4、ネズミ喰らうは黒猫か白猫かそれともイタチか
えーっと...大変お待たせしました...言い訳を聞いてください。一週間とっても忙しくてですね...倒れるかと思いました。そして残念なお知らせです。これよりテスト期間に入るので更新は来月です。もしコメント等くれたら頑張って更新します。
規則正しい革靴の音と不規則なブーツの音が出鱈目なメロディを奏でていた。
もっとも、ここにそんなことを気にする人間もいないが。
「あれはちょっとわざとらしかったねぇ。舌でも噛んだのかと思ったよ」
「早急にお伝えしたいと愚考しまして...。」
シュガーは申し訳なさそうに目線を下げた。
視線の先には暗闇。二つの影は地下へと続く階段を下っているのだった。
一拍の静寂。足音が硬質気味に跳ねた。
「Fetter。それを伝えたいがためにアクセントをずらすのもどうかと思うけど。ちょっと呼んでくれればそれで済んだのに。」
「申し訳ありません。ご歓談されていたのでご迷惑かなと思い。」
あらかじめ決められた合言葉ではない。もちろんそれを目的としてシュガーはフィナンシェを焼いていたわけでもない、即興の会話。そして、単語を連想させるために強調された頭文字F。
足音が止まる。目的地は薄暗い。
「さぁついた」
それは小さい部屋らしかった。湿った石壁と吊り下がった裸電球。その弱々しい光が降り注ぐ、粗末な椅子に一人の男が縛り付けられていた。
「こんばんは、小ネズミさん。いい夜だね」
男の耳がぴくりと動いた。
「お前は...」
男の瞳が僕を捉えた瞬間、ひどく怯えたように口元がこわばった。
「やぁ、僕の顔を覚えててくれたみたいで嬉しいよ」
僕はにこやかに話しかけた。極めて穏やかに、けれども蝕むような話し方。その意識的な切り替えを僕は知っていた。
男は背もたれにもたれかかって唇の端を歪めた。喉仏がかすかに上下するのが見える。
「...俺を捕らえて笑ってられるのも今のうちだ。何せ取引の証拠は既に押さえてあるんだからな。俺の身に何かあれば、明日の朝にはすべて表に出る仕掛けさ!」
僕は困ったように笑った。多分、教師が出来の悪い生徒へ向けるような、呆れて投げやりな笑顔であったことだろう。
「聞いた?シュガー。僕たちおしまいだってさ?」
シュガーは黙って目を伏せた。
「取引の証拠、ね。」
僕が一歩踏み出すと、男の肩がビクリと跳ねた。
「あのねぇ、小ネズミさん。つまり君が言いたいのってさ、違法武器の密輸の件でしょ?」
さらに一歩近づく。吐息のかかるほど距離で目線を合わせた。緋褪色の瞳が微かな怯えを含んで揺れている。
「嘘だよ」
僕は、囁くような声色で言った。男は冷ややかに笑った。
「はぁ?何言って...」
その言葉がぷつり途切れたのは、僕が男の喉元にジャックナイフを突きつけたからだ。殺意はない。ただ輪郭をなぞるようにそっと。
「武器を積んだコンテナも取引先の相手も、全部嘘。最初からそんなもの存在しなかったんだ」
「なっ何故...そんなことを...」
男の声は震え、狼狽の色が見て取れた。それを見やって目を細める。
「何故って?そりゃ君みたいなネズミを誘い込むためだよ。それでわざわざ罠を張ったんだ。甘い匂いのするいかにも食いつきたくなるような餌をね。」
僕はそのままナイフの側面を男の顎に押し当てた。目線を逸らさせない。微かに冷気が頬を撫でる。それ以外に、この小さな空間を動くものはなかった。
「さぁ聞こうか」
僕は、一拍の間をおいて言った。
「君が僕たちをこそこそ嗅ぎ回ってた理由。君のバックが誰であろうとも君を回収する気はないと思うよ?早く吐いた方が身のためだと思うけど。」
天井に吊り下がった電球が危うげにに唸っている。
返答は沈黙だった。
「まぁ、急かすつもりもないけどね。じっくり聞いていこうか」
僕は一歩退いて肩をすくめた。残念そうではない、むしろ喜びに震えるような動作。
夜明けにはまだ遠く、足元を漂う冷気はより冷涼になりつつあった。




