退部という選択肢
説明が終わっても、しばらく誰も話さなかった。
最初に口を開いたのは室井君だった。
「自分達三人が山府研究部を退けば、生徒会が問題にしていることは解消するのか?」
室井君、雪白さん、大竹さん。現在の部員のうち、六家の人間は三人である。三人が退部すれば、六家の部員が協力を求めることはなくなる。
ただし、残るのは俺と紬だけだ。設立に必要な五人を満たせなくなる。
「少なくとも、六家の部員から頼まれたら断れないという問題はなくなる」
俺は正直に答えた。
「でも――」
「私は退部しないわ」
雪白さんが遮った。
室井君が雪白さんを見る。
「しかし、自分達が残ることで設立できないのであれば」
「六家の人間を部活動から外せば、見かけ上は問題がなくなるでしょうね」
雪白さんの声は落ち着いていた。
「でも、それは解決ではないわ」
「どういう意味だ?」
「私たちは、一般の生徒と同じように部活動へ参加できないと認めることになる」
雪白さんは匿名の確認票へ視線を落とす。
「実際に不利益を与えたのなら、その責任は取るべきよ。でも、何かするかもしれないという理由だけで退部するつもりはないわ」
室井君は黙った。やがて、確認票を見る。
「自分も、誰かへ不利益を与えた事実はない」
「ああ」
「ならば、周囲の想像だけを理由に、自分で決めた入部を撤回することはできない」
室井君も結論を出した。
紬が大竹さんを見る。
「華恋さんは?」
大竹さんはすぐには答えなかった。少なくとも、自分を嫌っていると書いた者はいなかった。しかし、自分の頼みを断れなかった者はいる。
匿名の回答から言えるのは、そこまでだった。
「わたくしは、皆さまが喜んで下さっていると思っておりました」
いつもの自信に満ちた声ではなかった。
「ですが、本当はお嫌でも、わたくしには言えなかったのかもしれませんのね」
誰も否定できなかった。
大竹さんは俺を見る。
「司さんは、わたくしが九人を連れてきた時、すぐに多すぎるとおっしゃいましたわね」
「実際、多すぎたからな」
「途中で、黙るようにも言われました」
「他の人が答える前に、華恋さんが全部話してたから」
紬も付け加える。
大竹さんは少しだけ笑った。
「六花さんも、わたくしが間違えれば、すぐに訂正なさいます」
「間違えているからよ」
「そういうところですわ」
大竹さんは雪白さんへ笑いかけた後、匿名の確認票を机へ戻した。
「わたくしも、退部いたしません」
今度の声には、いつもの強さが戻っていた。
「皆さまが断りたい時に断れるようにする方法を、ここで学びますわ。大竹家の名前を置いて逃げたのでは、何も分からないままですもの」
三人とも退部しない。
それは、設立のために問題を無視するという意味ではなかった。六家であることを理由に、普通の生徒と同じ場所から退くことを拒んだのだ。
話し合いが一段落すると、湯田さんが紬へ声をかけた。
「先日の見学記録のうち、私について書かれた部分は、そのまま残していただいて構いません」
紬が湯田さんを見る。
「私たちが同行したことで、杉原さんが断りにくくなっていたのであれば、そのことも含めて記録して下さい」
星君も頷く。
「俺についても同じです。必要な確認があれば、改めてお答えします」
「二人が悪いわけじゃない」
紬が言う。
「はい。ですが、私たちがいることで、相手の態度が変わる可能性はあります」
湯田さんは静かに答えた。
校外活動が始まった時、杉原さんは雪白さん、湯田さん、星君の顔を見て緊張していた。
中古本やゲームセンターの話をするうちに、その緊張は解け、後には自分から次の店を紹介すると約束し、雪白さん、湯田さん、星君の三人を描いた絵も渡している。
それでも、最初から三人を普通の同級生として見ていたわけではない。
「山府研究部が、この問題へどのような答えを出すのか、もう少し、見学者として見届けてもよろしいでしょうか」
湯田さんが俺達を見る。
「今すぐ入部するつもりはない?」
「はい」
湯田さんは迷わず答えた。
「ですが、私たちには関係がないと言って離れるつもりもありません」
星君も異論を示さなかった。




