五。
六。
ぞろ目。
不自然なほど続く。
「偶然か……?」
モーガンはその日、さらに観察した。
極楽のディーラー。
サイコロ回収時。
一瞬。
手元が不自然に動いた。
「……!」
次の瞬間。
「五のぞろ目ォ!!」
歓声。
だがモーガンは見ていた。
違う。
サイコロが違う。
(差し替えた……!)
極楽側は“いざという時”。
サイコロを変えていた。
4、5、6しかない細工サイコロ。
最低でも出目は5。
しかもぞろ目率も高い。
つまり。
大勝負で確実に刈り取る。
「……いかさまだ」
顔が青くなる。
だが。
気づいた時には遅かった。
「お客さん」
肩を掴まれる。
極楽の男。
笑っていない。
「負け分、どうします?」
「……」
「払えますよね?」
数十分後。
奥の部屋。
モーガンは正座させられていた。
周囲には極楽連合。
ニヤニヤしている。
「いやぁ困るなぁ」
「借金増えてますよ?」
「返済の意思は?」
モーガンは震えていた。
「……待ってくれ」
「待てないなぁ」
一枚の紙が置かれる。
「店の権利証ありますよね?」
「……!」
「本屋、いい場所なんですよ」
完全に狙っていた。
最初から。
賭けで借金漬けにして、店を奪う。
「さぁ」
「サインを」
モーガンの手が震える。
その時。
ふと噂を思い出した。
西五番街。
無名。
極楽をボコってるガキども。
「……」
極楽たちは気づかない。
モーガンは恐怖の中。
ほんの少しだけ希望を持った。
翌日。
西五番街。
無名の倉庫。
カンカン。
ワイザが木材を打っていた。
ヒャッポは矢。
カリナはポロンを抱っこしている。
そこへ。
「……すみません」
弱々しい声。
バクトが出る。
「ん?」
モーガンだった。
顔色が悪い。
震えている。
「相談……したい事が」
バクトは少し見る。
「極楽か?」
モーガンが驚いた。
「な、なぜ」
「顔がそんな感じ」
モーガンは座る。
そして。
賭場。
サイコロ。
いかさま。
店を奪われそうな事。
全部話した。
無名の四人は黙って聞いていた。
話が終わる。
沈黙。
そして。
カリナがニヤリと笑った。
「それ、めちゃくちゃ面白そう」
ワイザも頷く。
「サイコロ壊したい」
ヒャッポは静かに言う。
「……指、折る?」
「怖ぇよ!」
バクトは少し考える。
そして。
ニヤッと笑った。
「いいぜ」
モーガンが顔を上げる。
「え……?」
「その賭場、遊びに行こうぜ」
極楽連合。
また。
面倒な相手へ喧嘩を売られる事になるとは。
まだ知らなかった。




