担任への報告
翌日の昼休み。
俺と紬は、部活動の設立書類を持って職員室を訪ねた。担任は自分の机で弁当を食べているところだった。俺達に気付くと箸を止め、机の端に置かれていた書類を重ねて場所を空ける。
「どうした。設立要綱に分からないところでもあったか?」
「それもありますけど、その前に報告です」
「報告?」
「話し合った結果、新しい部活動を作ることにしました」
担任は驚いたように目を瞬かせた。一昨日は、読むだけならと書類を受け取ったばかりである。二日もたたないうちに設立を決めて戻ってくるとは思っていなかったらしい。
「随分早かったな」
「やることが決まれば、後は早いので」
担任は俺達が持ってきた設立申請書へ目を向けた。正式な記入はまだしていない。昨日の夜、紬が鉛筆で書いた二行だけが残っている。
「山府研究部?」
「仮の名前です」
「分かりやすくていいと思う」
紬は既に変える気がないらしい。
「具体的には、何を調べるんだ?」
「山府の人が、この土地でどんな生活をしているのかです。実際に街を歩いたり、人から話を聞いたりして、それを写真や文章で記録します」
「観光地としての山府ではなく、生活する場所としての山府を知りたいんです」
紬が付け加える。
担任は申請書を机へ置き、椅子の背もたれへ体を預けた。地理を担当しているだけあって、山府を研究するという活動自体には興味を持っているように見える。
「方向としては悪くない」
「では、設立できますか?」
「いや、ちょっと待て」
質問した紬に、担任が手のひらを向ける。
「問題は、既存の部活動との違いだ」
「同じような部があるんですか?」
「一つではない。地理部と歴史部、少なくとも二つと重なる可能性がある」
担任は申請書に書かれた二行目を指でたたく。
「土地の特徴や、そこで暮らす人々の文化を調べるのは地理部の活動だ。山府の古い町並み、寺社仏閣を調べるなら、歴史部とも重なる」
「俺達が調べたいのは、歴史や文化だけではありません」
「分かっている。だが生徒会の審議では、既存の部活動ではできない理由を説明しなければならない」
「似ているだけでも駄目なんですか?」
「完全に違う必要はない。しかし、活動内容がほとんど同じなら、別の部を作る意味がないと判断される」
それはもっともだった。部活動の数を増やすには、顧問となる教員や活動場所、予算も必要になる。既存の部に所属すれば済むことを、わざわざ新しい部として認めて貰うのは難しい。
「先生は地理部の顧問ですよね」
「ああ。だから、重なる可能性があると分かる」
「地理部は、普段どんな活動をしてるんですか?」
以前部活動を見学して回っていた時は、興味がなかったこともあり内容を覚えていなかった。
「私から説明することはできるが、それではお前たちが納得しないだろう」
担任は机の上にあったメモ用紙を一枚取り、二つの部室の場所を書いた。
「今日の放課後、実際に見てきなさい。地理部には私から話しておく。歴史部にも見学へ行くことを伝えておこう」
「その上で、違いを考えろと」
「そうだ。新しい部を作るなら、自分達が何をしたいのかだけではなく、他の部が何をしているのかも知っておいた方がいい」
担任はメモを俺へ差し出す。
「見学した結果、どちらかへ入りたくなったなら、それでも構わないぞ」
「先生が勧めた新設案はどうなるんですか?」
「未所属者が二人減るなら、私の仕事は一つ終わる」
やはり、部活動統括教員にとって重要なのは、俺達がどこかへ所属することらしい。
紬が担任を見る。
「私たちは、作るつもりです」
静かな声だったが、迷いはなかった。
「なら、既存の部との違いを見つけなさい」
担任はそう言って、途中だった弁当へ箸を戻した。




