↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界チートで全員に溺愛される悪役令嬢の私が世界を壊すまで  作者: しらたま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/33

第23話 孤高の公爵子息③

 その日の野営は、妙に静かだった。

 いつもならリオンがくだらない話を始め、ガレスが呆れながら相槌を打ち、私が茶々を入れる。

 そんな騒がしい空気は、どこにもない。

 焚き火だけが、ぱちぱちと乾いた音を立てていた。

 原因は誰の目にも明らかだった。昼間の戦闘――アシュレイが味方である二人を拘束し、連携を崩壊させた一件である。


「リゼ、その肉ですが」


 それなのに、当の本人だけは、何事もなかったような顔をしていた。


「少し焦げていますね。こちらと交換しましょう」


 私の串肉を自然に取り上げ、自分の焼き加減の良い方を差し出してくる。


「……ありがと」


 その様子を見ていたリオンが複雑そうな顔をし、ガレスは無言で肉をかじる。ノアだけが、おろおろと全員の顔を見比べていた。


(空気わっる……!)


 アシュレイはそんな空気の悪さに気づかないのか、気づいていないふりをしているのか。その冷静さが逆に怖い。ちょっと狂気すら感じる。

 耐えかねた私は、黙って酒瓶の栓を抜いた。ちなみに食事の前にも酒を飲んでいたので、総合的にはすでに結構な量の酒を飲んでいる。


「え、まさかまた飲むんですか?」


 アシュレイが眉をひそめる。いや、お前に引かれたくないわ。


「飲む。飲まなきゃやってられん」


 私はぐいっと一口あおる。強いアルコールの香りが鼻を抜けた。


「あー、生き返る」


 そのままハイペースで酒を胃に流し込む。よし、いい感じにアルコールが回ってきた。


「リゼ、それくらいにしてください。体に良くありません」


 止めようとしたアシュレイに舌打ちを返し、そのままさらにぐいと酒を飲み干す。体がカッと熱くなり、視界が心地よく揺れ始めた。


「リゼ……」


「うっせー、黙れ。お前細かいんだよ」


「……は?」


 アシュレイの表情が固まる。

 胸の奥で何かがぷつりと切れた。私は酒瓶を地面へ置き、アシュレイを真っ直ぐ睨みつける。


「歩き方がどうだとか、飲み過ぎるなとか、いちいちうるさい!」


「私はリゼのためを思って……」


「別に頼んでない。それで言うと、昼間の『一人で守る』とかも一切求めてないから!」


 アシュレイはしばらく硬直したあと、すっと席を立った。


「……もう結構です」


 しかし、私は最強の酔っ払い。そしてだる絡みのプロである。逃がすかよとアシュレイの腕にしがみつき、全力で絡み酒を続ける。

 社交界でもこれで嫌われた実績があるが、全く反省する気はない。


「ふーん、逃げるわけ? 気に食わない。実につまらない。せっかくなんだからさぁ、腹を割って話そうじゃないの!」


「離してください。酒臭い」


 アシュレイは私の顔を容赦なく手で押し戻そうとするが、酔っ払いの筋肉を舐めてはいけない。


「いちいち小言を言って、都合が悪くなったら逃げるとか器が小さすぎ! だからお前、友達いないんじゃねぇの!?」


 私の暴言に、焚き火の向こうでノア、リオン、ガレスの三人がぎょっとした顔をした。


「はぁ……?」


 アシュレイの顔色が変わった。あの怜悧な公爵子息が、初めて感情を剥き出しにして私を睨み返してくる。


「昼間のときもそうですけど、めんどくさいだの友達いないだの……あなた、失礼すぎませんか?」


「本当のことだろうが。じゃあいるのかよ、友達」


「リゼだって友達いないでしょう」


 くそ、図星だ。前世でも今世でも遊び相手や取り巻きはいても、腹を割って話せる友達なんて一人もいない。


「私はいいんだよ! ……男にはモテるから!」


 苦し紛れにそう吠えると、アシュレイはこれ以上ないほど冷ややかに鼻で笑った。

その小馬鹿にした笑い方が、猛烈に腹が立つ。


「論点を逸らさないでください。モテるかどうかと友人の有無は別問題でしょう。第一、私だって女性には非常に人気があります」


「ぐっ……」


 言い返せない。確かにアシュレイはモテる。彼との縁談を望む令嬢は星の数だけいるし、私など足元には及ばない。

 でも、腹が立つ。すごーく腹が立つ。

 私は酒瓶を掴み直した。


「……やっぱお前めんどくせぇな」


「言い返せなくなったらそればっかりじゃないですか」


 その時、焚き火の向こうで、ついにリオンが吹き出した。ガレスも笑いを堪えている。ノアは完全に呆れた視線で私たちを見守っていた。

 アシュレイはそんな男どもを鋭く睨みつけた。


「何笑っているんですか! だいたいねぇ! あなたたちがしっかりしていないから、私が注意しなければいけないんじゃないですか! 私が何も言わなければ、このパーティはとっくに崩壊しています!」


