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悪役令嬢は優雅に微笑む  作者: 篠原皐月
第4章 分水嶺

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(19)当てこすり

「別に、特段含んでいるものはありませんのよ? 言葉通りの意味です。養育係が相当困った性格か考えの持ち主だったか、相当通常とは異なる信念の持ち主だったために、殿下がそのようにお育ちになったのだと推察いたしました」

「…………」

 面と向かって言い放ったマグダレーナを、エルネストは両目を細めながら見据える。静かな睨み合いが続く中、マグダレーナはおかしそうに小さく笑う。


「そうですわね。どちらでもございませんわね。殿下の持って生まれた性格が、相当捻くれていただけでしょう。養育係はご苦労なさいましたね」

「分かっているなら、無駄口を叩かないで欲しいな。さっさと仕事をしろとか、先程言っていなかったか?」

「明らかに他より秀でるところを示すのを回避しながらも、養育係に非難の矛先が向かないよう最低限の能力を披露しておく、その匙加減が絶妙でしたわね」

 非難めいた台詞を無視しながら、彼女は話を続けた。そこでエルネストが、皮肉げな笑みを浮かべる。


「……それは、褒めてくれているのかな?」

「はい、そのつもりです」

「そうか。言っておくが私を褒めても、何の得にもならないと思うが」

「別に、殿下を褒めたわけではありません。養育係のご苦労を思っただけです」

「確かに、色々と面倒だったし苦労をかけたな」

 静かにそう口にしたエルネストは、無言で水を汲みに厩舎の外に出て行った。それを引き留めるような真似はせず、マグダレーナも再び飼い葉の移し替えに専念する。それからは二人とも黙々と作業を続け、予定の時間までには頼まれた内容を全てやり終えることができた。


「ありがとうございます。おかげで助かりました」

 厩舎の担当者が戻り、二人に頼んだ作業が終わっているのを確認した頭を下げた。しかしエルネストが、申し訳なさそうに頭を下げる。


「こちらこそすみません。慣れない者がいたので散らばっていたり均等に入っていない所があるので、後で直してもらう必要があると思います」

「それくらい大丈夫ですよ。俺だって最初の最初は、そんなものでしたから。お嬢さん、嫌ではなかったですか?」

 エルネストの台詞を聞いてイラッとしたものの、確かに自分の仕事にムラがあるのは一目瞭然であり、マグダレーナは反論などしなかった。しかし作業着の男性が笑顔で声をかけてきたため、真顔で深々と頭を下げる。


「いえ、確かにご迷惑をおかけしたと思いますが、とても良い勉強をさせて貰いました。ありがとうございました」

「それなら良かったです」

 そこで笑みを深めた男性は、再度エルネストに向き直った。


「殿下が入学以来、色々な場所に顔を出して学園職員の仕事を手伝っているのは知っていましたが、どうして好き好んでこんなことをなさるんですか? 殿下の教育係とかに怒られたりしないんですか? まさか、進んで平民の仕事を手伝うように言うはずはないと思いますが」

 その問いかけに、マグダレーナは無言でエルネストに視線を向けた。対するエルネストは、彼女には向けない気安い笑顔で応じる。


「確かに、進んでしろとは言いませんでしたね。その方の仕事を奪ったり、迷惑をかけるのが明らかですから。私が言われたのは『自ら考えるのを止めてはいけない』でした」

「どういう意味でしょう?」

「自分と他人は違うから、本当の意味で全て分かり合えるというのはありえない。だからそれを目標に努力する。そのためには考えて、分からない事は想像して、想像できない事は行動して理解を深めるように務めろと言われました」

「はぁ、なるほど?」

 まだなんとなく要領を得ない顔つきの男に、エルネストは笑みを深めながら話を続けた。


「職員の皆さんと接して、皆さんの仕事の一端を手伝わせていただくことで、多くの事を知って実感できましたよ? 様々な物の物流とか市場の価格とか、家族や友人とどのような話をしたり生活しているのかとか、他にも色々。想像するだけでは補えない、貴重な時間でした」

「そんなものですか……。確かに王族だと、下々の事は良く分からないでしょうね。それではお二人とも、作業棟で着替えてお戻りください」

「分かりました。失礼します」

「お世話になりました」

 促された二人は、素直に頭を下げてから厩舎から少し離れた作業棟に向かって歩き出した。


「以前から思っていましたが、職員の方には結構気軽に話したり考えている事を口にするのですね」

 前方を見据えたまま、マグダレーナが淡々と口にする。それを耳にしたエルネストも、並んで歩きながら事もなげに言葉を返した。


「話す内容は、相手に応じて変えるものだろう?」

「そうですわね。殿下が常に諸々について深く考えておられるのは、良く分かりました」

「褒められている気がしないのだが」

「寧ろ、何も考えておられない方が良かったと思いましたので」

「期待を裏切って申し訳ない」

 どこか面白くなさそうに告げるマグダレーナを横目で見ながら、エルネストが失笑する。そんな彼を見返しながら、マグダレーナが宣言した。


「ここはやはり、先達に学ぶのがよろしいかと。想像できないのなら行動あるのみですわ。金言ですわね。それでは失礼します」

「は? あ、ああ……」

 ちょうど作業棟まで戻って来たため、マグダレーナは軽く頭を下げて出入り口から建物内に入り、制服を保管して貰っていた部屋に入って行く。


「何なんだ?」

 呆気に取られて彼女を見送ったエルネストは、小さく首を振ってから自らも着替えのため部屋の一つに入った。






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