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異世界チートで全員に溺愛される悪役令嬢の私が世界を壊すまで  作者: しらたま


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第27話 ラスボス死亡のお知らせ

「だって空虚の精霊王は、とっくに死んじゃったから」


 フェリクスの言葉に、その場の全員が凍りついた。


「……は?」


 最初に声を絞り出したのは私だった。


「死んだ? ラスボスが? 逃げたとかじゃなくて?」


「うん。死んでるよ」


 フェリクスは実にあっさり頷いた。

 いやいやいや。ゲーム知識が根底から崩壊したんだが?

 空虚の精霊王というラスボス抜きで、大団円ルート進めるとか無理くね?


「どういうことだ」


 ガレスが低い声で問いかける。


「俺たちが納得する説明をしろ」


「うーん」 


 ガレスが威圧するように身を乗り出すと、フェリクスは困ったように頭を掻いた。


「言えないんだよね」


「ふざけているのか」


「全然。僕はいつでも真剣だよ」


 満面の笑みで言うな。それを見てアシュレイも眉をひそめる。


「空虚の精霊王が死亡しているという情報だけでも十分国家規模の問題です」


「うん、そうだよねぇ」


「なぜ理由を言わないのですか?」


「今は、言えないから」


 フェリクスはヘラヘラとしていて会話にならない。

 ガレスの額に青筋が浮いた。アシュレイも苛立ちを隠せていない。

 ノアだけは無言だった。そして妙に表情が読めない。


「フェリクス、いい加減にしろ……!!」


 リオンが痺れを切らして大きい声を出した。


「そんな怒らないでよ……言わないのは、君たちのためでもあるんだよ」


 フェリクスが少しだけ困った顔をして、胸の前で手を合わせた。


「あ、お前逃げるつもりだろ。なら転移で私も王都に連れてけ!」


「ごめんね。僕の転移は、人間界の好きな場所へ移動できるものじゃないんだ」


 そのまま手首をくるりと回す。


「というわけで、僕は精霊界から見守ってるから、みんなは頑張って歩いて帰ってきてね」


 次の瞬間、フェリクスがその場からかき消えた。

 残された私たちは、薄暗いダンジョンの奥地で顔を見合わせるしかなかった。


◇


 封印の棺は空っぽで、番人の魔獣も倒した。これ以上ここに残って調べられることはない。

 私たちは地道に歩いて王都へ戻ることになった。


 帰路は妙に平和だった。ダンジョンを抜け、森を進む。戦いが終わったからか、みんな少し肩の力が抜けている。


「休憩しよう」


 リオンが言った。外はまだ明るかったが、歩き疲れた私にはありがたい提案だった。

 ガレスが手際よく焚き火の準備を始める。


「てか私たち、なんで徒歩で五人だけなの? 騎士団とか連れてきて馬車でくれば良かったじゃん」


「王家の封印を解くミッションなんて、公にできるわけがないでしょう。少しは考えてください」


 アシュレイが呆れたように私を見る。こいつ、なんか最近私に厳しくない? 前はもっと扱いが優しかった気がするんだけど。


 その後はガレスがスープを作り、アシュレイは何やら難しい書類に目を通し始めた。

 私は昼間にもかかわらず、水筒に残った僅かなお酒をちびちびと嗜んでいる。


「ノア、剣術の特訓をするぞ!」


 リオンが嬉々としてノアの元へ駆け寄った。 


「え、嫌ですけど」


「なんでだ? お前はあれだけ攻撃魔法も補助魔法もできるんだから、剣術もできれば俺のような器用貧乏になれるぞ!」


 リオン、器用貧乏は褒め言葉じゃねぇぞ。

 あとノアの魔法のレベルで剣術もできたら、それはただの最強ハイブリッド職であって器用貧乏ではない。


「結構です。私、本当に身体能力がゴミなんで」


 冷たい即答だった。


「いいから、やってみろ! ほら、俺の剣使っていいから」


 王家の剣をそんなに簡単に貸し出すなよ……と思ったが、元男子高校生のノアには高レアリティ武器の誘惑が刺さったらしい。少し目が輝くのを私は見逃さなかった。

 ノアは渋々立ち上がった。


「少しだけですよ……」


 リオンの剣を受け取り、ノアが不慣れな様子で剣を構えた。小柄な彼女が剣を持つ姿はどこかアンバランスだ。


「そうじゃない、もっと脇を締めろ」


「こうですか」


