第11話 『調星機関』
調星機関。
星使い連合体を検査する為に組織された第三者機関。
その主な目的は『星使い同士の争い』を未然に防ぐ事である。
構成員は全て、星使いとは別の起源を持つ超能力者達により構成されている。
その本部は宇宙にある。
調星機関から二名の構成員が地上に派遣される。
一人の女性と、一匹の普通ではない猫が。
女性の名は、ナゴミ。
年齢は18歳。
髪は赤茶色で、長め。
黒と赤調の制服、スカートをはいている。
首元には明るい赤い数珠のネックレスを身に着けている。
普通ではない猫の名は、グレープ。
年齢は不明。
性別はオス。
金属質の銀色の仮面を被り、左の瞳だけ紫に光る。
体毛の色は灰色。ふさふさしている。
低めの男性の声で、人語を話す。
ナゴミとグレープは現在、アリオン町郊外にいる。
辺りは草原。
丘になっていて、海と街を見下ろせる。
正面から歩いてくる星使いアルタイルに、二名は気がつく。
「やあやあ!はじめましてアルタイル!私の名前はだねー」
「!!」
突然、4、5メートル距離から話しかけて近づいてきたナゴミに、アルタイルは驚く。
そして、たじろぐ。
「調星機関のナゴミ!こっちは同じく構成員の猫のグレープ!」
「俺はただの猫じゃねえ。特別な猫なんだ。ちゃんと説明しろ」
「と、このように人の言葉を喋るよ!よろしく!」
「よろしく頼むぜ。嬢ちゃん」
ナゴミとグレープの突然の自己紹介にアルタイルは圧倒され苦笑い。
「あ、あの三賢者のアルタイルです。はじめまして、よろしくお願いします」
「はい、よろしく頼むよ。立ち話もなんだから歩こうか。街がある。」
「はい」
「昼食は済ませた?なんなら一緒に食べようじゃないか!」
「あ、はい。ぜひ。」
二人と一匹はアリオン町の中心部を目指して歩く。
アルタイルとナゴミが会話する。
「ところで、調星機関の方達がなぜ地上に?」
「あー、ある任務でね。君に協力してもらいたくて待ち伏せしていた」
「協力。待ち伏せ?」
「連合体に聞いて君の任務内容は把握していたからね。そろそろと思って地上に降りたのさ」
「そうですか」
「私達の任務はね。ある人物を地上から排除すること」
「え?」
「とある星使いのね」
アルタイルは黙った。
グレープが言う。
「ナゴミ。それでは物騒だ。アルタイルが困るだろ」
ナゴミがグレープに目を向ける。
何も言わない。
グレープがまた言う。
「まずは対話だ。それが通じなかった時は武力を持って、だろ?」
ナゴミが、「そういうことか」という顔で頷き、喋る。
「りゅう座のトゥバン!」
「!!」
「行方不明になっていた六官の一人、りゅう座の星使いトゥバンが見つかったんだよ」
ナゴミの言葉に、アルタイルは理解し、思い出す。
聞いたことのある話。
りゅう座のトゥバン。
職位は六官。
女性。
地上に存在し眠る継承石を探索する務めを任されていた。
四年前より行方不明になっている。
「星使いってのはさ、死ねば、その力、その記憶は自動的に継承石に戻ってくるとされているんだろ?たとえ次元を超えても戻ってきたと記録にある」
と、ナゴミは言い、アルタイルは静かに頷く。
ナゴミが続ける。
「りゅう座の継承石には未だにその力は戻っていない。それがトゥバンが生きている、行方を眩ませている証拠だった。ここまで知ってる?」
アルタイルが答える。
「ええ。聞いてます」
二人と一匹は歩き続ける。
ナゴミがさらにアルタイルに話す。
「で、見つかったのさ。りゅう座のトゥバンが」
「この近くに?」
「そういうこと!アリオン町の北西。大きな森の近くに、太古より残る岸壁を掘った穴がある。地元では『眠りの洞窟』とか言われているらしい」
「眠りの洞窟。つまりは、そこに」
「いる。アリオン町の警備隊員がたまたま見つけたらしい」
「住んでいるんですか?そこに」
「いや、住んでいるというよりね。少し手がつけられない状態らしい」
「……?」
「聖哲体とか?封印術とか?私にはよくわからないんだが、とにかく動かせないらしい。言葉も通じるかどうかって状態らしい。見てないからなんとも言えないけど」
「そうですか」
アルタイルは納得し、改めてナゴミに尋ねる。
「それで、私は何をすればいいのでしょう」
「なに、簡単なことだよ。君にはただ」
ドドドンンン!!!
