第14話 『激戦は森の中で』
アリオン町の郊外にある眠りの洞窟。
そこから現れた植物型の魔獣を誘導し、森の中に入ったアルタイルとヌンキ。
彼女達はまだ魔獣と交戦していた。
森は深く、入り組む。
野鳥の鳴き声が響く。
魔獣は紫色の茨を何本も絡み合わせた体をしている。
棘という棘で地面をえぐり、樹木を傷つけ、這いずるように突き進む。
アルタイルとヌンキは身を隠しながらも、確実に森の奥へ逃げていく。
魔獣は速度を緩めつつも、やはり確実に二人を追ってきている。
ヌンキが喋る。
「このまま逃げてもきりがないな。一か八かアレをやるか」
アルタイルは聞く。
「アレってなんですか?」
「合体線術だよ。できるだろ?」
「ああ!はい!」
「たしか鷲座の星使いは、射手座の俺と同じで弓術が得意だったな」
「え、ええ。まあ」
「弓の聖哲体を出してくれ」
アルタイルとヌンキは弓の聖哲体を具現し、魔獣を待ち構える。
魔獣との距離は大分離れている。
しかしアルタイルはその姿を木々の合間から視界に捉えている。
「見えます。前方から近づいてきます」
アルタイルのその言葉に、ヌンキは前方に目を凝らし、言う。
「へえ、随分と目がいいんだな。俺には言われなきゃ分からなかったよ」
「それだけが取柄みたいなものですから」
「これは弓にも期待できるな」
「……」
「そろそろ合体線術の準備をするか」
合体線術。
二人以上で行う星使いの合体技である。
複数の星使いの魔力と、更には特異能力も共有できる。
この術は修行すればするほど、お互いの力の共有は深まり、増大に繋がる。
共に修行を重ねた三賢者の合体線術が強力なのも、その為である。
心を重ね、心を貸す。
二人は目を閉じ、同時に唱える。
「二つの星を、一つの力に」
ヌンキは緑色の魔力を、アルタイルは桃色の魔力を全身に纏う。
射手座の星座図と鷲座の星座図の、それぞれが名に持つ星が、輝く線で結ばれる。
合体線術が整う。
すると、魔獣は加速する。
二人を見つけた。
目はついていないので、見つけたというよりは魔力を感知したと言える。
木々をかわし、揺らし、うねうねと近づく。
「……」
二人は弓を構えたまま、無言のまま。
合図は要らない。
合体線術中の彼らの間には必要ない。
ある程度の意思疎通が可能となっている。
そして、今。
同時に、魔力の矢を具現し。
同時に放った。
二つの矢は輝き、途中で螺旋を描くように重なり魔獣目掛けて飛んでいく。
およそ現実の矢では考えられない動きだが、二人の想像通りの威力となって、矢は魔獣を襲う。
その寸前。
アルタイルの放った矢は、螺旋を外れ、明後日の方向に飛んでいった。
ヌンキの矢だけが魔獣にぶつかる。
魔獣は無傷。
「ぬっ!?なんだ!?えっ!!?」
と、ヌンキは驚き、唖然とした。
合体線術は、失敗した。
アルタイルは気まずくなった。
二人の意思疎通は、完全に途絶えていた。
「も、もう一度!ヌンキさん!もう一度お願いします!」
「いや、もう間に合わない!走るぞ!」
「ごめんなさい!!」
二人は合体線術を解き、また逃げた。
森に入ってからというもの、頑丈なあの魔獣に、二人は何度も挑戦していた。
個々に攻撃をぶつけ、ことごとく弾かれてきた。
今更、それをまた続けても無意味だと、諦めていた。
そんな二人にとって、合体線術は一か八かの賭けであった。
同じ星使いとはいえ、今日が会うのも初めて。
修行を重ねればその分、強くなる合体線術だが、勿論その逆もある。
相性の合う合わないの問題以前に、二人の面識の薄さも術にとっては致命的となる。
しかし今回の失敗は、更にそれ以前に、アルタイルの弓術が恐ろしく下手な事が最大の要因となっていた。
(なぜ先に言わなかったんだ)
と、ヌンキは疑問に思い、アルタイルは後悔した。
数分後、再び魔獣との距離を取った。
二人は息を切らし、その場で木に身を隠しつつ座り込む。
ヌンキが話しかける。
「俺は武器は弓専門でな。合体線術を使うにも、さっきのような攻撃しかできない」
「はい。すみませんでした」
「謝る事じゃねえよ。俺も思い違いをしていたからな。無理させてすまなかったな」
「いえ、こちらこそ黙っていて申し訳ありません。私、鷲座の星使いのくせに弓が下手なんです。矢が思ったように飛んだことなくて」
「一度も?」
「ええ、一度も。的に当てようとすればするほど、先ほどのように変な方向に飛んでいくんです」
「スペシャルへたくそなんだな」
「……ごめんなさい」
日暮れが近づいていた。
二人の魔力も消耗していた。
このまま夜を迎え、魔獣に追い続けられれば、二人は死ぬ。
いくら視力に自信のあるアルタイルでも、夜になれば魔獣を視界に捉えるのは容易な事ではない。
また魔獣から放たれる魔力を感知するにも、自身の魔力を消費せざるを得ない。
それを一晩中続ける魔力も気力も体力さえも、二人にはもう残されてはいない。