「違う、そこからグッと踏み込むんだよ」


「こう?」


「お、いいじゃないか。そうしたら思いっきり振れ!」


「えいっ」


 軽い掛け声と共にノアが振った剣は、手からすっぽりと抜け、綺麗な弧を描いて宙を舞った。そして、そのままアシュレイの毛先を掠め、地面に刺さった。


「……は?」


 アシュレイが一瞬呆気に取られ、次の瞬間にはこめかみを激しく痙攣させていた。


「殺す気ですか!!!?」


 公爵子息らしい品のよさもかなぐり捨て、大声で怒鳴った。


「いや、その、これはわざとではなくてだな……!」


 オロオロとノアの前に立ちはだかって庇うリオン。


「そういう問題じゃない! 刺さってたらどうするんだこのバカ王子!」


 リオンに向かってアシュレイが勢いよく立ち上がった瞬間、その肘がガレスの腕にクリーンヒットした。

 ガレスがまさに器によそっていた出来立てのスープが、盛大にぶちまけられる。


「熱っ! おいアシュレイ、何をする!」


「違います、これはリオンとノアが……!」


「言い訳はいらん、飯を粗末にする奴は許さん!」


 キレたガレスがアシュレイの首根っこをガシッと掴み上げる。


「は!? なんで私なんですか!?」


 ……なんかもう、こいつらめちゃくちゃだな。


「あは……ははははっ!」


 酒が回っていたせいもあるけれど、あまりにくだらない男たちの修羅場を見て、私は思わず笑い出してしまった。そのまま芝生の上でケラケラと笑い転げる。

 釣られたリオンが続いて吹き出し、それに引きずられるようにガレスも押し殺したように笑い始める。最後まで不貞腐れていたアシュレイも、観念したようにため息混じりに肩を揺らした。

 ノアだけは少し迷うように皆の顔を見回していたが、やがてもじもじと申し訳なさそうに口を開いた。


「あの……すみませんでした」


「私を殺そうとしたことですか? 許しませんよ」


 アシュレイが眼鏡を押し上げながら、ノアを睨む。


「いえ、そうではなく」


「は?」


「……私の魔法のこと、今まで黙っててすみませんでした」


 ノアは俯いたまま、ぽつりぽつりと続けた。


「私は……最初は皆さんに会うつもりはありませんでした。なので、一人でも生きていけるように攻撃魔法の特訓をしたんです」


 確かに、本来の聖女は補助魔法特化だから仲間の存在が欠かせない。一人で魔法を活かして生きていくには、攻撃魔法は必須だった。

 とはいえ、この世界では魔法に適性がある。本来の役割では必要のなかった攻撃魔法をあそこまで習得するには、血の滲むような努力が必要だったはずだ。

 一人で生き残るためにどれだけ必死だったんだろう。


「でも、力があると知られるたび、それを利用しようとする人が現れました。だから、できる限り隠していました」


 ノアは膝の上で指を握った。


「もっと早く打ち明けていれば、皆さんを危険な目に遭わせることもなかったし、余計な警戒をさせずに済んだと思います。追い詰められるまで隠していて、すみませんでした」


 そこまで言って、ぺこりと頭を下げた。ガレスとアシュレイは顔を見合わせ、軽く頷き合う。


「俺の方こそ、疑って悪かった」


「……あなたには結局、助けてもらっていますしね。事情も知らずに警戒して、すみませんでした」


 二人が少し照れくさそうにノアに詫びる。すると、リオンがそこに割って入った。


「俺とリゼは最初から信じてたぞ、ノア!」


「勝手に私を巻き込むな。ノアが怪しかったのは事実だけど、正直どうでも良かっただけだから」


 ぎゃあぎゃあと騒ぐ私たちを見て、ノアがようやく、心の底から嬉しそうに笑った。

 私たちの間には、どこか和やかな空気が流れた。


 ああ、なんか仲間って感じがする。こういうエモい感じ、前にもあったな。 

 ていうか、昨日も似たようなことを思った気がするけど……こういう雰囲気になるといつも何かが起きるような……。


 その瞬間、私の全身から、どろりとした黒い靄が爆発的に溢れ出した。


「ぎゃあああああああっ!!」


 全身を引き裂くような激痛に、私はその場へ崩れ落ちた。みんなが私の声に驚き、こちらに振り返る。


「リゼ!?」


「どうした!?」


 痛みで頭がぼやける中、私はどうにか叫んだ。


「呪いが再発した――!!」

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