中心街が近い。海も見える。そこを見下ろせるそこで。
丘の上で三名は聴いた。
丘の下で、その大きな音が鳴った。
悲鳴が鳴る。
海岸から街中に向かう、巨大な人型の魔獣の一部が三名にも見える。
建物の影で全ては見えないが、それが建物より大きいのは分る。
アルタイルが道と丘の間の柵を飛び越え、駆ける。下る。
向かう。と、その時ナゴミが叫ぶ!
「おーい!どうする気ー!?」
ナゴミの方に顔だけ少し振り向き、だが前に走りながら、おそらく目線は合った。
「私は星使いなんです!!!」
アルタイルはそう言うと、前を向き更に全速力、を出すつもりで街に走った。
ナゴミとグレープはそれをその場で、無言で見た。
突如現れた巨大な魔獣に、街は混乱する。
逃げ惑う。
その真っ只中にアルタイルは入っていく。
人の波に逆らい、逆走し、魔獣を目指す。
アルタイルが向かうその先、まだ目前には程遠いその場所で、街中で、一人の
警備隊員が避難を誘導している。
「落ちついて!!慌てず避難を!!あれはこの前、海に現れた奴と同じです!!動きは鈍いぞ!!」
警備隊員の叫びは、住民の悲鳴と区別がつかず、空しく響く。
しかし、彼は逃げない。
住民の避難が完了するまで、彼らは逃げない。
そういう彼らがこの街にいる。残り続けている。
魔獣が来る海岸は南西。逃げる方角は皆、その逆。
しかし、その更に逆。海岸に向かう、警備隊員ではない、一人の男がいた。
ゆっくりと、歩き、魔獣の方へ近づく。
深緑色の髪の男が。
「落ち着いて!!丘の上へ避難しろー!!」
一人の警備隊員の寸前まで、魔獣は迫る。
魔獣の体長、約25メートル。
足音が、地面を押しつぶす破壊音。
恐怖に声が縮こまる。
恐怖が、眼前の建物の合間を埋める。
腰が抜け、尻もちをつく。
次の瞬間。
閃光が、空中を移動する。
魔獣の胸部に一本の光の矢が刺さり、貫く。
魔獣がゆっくりと、貫通した穴を中心に消えていく。
景色が戻っていく。
警備隊員の後ろに、その男は立っていた。
左手に弓を持った深緑色の髪の男は、ゆっくりと横を向き、さらに背を向けようとした。
「あ、あなたは!ま、まさか」
と、警備隊員は驚く。
弓を持った男は自らの口元に人差し指を当て、静かに微笑みながら、言う。
「お忍びで来ているんだ。誰にも言うなよ」
射手座の星使いヌンキ。
年齢、27歳。
職位は十二星座。
髪の色は深緑色。服は黒と緑。
アルタイルが駆けつけたのは、射手座のヌンキと警備隊員が言葉を交わすその瞬間であった。魔獣を貫く矢は見ていた。
アルタイルは、声をかけなかった。
アリオン町。
人口約11万人の港町。
潮風の香る、その街の北東には大きな時計塔がある。
ちょうどアルタイルと、あの二名が出会い、歩いてきた近くにある。
街のシンボルのその時計塔の全長は約110メートル。
海岸からでも時刻の分かる大きな時計盤。
その時計盤の下の見晴台にナゴミとグレープは、いた。
ナゴミは持っていた双眼鏡で、射手座のヌンキと、アルタイルも見た。
しばらく見ていた。
グレープがナゴミに聞く。
「で、これからどうする気だ」
「……行くよ」
ナゴミは双眼鏡を下げ、振り向き、歩く。
時刻はちょうど11時。