 急に飛んできた特大の火の粉に、リオンが慌てて手を振る。


「おい、こっちを巻き込むなよ……」


「いーえ、無関係ではありません。ここ数日、あなたたちに振り回されて私がどれだけ大変だったことか。私と戦闘で連携したければ、まずはそのアホな行動をやめてください」


「俺たちはそんなに信用ないか?」


 ガレスが少し呆れたように言う。


「信用じゃありません。失敗する可能性を考えれば、私が一人でやるのが最善です」


「いや、お前、私の近くにいるのは自分だけでいいとか言ってたじゃん。急に頭よさそうな理由つけんなよ」


 私は酒瓶を抱えたまま口を挟む。


「……私なら、確実に守れます」


「だからって、他のやつが助けるのまで邪魔する必要ある?」


 アシュレイが口を開きかけた。

 だが、言葉は出てこなかった。眉間に皺を寄せ、何かを堪えるように唇を引き結ぶ。


「……自分の目が届くところにいてほしいんです」


 先ほどまでとは違う、低い声だった。


「私の手で守っていれば、何が起きても自分で対処できる。ですが、他人に任せたら……」


 そこで言葉を切り、焚き火へ視線を落とした。


「……誰かを信用して失敗するくらいなら、自分で全部やった方がいい」


 焚き火がぱちりと音を立てた。誰も、すぐには何も言えなかった。


「……ほら」


 私は酒瓶をゆらゆらと揺らしながら、にやにやと笑う。


「だから友達いねぇんだよ」


「まだ言いますか!」


 アシュレイがここまで大声を出し、感情を露わにする姿など、全員初めて見たのだろう。

 またしてもリオンが肩を震わせ、アシュレイがそれを本気で睨みつける。


「笑うなリオン!」


 アシュレイはまだ何か言い返している。リオンも負けじと反論する。ガレスまで呆れたように口を挟む。ノアは困りながら止めに入っている。

 さっきまで重苦しかった空間が、いつの間にか騒がしくなっていた。


(……なんだ。ちゃんと本音あるじゃん)


 私はそれを見届けると、満足して酒瓶を抱え込んだ。


「……眠」


 そのまま後ろへ倒れ込む。


「あっ、リゼ!?」


 ノアの声が遠くなる。もう限界だった。眠い。


◇


 翌朝。昨夜の口論が嘘のように、私たちはダンジョンを進んでいた。


 リオンはいつも通り先頭を歩き、ガレスは周囲を警戒する。ノアは地図を片手に静かについてきていた。

 ……私はいつも通り二日酔いだ。


 アシュレイだけが、妙に口数が少なかった。


「来ます」


 ノアの声と同時だった。岩陰から無数の羽虫のような魔物が飛び出してくる。


「任せろ!」


 リオンが飛び出し、ガレスも剣を抜いた。

 魔物は数は多いが個々は弱そうだ。物理打撃よりも、広範囲魔法で一網打尽にするのが最も効率が良い。

 それを察してか、アシュレイが素早く前に出て魔法陣を展開した。


「大丈夫です。すべて消し去ります」


 アシュレイの鋭い詠唱と共に、魔物たちは一瞬で激しい業火に包まれ、燃え尽きた。

 魔物の気配が消え、安心したように魔法を解除した、その時だった。


「アシュレイ、後ろだ!!」


 リオンの鋭い声が響く。アシュレイが振り返ったときには、炎を逃れた生き残りの一匹が、すでにその鼻先まで迫っていた。

 完全に反応が遅れたアシュレイが、目を丸くする。

 しかし、横から割り込んだガレスの剣が、魔物を一刀両断にした。


「よし、今度こそ全滅だな」


 ガレスが剣を鞘に収める。アシュレイは自分の失態にショックを受けたのか、呆然と立ち尽くしていた。


「……すみませんでした」


 アシュレイの口から、ぽつりと掠れた声が漏れた。


「昨日のことも含めて……私は……」


 プライドの高いエリート公爵子息が、あんなに弱気な顔をするなんて珍しい。

 だが、リオンは不思議そうに首を傾げた。


「昨日? 何かあったか?」


「さあな」


 ガレスまで平然と言い放つ。アシュレイは目を瞬かせた。


「私は昨日、あなたたちを魔法で拘束して、勝手な真似を……」


「あー、あれか!」


 リオンは軽い調子で笑った。


「そんなこともあったな」


 ガレスも短く笑って、アシュレイの肩を軽く叩いた。


「誰だって失敗はする。次からまた、いつも通り連携すればいい」


 それだけだった。

 二人とも、アシュレイを責める言葉も、説教も、謝罪を求める視線すら向けない。ただ、当たり前のように隣へ戻ってくる。


 返す言葉が見つからないのか、アシュレイはただ二人を見つめていた。


――誰かを信用して失敗するくらいなら、自分で全部やった方がいい。


 昨夜、彼が吐き捨てたあの頑なな言葉。

 だけど、目の前の男たちは、アシュレイが失敗しても当然のように手を差し伸べた。


 仲間を信頼してもいいんだと気づき、アシュレイの表情が少しずつ柔らかくなっていくのが分かった。

 二人を見るあの冷たかった瞳に、人間らしい温かさが灯っている。


 酒飲んで説教した甲斐くらいはあったな。二日酔いの頭を冷ましながら、私は心の中で小さく笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。