なんとか夜になる前に決着をつけたい。
二人の考えは合体線術を使わずとも一致していた、
「こうなったら封印術を使ってみるか」
と、ヌンキは提案する。
封印術。
あらゆる物、事象をその場で封印する、星使いにおいて最強の術である。
しかしその難度は高く、消費する魔力も膨大なものとなる。
この状態で失敗すれば、もう次の手は無い。
条件が限定されるものが多く、複数の星使いで連携して行われる事が多い。
二人だけで行うというのも、この状況では厳しい。
アルタイルは不安に思う。
その不安がヌンキにも伝わる。
やはり、この方法は無理だと諦める。
二人はまた話す。
「せめて、あの頑丈な茨をどうにかしないとな」
「ええ。私は何度か魔獣を退治しましたが、いずれもここを狙えば、というのがなんとなく分かるんですよね」
「ああ、俺も港に出たあのでかい魔獣を見た時に感じたよ。こいつの弱点はここだなって」
「はい。でもあの魔獣は全身が茨で、その弱点となる中心が覆われているんですよね」
「そういうこと。攻撃を受けた瞬間、その箇所は多少へこむんだよな。茨が押されて」
「でも貫通は出来ないんですよね。硬くて」
「へこむってことは、内部はがちがちに固まっているわけではなくて多少余裕があるんだよな。衝撃を吸収する為っていうのかな。移動する為なのか知らないが」
その瞬間、アルタイルは閃く。
「……ヌンキさん、一か八か、もう一度賭けてみませんか」
「なに?また合体線術か?それとも、まさか封印術でか?」
「いいえ、どちらとも違います」
「??」
数分後。
魔獣が迫る。
ヌンキは弓を構え、魔獣はその魔力を捉え、向かう。
ヌンキはまだ、矢を放たない。
魔獣とは10メートルほどの距離。
アルタイルが木の上から魔獣に飛びかかる。
と、言うより落下する。
魔獣は獲物を絡めとるように茨をうねうねと動かす。
アルタイルが完全にその茨の中に埋まる。
体を丸め、結界術で身を守り、堪える。
無数の棘が結界を削る。
星使いの結界術は、普段は術者の表面を透明に覆い、あらゆる障害を防いでいる。
衝撃も、熱や冷気も毒でさえも、術者の意のままに防げる。
また術者に必要な空気や光、体に摂取する食物などは意のままに通す。
自動的に魔力が消費され、途切れることなく張られている。
アルタイルは体を丸めながら思考する。
(思った通り!人一人分飲み込むぐらいの隙間は十分にあった)
残りの全魔力を結界に注ぎ込む。
透明だった結界が、桃色に光る。
結界の範囲を、広げる。
アルタイルを中心に球状に広がる結界は、絡まった魔獣の茨をぎしぎしと押し広げる。
(外から押してだめなら、内側から広げる!!)
それがアルタイルの考えであり、賭けであった。
広がって隙間ができた先に、赤紫に光る。魔獣の中心がちらつく。
ヌンキはそれを見逃さなかった。
瞬時に放たれたヌンキの矢は、茨の隙間を抜き、魔獣の中心を貫く。
魔獣は中心部分から順に、茨の先端まで砕け散っていった。
茨の魔獣を撃破した。
ヌンキがアルタイルに近づく。
アルタイルは、魔力を使い切った様子で疲れきっている。
ヌンキはアルタイルの魔力を可視化する。
星座図の星の光が無い。
今のアルタイルには聖哲体の具現も、結界を張る事もできない。
左の手の甲に傷を負い、また何か所か、服が血でにじんでいる。
結界が最後の最後で解け、棘が刺さっていたのだ。
刺さった棘は魔獣ごと消滅するも、傷だけが残った。
ヌンキは手のひらをアルタイルに向ける。
回復術を使う。
じんわりと緑色に発光した手を、傷に近づける。
「俺は回復術は得意じゃないんだ。痛みを和らげるぐらいの事しかできないぞ」
「ありがとうございます」
「魔力が回復したら、自分で治すんだな」
数分後、アルタイルは立ち上がる。
日も暮れてきた。
「ほらよ」
と、ヌンキに、預けていた背負い鞄を返される。
「ありがとうございました。大事な鞄を傷つけずに済みました」
「自分の体より鞄が大事か。本当に無茶な奴だ」
「ヌンキさんのおかげです。まさか一撃で倒してくれるなんて、本当に弓の扱いがお上手なんですね」
「ん。まあな。それだけが取柄みたいなものだから」
「……」
「で、お前はこれからどうするんだ?もうだいぶさっきの洞窟から離れたし」
「……そうですよね」
ヌンキは少し考え、話す。
「ところでこの先に、実は俺の別荘があるんだが、一緒に来るか?」
「別荘!?ヌンキさんって、地上に土地を持っているんですか?」
「あ、そこ?まあ、隠れ家みたいなもんだ。でもちゃんと許可は取ってあるんだぜ」
「いいんですか?泊めてもらっても」
「勿論いいぜ。結構広いし、部屋数も多いぞ。十二星座の連中も何人か遊びに来たことあるしな」
「凄いですね」
「じゃあ行くか。足大丈夫か?歩ける?」
「平気です」
「ここから5キロぐらい歩くけど」
「……へ、平気です」
二人は歩いた。
鞄はヌンキに持ってもらった。




