部活顧問のお願い
最後に、顧問氏名が残った。そこだけは、五人で話し合って決められるものではなかった。
「この部活動を作るきっかけになった人に、会いに行くか」
申請書を一通り書き終えた俺達は、そのまま職員室へ向かった。俺と紬だけで持っていってもよかったが、大竹さんが全員で行くことを提案した。
「設立時の部員が揃っているのですもの。皆さんで確認していただくべきですわ」
室井君は反対せず、雪白さんも、自分の入部届を確認して貰うために同行した。
五人で職員室へ入ると、何人かの教師がこちらを見た。
六家の三人を含む五人がまとまって来れば、目立つのも当然だった。担任は、机の上で資料を整理していた。
俺達に気付くと、手を止めて顔を上げる。
「五人揃って来たということは、申請書ができたのか?」
「はい。確認をお願いします」
俺は設立申請書を差し出した。続いて、預かっていた雪白さんと大竹さんの入部届も机へ置く。担任は引き出しから、以前受理していた室井君の入部届を取り出した。
三枚を並べ、記入欄と保護者の署名を順番に確認する。
それから、設立申請書の所属予定者へ目を移した。
「相田司、相田紬、室井武尊、雪白六花、大竹華恋。思っていたより早く五人揃ったな」
担任は驚いているようだったが、否定的な様子はない。むしろ、必要な人数が集まったことを喜んでいるように見えた。
「二人とも、活動内容を確認した上で、自分から入ってくれました」
俺が説明すると、雪白さんも答える。
「参加する価値があると判断しました」
大竹さんは胸へ手を当てた。
「わたくしも、自ら入部を希望いたしましたわ!」
「分かった。二人とも本人の意思で参加しているなら、問題はない」
担任は入部届をまとめ、設立申請書へ戻った。最初に団体名を確認する。続いて、代表者の欄で視線を止めた。
「部長は相田司か」
「はい」
「今まで準備を進めていたのも相田たちだから、その形が自然だろうな」
自分から立候補したわけではないが、わざわざ説明する必要はないだろう。担任は、その下にある活動目的を読む。
最後まで読み終えると、もう一度最初へ戻った。
「最初に相談を受けた時より、目的がはっきりしたな」
「最初は、母の漫画に使える資料を集めるためでした」
俺は机の上に持ってきた記録を置く。
「でも、実際に話を聞いて、放課後の行動を見せて貰ったら、それだけで終わらせるものではないと思ったんです」
担任は、昨日撮影した写真へ目を向ける。その横には、紬がまとめた聞き取りの記録が添えられている。
「今の山府で暮らしている人にとっては、当たり前のことです。でも、当たり前だから、どこにも残っていませんでした」
「それを、後から調べられる記録にするわけか」
「はい」
担任は申請書へ視線を戻す。
「これなら、何を作るための活動なのかが分かる。地理部や歴史部とも、目的を分けられそうだな」
担任の指が、個人情報について書いた箇所で止まった。
「住所や、本人が残すことを望まない情報は記録しない。撮影も本人や施設の許可を得た場合に限る、と」
「個人の生活を扱うので、最初から書いておいた方がいいと思いました」
「そうだな。この部分は大切だ」
担任は頷く。
「本人が話してくれたことでも、全て残して良いとは限らない。記録した内容を本人に確認して貰う手順も、これから考えた方がいいだろう」
「分かりました」
紬が答えた。
担任は、活動日の欄へ進む。
「平日は毎日活動する予定、校外へ調査に行くのは、週に一、二回」
「それ以外の日は、校内で文字起こしや写真の整理をします。全員が毎日参加するのではなく、来られる人で役割を分ける予定です」
「調査へ行く日だけが活動ではないということか」
「はい」
担任は、写真に添えられた記録を手に取った。
「歴史資料として残すなら、集めた後の作業も必要になる。この組み方なら、部活動として続けていけそうだな」
そのまま、設立準備中に作った他の記録にも目を通す。
「記録しなければ残らないのは、そのとおりだ。ただ、何でも同じように保存すると、本当に必要な情報を探しにくくなる」
担任は記録を閉じる。
「正式に活動を始める前に、何を記録し、何を資料として保存するのか、一緒に基準を考えよう」
「分かりました」
紬は素直に頷いた。担任は申請書の最後へ目を移す。まだ何も書かれていない、顧問氏名の欄だった。
「残っているのは、顧問だけか」
担任は申請書を机の上へ置いた。
「活動内容を見る限り、地理担当の俺が顧問を引き受けるのが一番話は早そうだ。職員会議で認められれば、俺が担当しようと思う」
「先生、地理部と鉄道研究部の顧問もしていますよね」
俺は以前、部活動について相談した時に聞いた話を思い出す。
「山府研究部は平日の毎日活動する予定ですけど、大丈夫なんですか?」
「心配してくれてありがとう」
担任は申請書の活動日を確認する。
「地理部と鉄道研究部には、それぞれもう一人ずつ顧問がいる。山府研究部も、毎日全員で校外へ出るわけではないんだろう?」
「はい。参加できる人で活動します」
「それなら、日程は調整できると思う」
担任は、校内活動と校外活動について書かれた箇所を順番に示す。
「校内で活動する日は、始める時と終わる時に声をかけてくれ。時間が取れる時は、整理した記録も確認する」
「分かりました」
「校外へ出る日は、参加する部員と行き先、戻る予定の時刻を事前に知らせて欲しい。活動内容によっては、俺か、他の先生が同行する形にしよう」
担任は穏やかな調子で続ける。
「新しく作る部なんだから、最初から全てを決める必要はない。分からないことがあれば、その都度相談してくれ。実際に活動しながら、続けやすい形を一緒に考えよう」
「ありがとうございます」
俺達は揃って頭を下げた。
「この内容なら、俺も顧問として無理なく見ていけると思う。今日の職員会議で話してみるよ」
担任は、設立申請書、年間活動計画書と三人分の入部届をまとめる。
「今日は書類を預からせて貰う。職員会議で問題がなければ、週明けの朝に署名して返すよ」
「その後は、生徒会へ提出すればいいんですよね?」
「ああ。生徒会で設立が承認されれば、正式な部活動になる」
「分かりました。お願いします」
俺達はもう一度担任へ頭を下げ、職員室を出た。




