第19話 『恋をする』
古都においての魔獣掃討作戦。
魔獣を殲滅し、結界を張る。
作戦開始から5日が経った。
結界は街全体の一割も進んでいない。
「広すぎる面積。そして多すぎる魔獣」
と、ヌンキがこぼす。
かつては80万人もの住民が暮らしていたと言われている古都アーテナイン。
魔獣は市街地から公園、古代遺跡にまであらゆる場所へ侵入している。
3人の星使いは数キロメートルの距離を地道に進み、殲滅してきた。
今も市街地にいる。
魔獣との戦闘中。
ヌンキがレグルスに向けて話す。
「だいたい魔獣を駆除して進んだ分、結界を張るって作業が時間かかり過ぎるんだよ!」
「仕方ないでしょ。こうしないと魔獣がまた入り口の方へ進んできて……」
「一からやり直しってか」
「街の地形が平坦じゃないから、見つけて仕留めるにも時間がかかる」
「だが魔獣の領域を狭めていくには、やっぱり人員が足りないな」
「あと一人応援が来るんでしょ?」
「サダルメリクだな。あいつ一人来たところであまり変わらないだろ」
「誰ですかねこんな作戦思いついたの」
「陛下だろ。あの人なら一人でもこの作戦を実行できそうだ」
「ああ。せめてアルタルフの姐さんでもいてくれたら結界関連は楽なんですけどね」
「あいつは違う禁域も管轄だからな。忙しいんだろ」
アルタイルは結界を張っている。
星使いの結界術は術者の思いのまま防ぎ、あるいは通す。
魔獣の侵入だけを拒み、人間の通行に支障はない。
アルタイル達が張っているのはそういう結界である。
夕刻。
この日の作戦は終了した。
帰りがけ、ヌンキが警備隊員の一人に呼び止められる。
アルタイルとレグルスは先に帰るよう言われたが、待った。
数分後、話を終えたヌンキ。
三人は別荘に帰還した。
次の日の朝。
朝食。
三人は食べる。
ヌンキが言う。
「という訳で。今日から俺達は休暇に入る。各々、心と体をゆっくり休めること」
「はい」
「は……はい」
魔獣だけを破壊する爆弾。
天秤座の星使い、ズベン・エス・カマリがその聖哲体を完成させたとの報告を昨日、警備隊員から受けた。
掃討作戦は一時中止。
爆弾を持ってくるのは、水瓶座のサダルメリク。
サダルメリクはその完成を待っていたとの事。
手続き上、すぐには地上に降りる事ができないそうで、到着は3日後となる。
アルタイルはヌンキに聞く。
「それでは私達が今までやってきたのはいったい」
「無駄だったな」
「そんなはっきりと」
「けど、その爆弾の威力がどれほどのものかは知らないが、それだけでケリがつくとも思えないんだよな」
「……?」
レグルスが会話に入る。
「魔獣を生み出す装置か何かが、あの街にある」
「!!」
「ああ俺もそう思う。魔獣があれほどの数になったのには理由がある気がする」
「それを破壊しない限り魔獣の増殖は止まらない」
「……そうなんですね。兄者も師匠もそこまで」
「いや、そんな気がするだけだぞ」
「俺も憶測に過ぎない。例の爆弾で全部片付けられるならそれに越したことはない。俺も一応は開発に協力したし。実験台としてだけど」
「とにかくサダルメリクが来るまで休みだ。二人ともしっかりと休めよ」
二日後の昼過ぎ。
アルタイルは森を散策した。
アリオン町で買った新しい手帳に、花の絵をたくさん描いた。
魔獣と戦った時も、その後修行をした時も、こうして森の中でゆっくりとした時間はあまり取れていなかった。
アルタイルは植物が好きだった。
誰かが近づいてくる。
アルタイルはそれにすぐ気がつく。
誰であるかもすぐに分かった。
魔力の可視化。
見えたのは水瓶座の星座図。
「君は鷲座のアルタイル。前に会ったときはまだ、そう、リリアだったね」
サダルメリク。
水瓶座の星使い。
16歳。男性。
髪の色は水色。服は水色と白。
優しい声。
美少年。
アルタイルは照れるように答える。
「あ、あの、憶えていてくれたんですね」
「なにが?」
「あ、えっと名前」
「ああ。憶えているよ」
「それにしても驚きました。サダルメリク様は、明日来ると聞いていたので」
「思っていたより手続きが早く済んだから。すぐにでもこいつを使えるよ」
サダルメリクが背負っている袋からは微かに魔力を感じる。
中には例の爆弾が入っている。アルタイルにも分かった。
サダルメリクから話す。
「今はみんな一応、休暇中だろ」
「そうです」
「良かったらこの辺案内してもらえないかな」
「この辺ですか?」
「僕も地上の自然が好きでね。こういう森を一度ゆっくり歩いてみたかったんだ」
「そうなんですか」
「君も、まだ花や木が好きなの?」
「えっ!?」
「小さいころ、そうだったから」
「あ、はい!……そうです」
アルタイルは顔を赤らめた。
顔を見られないよう後ろを向いた。
緊張していた。
「こちらに、沼がありますよ。沼と言っても水は綺麗に透き通っていて」
「うん。見てみたい」
「はい!案内します」
それからアルタイルはサダルメリクを案内し、森を歩いた。
色々と話した。
地上の話。
魔獣の話。
自分たちの話。
二人が最初に会った頃の話から、今それぞれ何をしているのかまで。
夕方。
二人は別荘に着く。
ヌンキとレグルスがサダルメリクを歓迎した。
アルタイルは三人を見て、気が付く。
サダルメリクを見て、思う。
アルタイルは、恋をしていた。
翌朝。
アルタイルは寝不足だった。
リビングにて。
独り言をつぶやく。
「そうか、私は、あの人の事が……」
「なんだ?」
レグルスがいた。
ソファに寝転がっていた。
アルタイルは動揺した。
独り言を聞かれた。
「お前、もしかして……」
と、レグルス。
アルタイルは混乱する。
「サダルメリクに惚れたのか?」
アルタイルは顔が赤くなり、頭の中は真っ白になった。
「え。あ、マジかよ。ごめん」
アルタイルは何も言わなかった。
レグルスは察して、またソファに寝転んだ。
少し間を置いてアルタイルはソファの正面に回り込む。
「あの、兄者」
「なに?」
「あの今の話……」
「いや誰にも言わねえけど」
「兄者ってサダルメリク様と仲がいいですよね」
「ん。まあそうだけど。あいつとそういう話はしたことがないぞ」
「そうなんですか?」
「ああ、ほとんどないな」
「そうですか」
「ごめんな、役に立たなくて」
「いえ、こちらこそ、なんかすみません」
今日が作戦再開の日。
アルタイルは朝食の準備を始めた。
レグルスは部屋に戻った。
サダルメリクは散歩に出かけていた。
ヌンキは二日酔いでうなされていた。




