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異世界子供ヤクザ:無名のバクト  作者: 忍絵 奉公


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第16話 剣舞


 無言竜本部。

 宴会はまだ続いていた。

 酒。

 笑い声。

 怒鳴り声。

 完全に無法地帯。

 その中で。

 スミスは静かに酒を飲んでいた。

 無言竜幹部。

 若手の切れ者。

 細い目。

 整った髪。

 神経質そうな男。

 そして今。

 少し面白くなかった。

(……会長、気に入りすぎだ)

 周囲の組員たちまで、バクトたちを受け入れている。

 あの西地区の問題児どもを。

 しかも。

 無名。

 妙に勢いがある。

(見極める必要があるな)

 スミスは立ち上がった。

 パンッ。

 手を叩く。

「皆さん」

 少し空気が変わる。

「せっかくの宴です」

 ニコリ。

「剣舞を披露しましょう」

「おお!」

「スミスの剣舞だ!」

 組員たちが盛り上がる。

 スミスは剣の達人として有名だった。

 しかも見せる戦い方が上手い。

 スミスはそのままテーブルへ飛び乗った。

 酒瓶。

 皿。

 料理。

 その間を滑るように歩く。

 シュン。

 刀が抜かれた。

 銀が走る。

「ほぉ」

 ガンリュウも酒を飲みながら見ている。

 スミスは舞うように動いた。

 皿を避ける。

 酒を飛び越える。

 剣先が光る。

 歓声。

「すげぇ!」

「相変わらず綺麗だ!」

 だが。

 スミスの視線は別だった。

 バクト。

 狙っていた。

(反応を見る)

 スッ。

 剣先が近づく。

 自然に。

 踊るように。

 だが完全に急所。

 普通のガキなら終わっている。

 しかし。

 バクトは肉を食いながら身体をズラした。

 ヒュッ。

 剣先が空を切る。

「ん?」

 スミスの目が細くなる。

 もう一度。

 酒瓶の影から斬撃。

 バクトはタイを食いながら避けた。

 スッ。

「……」

 三度目。

 今度は少し速い。

 カリナが気づく。

「ちょっと」

 だが。

 バクトは椀を持ち上げる動きだけで避けた。

 ヒュン。

「避けてる?」

 組員たちがざわつく。

 スミスは笑顔のまま近づく。

 さらに剣。

 さらに避ける。

 バクトは普通に食っている。

「……」

 スミスの額に少し汗。

 ガンリュウはニヤニヤしていた。

「ほぉ」

 そして。

 五回目。

 少し本気で踏み込んだ。

 バクトの首筋狙い。

 その瞬間。

「うるせぇな」

 バクトがボソッと言った。

 そして。

 食べ終わった空皿をポンと置く。

 スミスの足元。

「――!?」

 ツルッ。

 滑った。

「えっ」

 ドゴォ!!

 思い切り転倒。

 さらに。

 机の角へ頭を強打。

 ゴンッ!!

 静寂。

 スミスが白目を剥いた。

 完全昏倒。

「……」

 一秒後。

「ぶはははははは!!!」

 ガンリュウが爆笑した。

 腹を抱えて笑っている。

「スミスお前ぇぇ!!」

 組員たちも耐えきれなかった。

「ぎゃははは!!」

「皿で負けた!!」

「剣舞で転ぶ奴初めて見た!!」

「しかも机の角!!」

 大爆笑。

 カリナは床を叩いて笑っていた。

「だっさぁ!!」

 ワイザも珍しく笑っている。

「つるんっていった」

 ヒャッポは静かに酒を飲んでいた。

 だが少し肩が震えている。

 バクトは普通に魚を食う。

「静かになった」

 周囲の組員たちが見る目を変えていた。

「……あいつ」

「スミスの剣避けてたよな?」

「偶然じゃねぇぞ」

「やっぱやべぇ」

 無名。

 橋の下のガキ。

 だが今。

 無言竜本部で、完全に名前を上げていた。

 ガンリュウは涙を拭きながら笑う。

「気に入った!!」

「それ何回目だよ」

 また笑いが起きる。

 宴会はさらに騒がしくなっていった。



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